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第三十四話「ギルベルトの実力」

 フェスカが切りかかってくると、俺は右手に持ったブロードソードでフェスカの攻撃を受けた。バシリウス様との訓練で、彼の殺人的なランスの攻撃を何度も受けたからか、フェスカの攻撃があまりにも軽く感じる。自分よりも遥かに強い戦士の剣を受け続けたからか、フェスカの攻撃には恐怖心すら感じない。


 バシリウス様の厳しすぎる訓練が俺を成長させてくれたのだ。俺は左手に持ったグラディウスで突きを放つと、フェスカは瞬時にグラディウスの一撃を受け流した。俺はミノタウロスの戦士の戦い方を教わった。バシリウス様の戦い方は非常に力任せだ。


 有り余る力で敵を叩き潰す。それがバシリウス様の戦い方だ。俺は彼から戦闘の指南を受けてから、戦闘の際に武器に魔力を注ぎ、攻撃を威力を強化する術を学んだ。右手に持ったブロードソードに火属性の魔力を注いで炎を纏わせる。


 俺が無詠唱のエンチャントを使用したからか、ギルド内は大いに盛り上がった。それから左手に持ったグラディウスに雷の魔力を注ぐと、グラディウスの刃には雷が纏わりつく様に発生した。


 二種類のエンチャントを同時に使用すれば魔力の消費も多いが、敵は非常に戦いづらくなる。敵が火の魔法に対抗して水の魔法を使用すれば、雷の魔法が更に有利に使用出来る様になるからだ。異なる性質を同時に使うのは、高度な魔法技術だと魔術師の母から聞いた事があるが、まさか俺が二種類のエンチャントを同時に使用出来る様になるとは思わなかった。


 フェスカがロングソードを構えて強烈な突きを放つと、俺はグラディウスでフェスカの剣を受け、右手に持ったブロードソードで水平斬りを放った。フェスカは瞬時に後退し、俺の剣は虚しく空を切った。フェスカは明らかに動揺している。


 ついこの間まで、俺はフェスカ剣を受ける事すら出来なかった。ローラの回復魔法がなければ、俺はフェスカに瞬殺されていただろう。それが今日は対等以上に渡り合えているのだ。ローラはというと、ヴェロニカ様の手を握りながら楽しそうに俺とフェスカの戦いを観戦している。


 彼女は俺が勝利すると考えているのだろう、ローラの表情には不安の欠片も感じられない。愛するモンスター娘を守る者として、彼女達を愚弄する者を決して許すつもりはない。殺されたレッサーミノタウロスの戦士達の恨み。俺が必ず晴らさなければならない。


 強いだけで人間らしい心すら持たない、非常に冷酷なフェスカが賞賛されているギルドの現状も気に入らない。確かにフェスカは強いし、モンスター討伐数も多いのだろう。己の剣でヘルゲンに暮らす人達を守っているに違いない。


 しかし、害の無いレッサーミノタウロスの様な中立のモンスターを殺める行為は許されて良い事ではない。ギルドメンバー達は手放しでフェスカを賞賛しているが、ヴェロニカ様も俺と同じ考えを抱いているから、レッサーミノタウロス達の居場所を用意してくれたのだ。


 魔術師のバルバラ・ゴルツが杖をフェスカに向けると、フェスカの剣には強い炎が纏わりつく様に燃え上がった。流石に魔術師が使用するエンチャントだから、俺のエンチャントよりも遥かに強烈な炎を纏っている。フェスカ自身は魔力を温存する事ができ、ゴルツはエンチャントの威力を上げる事に専念している。


 実質二対一という訳だ。しかし、無数のケンタウロスに囲まれた時の恐怖と比べれば、フェスカとゴルツが協力したところで俺は恐れすら感じない。俺は自分の正しさを己の剣で証明してみせる。俺は剣で民を守る冒険者になるために、十五歳で成人を迎えて旅に出たのだ。


 自分の正しさを証明し、愛する仲間を守れる冒険者になる。これからも数多くの敵と剣を交える事になるだろうが、バシリウス様から教わった戦いの技術で切り抜けてやる。


 フェスカが剣を振り下ろすと、剣の先からは三日月状の炎の刃が飛び出した。一体この魔法はなんなんだ? 武器から遠距離魔法を発生させるとは。信じられない戦闘技術だな。俺はグラディウスとブロードソードを交差させてフェスカの魔法を受けると、炎の刃は魔力を散らして消滅した。


 突然の遠距離魔法に狼狽した瞬間、フェスカが一瞬で距離を詰め、鋭い垂直斬りを放った。回避が間に合わず、フェスカの剣が俺の頬を切り裂いた。やはりフェスカの方が戦闘経験が豊富だから、一筋縄ではいかないのだな……。


 瞬間、ギルドの扉が激しく開くと、突風の様な魔力が流れてきた。頭部から白い猫耳が生えた少女がゆっくりと近づいて来ると、右手をフェスカに向けて魔力を放出した。


『ウィンドショット!』


 右手からは圧縮された風の魔力が発生し、魔力の塊は一瞬でフェスカの顔面を捉えた。無防備の状態で魔法を喰らったフェスカは、後方に二メートルほど飛ぶと、力なく床に倒れた。


「ギルベルト。久しぶりね」

「シャルロッテ!」

「やっぱりギルベルトは私が居ないと駄目なのね」

「助かったよ」


 久しぶりに会うシャルロッテは満面の笑みを浮かべて俺を見上げると、俺はシャルロッテに援護を頼んだ。ゴルツが怒る狂って火の魔法を飛ばしてきたが、シャルロッテは涼しい表情を浮かべて両手を突き出した。


 瞬間、シャルロッテの前方には水の壁が発生した。いつの間に水属性の魔法を覚えたのだろうか? ヴェロニカ様がシャルロッテに微笑むと、彼女は意味ありげに頷いた。それから水の壁を解除したシャルロッテは、ウィンドショットと水の球を飛ばすウォーターボールの魔法を交互に放ち、ゴルツが反撃する暇の無く、壁際に追い込んだ。


 全身に水の球と風の塊の連撃を受けたゴルツは力なく倒れた。シャルロッテは俺達と別れてから、ヘルゲンで魔法の練習をしていたのだろう。ヴェロニカ様と目配せをしていたから、もしかするとヴェロニカ様から魔法を教わっていた可能性もある。


 ゴルツの敗北を目撃したフェスカが怒り狂って襲い掛かってきた。俺はフェスカの剣を左手に持ったグラディウスで受けると、右手に持ったブロードソードから雷撃を発生させた。


 左右の剣に自在にエンチャントを掛けられるから、ブロードソードから雷撃を放つ事も出来るのだ。相手はブロードソードに掛かっている火の魔力に警戒しているだろうが、瞬時に雷の魔力を纏わせ、切先から雷撃を飛ばす事も出来るのだ。


 これが俺が編み出した戦闘技術だ。バシリウス様の様に力づくで相手をねじ伏せる事は出来ないが、左右に掛けたエンチャントを使いこなして敵を翻弄する。俺は自分自身の戦い方を編み出したのだ。これもバシリウス様が激しすぎる訓練を付けてくれたお陰だ……。


 俺が放った雷撃はフェスカの鋼鉄のメイルに当たったが、メイルは魔法攻撃に耐性があるのか、フェスカは不敵な笑みを浮かべて再びロングソードを構えた。剣から雷撃を飛ばすよりは、実際に切りつけて雷の魔力を敵に注いだ方が威力が高い。しかし、フェスカ相手に剣を喰らわせる事は非常に難しい。


 フェスカがシャルロッテを巻き込む様に水平斬りを放ったので、俺は瞬時に剣を鞘に仕舞い、シャルロッテを抱きかかえて飛び上がった。羽根付きグリーヴの効果を知らないシャルロッテは、驚きの余り可愛らしい猫目を見開いて俺を見つめた。


 ギルドの天井スレスレまで飛び上がると、俺は腰に提げていた鉄の球を握り、フェスカに目掛けて投げつけた。フェスカは鉄の玉を受けずに華麗に攻撃を回避すると、鉄の玉は方向を変えてフェスカに襲い掛かった。鉄の玉が執拗にフェスカを追い回し、フェスカ自身の回避能力が高いからか、なかなか鉄の球がフェスカを捉える事がない。


 そんなフェスカの様子がまるで踊りを踊っている様に見え、とてつもなく滑稽だったので、ギルド内には笑いが溢れた。俺はシャルロッテを抱き抱えたまま着地すると、彼女は楽しそうに白い尻尾を振った。


 鉄の玉が遂にフェスカを捉えると、フェスカは強烈な物理攻撃を受けてロングソードを落とした。今が攻撃のチャンスだ。俺は右手でブロードソードを構えてフェスカに向けると、シャルロッテが俺の隣に立ち、左手をフェスカに向けた。俺達は目配せをすると、同時に魔力を放出した。


『ファイア!』

『ウィンドショット!』


 シャルロッテが放った風に俺の炎が融合すると、炎を纏う爆発的な風の塊がフェスカの胴体を捉えた。俺達の魔法はフェスカの体を軽々と吹き飛ばし、フェスカはギルドの壁に激突した。それでも魔法の威力は弱まらず、遂にギルドの壁が崩壊した。フェスカは炎を纏う爆発的な風に押され、遥か彼方まで飛んで行った……。

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