第三十話「戦士の決意」
簡易的ではあるが、石造りの家と小麦畑が完成したので、俺達はついにレッサーミノタウロス達と別れる事にした。ヘルゲンではシャルロッテやヴェロニカ様、アンネさんが俺達の帰りを待ってくれている訳だから、必要以上に長居する訳にはいかないのだ。
バシリウス様は俺の召喚獣だから、召喚魔法を使用すればいつでも呼び出す事が出来る。彼とはきっとまたすぐに会えるだろう。レッサーミノタウロス達は俺とローラを何度も抱きしめ、私達を救ってくれてありがとうと何度もお礼を言った。
「ギルベルト、暫く別れる事になるが、次に会う時は俺はもっと強くなるからな」
「ラルフ。俺も更に強くなるよ。今回の旅で俺は自分の弱さを実感したからね」
「ギルベルトは我々に沢山の贈り物をくれた。広大な大地、ケンタウロス族との戦いの勝利! それにローラは立派な家と畑を作ってくれた。これから俺達はこの土地で暮らし続けるだろう。いつでも戻って来るのだぞ。俺達はギルベルトとローラの家族なんだからな」
「ありがとう……。ラルフ」
俺とローラはラルフと握手を交わすと、エリカがゆっくりと近づいてきた。
「ギルベルト。私を廃村で救ってくれてありがとう。ギルベルトが居なかったら私はきっと死んでいた……。私の命はギルベルトのもの。私達戦士は受けた恩を決して忘れない。どうか私をギルベルトの仲間に入れてくれないかな……」
「エリカ……」
「ローラは良いと思うよ。エリカは優しいし、料理だって上手だし」
『僕も賛成だな』
エリカが目に涙を浮かべながら俺を見つめ、ゆっくりと俺の手に触れると、錬金術師の指環が輝いた。エリカの体は美しい金色の光に包まれ、次の瞬間、頭部から二本の黒い角が生えた背の高い女性が姿を現した。まさか、エリカを封印してしまったのだろうか?
一糸まとわぬ姿のエリカが慌てて体を隠すと、変わり果てたエリカの姿にラルフは言葉を失い、バシリウス様は驚きの余り座り込んでしまった。身長は百七十センチ程。髪と目の色はレッサーミノタウロス時代と同じ紫色。人間の女性よりもかなり筋肉が発達している様だ。
俺はマジックバックから着替えの服をエリカに渡すと、彼女は赤面しながら男物の服を着た。やはり頭部から角が生えているからか、ローラよりもモンスター娘感が溢れている。
エリカはすっかり変わった自分の体を何度も確認すると、満面の笑みを浮かべて俺に抱きついた。彼女の豊か胸が俺の体に触れると、何ともいえない幸福を覚えた。それからラルフは何度も『エリカを頼む』と言い、涙を流しながらエリカを抱きしめた。
「私、人間になれたのね……」
「そうだよ。これからは俺がエリカを守るからね」
「ありがとう、ギルベルト。私もローラみたいに人間になれたらいいなって思っていたの。だって、レッサーミノタウロスの姿ではギルベルトと一緒に居られないから」
「エリカ可愛い! 白猫ちゃんもきっと喜ぶよ!」
「そうだね。シャルロッテも歓迎してくれると思う。俺達のパーティーに頼れる戦士が加入してくれたのだから」
「ギルベルト。エリカを宜しく頼むぞ。私の力が必要になったら、いつでも呼び出すが良い。ミノタウロスの戦士、バシリウスが命を懸けてギルベルトを守ろう」
「ありがとうございます、バシリウス様。それでは我々はヘルゲンに戻ります。今度は仲間を連れて遊びに来ますね」
「うむ。いつでも遊びに来るが良い! 私達はギルベルトとローラの家族なのだからな」
バシリウス様は優しい笑みを浮かべ、俺達を出口まで送ってくれた。俺達は屋敷を出ると、エリカにガーゴイルの羽衣を渡した。エリカは既に羽衣の効果を知っているので、ガーゴイルの羽衣を身に纏って、体の大きなガーゴイルの変化した。
ガーゴイルに姿を変えたエリカが俺達を持ち上げると、俺達はヘルゲンに向かって空の旅を始めた。戦士達との別れは少し寂しいが、ガーゴイルの羽衣を使えばヘルゲンからフロイデンベルグ公爵様の領地までは二、三日で移動出来るだろう。徒歩で移動するよりも遥かに速い速度でこの地に戻ってこられるのだ。
日中はガーゴイルに姿を変えたエリカに運んで貰い、夜を迎えたら森で野営をする。エリカは毎日俺達のために夕食を用意してくれるので、俺達はエリカの料理が出来るまで魔法の訓練をするの事にしている。
今日も移動を終えてエリカが料理を始めたので、俺は狂戦士達を呼び出して魔法の相手をして貰う事にした。俺が攻撃魔法を使用して、狂戦士達が魔法を受ける。ローラは攻撃を受けた狂戦士達に回復魔法を掛けて援護するといった内容だ。
右手には火の魔力を込めたブロードソードを持ち、左手には雷の魔力を込めたグラディウスを持つ。左右の剣で狂戦士達の攻撃を受けながら、相手が隙きを見せた瞬間には瞬時に頭上高く飛び上がり、二本の剣を振り下ろして火炎と雷撃を喰らわせる。
羽根つきグリーブの驚異的な跳躍力は戦闘時に大いに役に立つ。上空に飛び上がってしまえば、魔法攻撃が出来ない相手は俺の攻撃を防御するしか選択肢がなくなるからだ。着地するまでにサンダーの魔法とファイアの魔法を連発すると、狂戦士のリーダーがロングソードで俺の魔法を切り裂いた。
生前は一体どれだけ強いモンスターだったのだろう。俺の魔法はリーダーの剣によって切り裂かれてしまうので、残る四体の狂戦士達にダメージを与える事も出来ないのだ。激しすぎる戦闘訓練をしていると、エリカが夕食の支度を終えたので、俺達は狂戦士達に葡萄酒を振る舞い、エリカが作った料理を共に頂いてから、『戻れ』と命令して魔法陣の中に戻した。
「エリカ、いつも食事を用意してくれてありがとう」
「どういたしまして。ギルベルトとローラの口に合うといいのだけど」
「ローラはエリカの料理大好きだよ」
「本当? それは嬉しいわ」
人間として生きる事に慣れてきたのか、頭部に二本の角が無ければ、どこからどう見ても人間の女性にしか見えない。それも、レッサーミノタウロスだったからか、人間には無い独特な雰囲気がある。外見の年齢は十八歳程だろうか。背は高く、筋肉質なのだが、胸はローラに負けず劣らず大きく、時折彼女の豊かな胸に目が行く事がある。
そういう時は大抵ガチャの声が脳内に響き、『理想のハーレムまであと少し!』なんて冗談を言うのだ。最近はガチャが本気で俺にハーレムを作らせようとしているのではないかと思う事がある。モンスター達を封印してモンスター娘の仲間が増えれば、他人からすれば俺のパーティーはハーレム状態に見えるだろうな……。
「ギルベルト、ローラはお風呂に入りたいな」
「分かったよ。それじゃローラ。お風呂を作ってくれるかな」
「うん!」
ローラは家造りの際に石の魔法で風呂を作る技術を身に着けたのだ。ローラが天地創造の杖を振ると、野営地には瞬く間に石の家が出来た。室内に入ると小さな浴室がある。俺は賢者のゴブレットを持って水を作り出し、浴槽に水を溜めた。それから水に手を入れて火の魔力を込めると、水は徐々に温度が上昇してお湯に変わった。
ローラは美しい金色のローブを脱ぎ捨てると、俺の手を握って風呂に入った。俺はローラが風呂に入る時はなぜか必ず一緒に風呂に入る事になっているのだ。元々体を洗う習慣が無かったからか、俺がローラの体を洗わなければ、彼女は自分の体に付いた汚れを舐め始めるのだ。
俺は恥ずかしさを隠しながら服を脱ぎ、ローラと共に湯船に浸かった。ローラの作る風呂は非常に広く、二人で足を伸ばしてもかなり余裕がある。ローラは風呂に入っている時にも石の魔法を練習したいのか、両手から地属性の魔力を放出して石像を作るのだ。
「今日は何を作ろうかな」
「バシリウス様がいいんじゃないかな」
「そうだね!」
ローラは可愛らしく頷くと、すぐに石像作りを始めた。頭の中でバシリウス様の姿を想像しているのか、目を閉じて暫く考え込むと、次の瞬間、手の平から魔力を放出して石像を作り出した。
ローラの手には小さなバシリウス様の石像が乗っており、彼が戦闘の際に使用するランスやラウンドシールドが忠実に再現されていた。俺はローラが作る石像が大好きで、ローラが新作を作れば必ず譲って貰う事にしているのだ。
「よく出来ているよ。ローラは本当に地属性の魔法が得意なんだね」
「杖がローラに力を与えてくれたの」
「創造神が使用していた杖に認められるなんて、やっぱりローラは凄いな」
「ローラがギルベルトを守るんだもん。だからローラはもっと強くなるの」
「いつも頼りにしているよ」
ローラは満面の笑みを浮かべると、俺に密着して幸せそうに目を瞑った。彼女の豊かな胸が俺の胸板にあたっており、モンスター娘相手だというのに興奮している自分が嫌になる。
俺がローラを引き離すと、ローラは悲しそうに俯いたので、俺は恥ずかしさを堪えながらローラを抱きしめた。信じられない程柔らかい胸が俺の体に当たり、視線を落とすと彼女の豊かな胸の谷間が見えた。ゴールデンスライム相手に興奮してはいけないんだ……。
俺はローラの体を見ない様に天井を見上げると、浴室の扉が叩かれた。エリカが俺達に用でもあるのだろうか。ゆっくりと浴室の扉が開くと、白いタオルを巻いたエリカが立っていた……。




