第二十八話「新たなマジックアイテム」
ケンタウロスの魔石をガチャに投入すると、ガチャの体には『LV.3 中級冒険者シリーズ』と表示された。俺とローラは次々と魔石を投入してガチャを回した。出て来るカプセルはノーマルカプセルが多いが、レアカプセルが二つとスーパーレアカプセルを引き当てる事が出来た。途中でレジェンドカプセルが出た時は、虹色に輝くカプセルに戦士達が歓喜の声を上げた。
興奮を抑えながらも、まずはノーマルカプセルから開封する事にした。バスタードソード×3、ロングボウ×2、ハルバード×4、クレイモア×2。全てのノーマルカプセルを開けると、大量の武器を入手する事が出来たので、俺はこれらの武器を全て戦士達に提供した。
人間用に作られた武器だから、体の大きなレッサーミノタウロスからすれば随分小さいが、それでも使用する事は出来る。長さ百五十センチ程のクレイモアは、人間なら両手で構えなければ振る事も出来ないが、戦士達は軽々と片手でクレイモアを振った。
思えば初めてクエストを受けた時は、武器屋の隅に置かれていたひのきの棒を持ってスライムと戦っていたな。今では当たり前の様に金属製の武具を入手出来る様になったので、俺は自分の成長に感動しながらも、すぐにレアカプセルを開封した。カプセルからは小さな猫の人形が出てきた。まるでシャルロッテが猫になった様な見た目をしているな。
「それはケットシー人形といって、どんな攻撃も一度だけ防御出来る効果を持つマジックアイテムなんだ」
「ケットシーだったのか。道理でシャルロッテに似ている訳だ」
ケットシー人形は意思を持っているのか、楽しそうに微笑みながら俺を見上げると、俺の肩の上に飛び乗った。
「使用しない時はマジックアイテムに仕舞っておくんだよ。基本的にどんな弱い攻撃も使用者の代わりに防御してしまうから」
「わかったよ」
俺はケットシー人形をマジックバッグに仕舞い、それから次のレアカプセルを開封した。カプセルの中からは金色の糸で編まれた袋が出てきた。ただの袋の様に見えるが、袋の中を覗いてみると、小さな石造りの民家が見えた。
袋の中に別の世界でもあるのだろうか? 民家からはローブを着た中年の男性が出てきた。民家の外には小麦畑があり、男性は両手いっぱいにパンを持っている。男性は微笑みながら俺を見上げ、パンを差し出している。受け取って欲しいという事なのだろうか。
俺は袋に手を入れてパンを受け取ると、男性は静かに家に戻って行った。袋から手を抜いてパンを出すと、小さかったパンは俺の顔と同じくらいの大きさに変化した。袋の中の世界はカプセルやマジックバッグと同じ効果があるのだろうか。カプセルも中身を取り出すまでは物質の大きさを小さくする事が出来るからな。
俺はパンをローラに渡すと、ローラは満面の笑みを浮かべてパンを食べ始めた。男性から頂いたパンをレッサーミノタウロス達やバシリウス様に分けると、全てのパンを配ってしまったので、俺は再び袋の覗き込んだ。
すると、中年の男性が再び家から出てきて、笑みを浮かべてパンを差し出した。俺はもう一度パンを受け取ると、男性は再び静かに家に戻って行った。彼は何故俺にパンを分けてくれるのだろうか? 袋の中の世界で暮らしている事は間違いないだろうが、パンを俺に渡す意味が分からない。
「その袋は聖者の袋といって、袋の持ち主は聖者グレゴリウスからパンを分けて貰えるんだよ。聖者シリーズは基本的に聖者グレゴリウスが関係しているマジックアイテムで、他人に対して食料を分け合える事を目的とされているんだ」
「他人に食料を分ける事が目的か。確かに聖者のゴブレットのお陰で葡萄酒を皆に分ける事が出来たけど、これからはパンも無限に分け与える事が出来るんだね」
「聖者の袋に関しては、実は無限じゃないんだ。袋の使用者が他人にパンを分けた場合にのみ、聖者グレゴリウスは新しいパンを焼いてくれるんだよ。ギルベルトが他人にパンを与えなければ、聖者グレゴリウスは決して家の中から姿を現す事はないんだ」
「他人にパンを与えるなら、自分自身も無限にパンを食べる事が出来るんだね」
「そういう事だよ。冒険者として地域を守りながら、飢えている人にはパンと葡萄酒を与える。聖者グレゴリウスはそんな冒険者を求めているのさ」
それから俺は大量のパンを仲間達に分け与え、水を求める者には聖者のゴブレットで水を作り出して飲ませた。葡萄酒を求める者には葡萄酒を注いで回っていると、すっかりくたびれて森に座り込んでしまった。
聖者のゴブレットと聖者の袋がある限り、これから先の人生で食料に困る事は無いだろう。やはり魔石ガチャとは偉大なのだな。俺は民を守る冒険者になるために、田舎の村を出て旅に出たのだ。聖者シリーズの様に、戦闘を行わなくても他人の生活を向上させられるマジックアイテムは存在する。俺が弱かったとしても、これからは他人に尽くす事が出来るのだ。何と素晴らしいマジックアイテムだろうか。
それから俺はスーパーレアカプセルを手に持った。レベル3のガチャはレアカプセルでも人生を変えられる程の力を持つマジックアイテムを入手する事が出来るのだ。スーパーレアカプセルやレジェンドカプセルには、果たしてどれほど価値のあるマジックアイテムが入っているのだろうか。楽しみで仕方がない。
金色に輝くカプセルを開けると、白い羽根が付いた金属製のグリーヴが出てきた。これもまた特殊な効果を持つマジックアイテムに違いないだろう。俺はすぐに自分が履いていた靴を脱ぎ、羽根が付いたグリーブを履いた。
金属で作られているにも拘らず、重さを全く感じない。まるで体が羽根になった様に軽い。もしかするとこのグリーヴは体を軽くする効果があるのかもしれない。試しに俺は下半身に力を入れて飛び上がってみると、俺の体は一瞬で背の高い木々よりも遥か上空に飛んだ。
跳躍力が驚異的に上昇しており、俺の体はすぐに急降下を始めた。このまま地面に落下すれば俺は命を落とす事になるだろう。バシリウス様が俺を受け止めようとすると、ガチャが制止した。一体どうしてガチャはバシリウス様を止めるのだろうか。
高速で地面に落下すると、そのまま俺は地面に着地した。背の高い木よりも遥かに高い位置から着地したにも拘らず、両足には殆ど衝撃も感じなかった。この羽根付きグリーブは跳躍力を大幅に上昇させ、足への衝撃を限りなく減らす事が出来るのだろう。
「ギルベルト、試しに森を走ってご覧」
「走る? 何のために?」
「いいから。早く走るんだ」
俺はガチャに促され、訳も分からないまま走り出すと、自分の体がまるでケンタウロスにでも変わったかの様な錯覚をした。両足は驚くほど高速で動き、移動速度が驚異的なまでに強化されているのだ。スーパーレアカプセルの中身はやはり反則的な効果を持っているのだな。
俺は楽しくなって辺りを走り回り、何度も力の限り跳躍をした。この身体能力があればモンスターの集団から囲まれても、たちまち逃げ出す事が出来るだろう。敵の攻撃から逃げながら、鉄の玉で遠距離から攻撃を仕掛ければ、無傷で敵を仕留める事も出来るだろう。
ローラはガーゴイルの羽衣を使用して小さなガーゴイルになり、俺はローラと共に森を高速で移動しながら遊んだ。しばらく遊んでいると下半身の筋肉が悲鳴を上げはじめたので、俺達はバシリウス様達と合流して、最後のカプセルを開ける事にした……。