第二十六話「戦士達の宴」
深夜にケンタウロスの襲撃を受け、暫く移動を続けたから既に森には朝日が差し込んでいる。ヘルゲンを出てから一体どれだけの時間が経過したのだろうか。シャルロッテは今頃ヘルゲンの安宿に泊まり、俺達の帰りを待っているのだろうか。
シャルロッテが用意してくれたブラックウルフの肉が無ければ、バシリウス様と打ち解ける事は難しかったかもしれない。ミノタウロスやレッサーミノタウロス達は食べ物に対するこだわりが強い様だ。
ケンタウロスの肉、勿論下半身の馬の部分だが、敵の肉を切り、大量の肉を抱えたレッサーミノタウロス達は、移動を終えるや否やすぐに料理を始めたのだ。やはり彼等は人間とは体力が違うのか、ついさっきまで死闘を繰り広げていた筈なのだが、今では元気が満ち溢れる様で、すぐに雰囲気の良い宴が始まった。
ケンタウロス族との長きに渡る戦いに勝利出来た事が嬉しいのか、空のゴブレットを俺に差し出すと、俺は戦士達やバシリウス様に葡萄酒を注いで回った。朝の森には気持ち良い風が吹いており、勝利の余韻に浸りながら、ローラと共に戦士達の輪に入って宴を楽しむ。
ケンタウロスの肉を使って作られた料理が完成すると、レッサーミノタウロス達は一斉に料理にありついた。俺とローラも恐る恐るケンタウロスの肉を口に運んだが、脂肪分が少なく、若干の甘みがあり、臭みも少なくて非常に食べやすいので、疲れきった体を癒やすためにも、タンパク質が豊富に含まれるケンタウロスの肉を大量に摂取した。
バシリウス様は俺の隣に腰を下ろし、ケンタウロスの肉を頬張りながら、空になったゴブレットを差し出した。俺はバシリウス様や戦士達のゴブレットが空になればすぐに聖者のゴブレットを持ち、葡萄酒を注いで回った。
「ギルベルト。宴って楽しいんだね。ローラ、こうして皆とご飯を食べるのは初めてなんだ」
「スライム達は一緒に食事をしてくれなかったのかい?」
「うん……。スライムはいつも私を虐めていたから……。廃村にはゴールデンスライムも何匹か居たけど、みんなローラを避けていたの。ローラと居るとスライムに虐められるからって」
「ローラよ。そんなスライムは叩き殺せば良い」
「バシリウス様。ローラはそんなに暴力的じゃないんですよ」
「確かにそうだろうな。攻撃的な者が聖属性の使い手な筈が無い。どちらかと言えば、戦闘を好まないモンスターが聖属性を秘めている事が多いな」
「ローラはギルベルトと冒険者になったんだから、ギルベルトを守れる様に強くなりたいの」
「力を求めるのは良い事だ。力があれば仲間を守れるからな」
「確かにそうですね。敵と戦えば戦うほど、俺は自分の弱さを実感します」
「弱さを知れる事は良い事だ。自分の力も知らずにケンタウロスに戦いを挑み、死んでゆく戦士も多かった。戦闘で命を落とす事は恥ずべき事ではないが、生きていればより多くの者を守る事が出来る。生き続ける事が肝心なのだ」
バシリウス様はゴブレットに並々と注がれている葡萄酒を一気に飲み干すと、再び俺にゴブレットを差し出した。バシリウス様は俺を守る召喚獣になってくれたのだから、彼が望む事は何でもしよう。召喚獣は人間の道具ではないのだからな。
『ミノタウロスを召喚獣にしてしまうとはね。やっぱりギルベルトを選んで正解だったよ。ギルベルトは周囲を巻き込みながらも、勝利に向かって突き進む力がある。ギルベルト、手に入れた魔石でガチャを回すのはどうだい? 僕は新しいアイテムを出したくて仕方がないんだ』
「そういえば、ガチャって自分が作り出すアイテムの事を全て把握しているのかい? 鉄の玉が出た時は、アイテムの説明をしてくれなかったけど」
『全てのアイテムを知っている訳ではないよ。ジェラルドが僕に教えてくれたアイテムに関しては勿論全て理解しているけどね。僕が知らないアイテムも存在するんだ』
錬金術師の指環が輝くと、次の瞬間、正方形の体をしたガチャが現れた。手足が生えており、ガチャは俺の膝の上に乗ってケンタウロスの肉を食べると、聖者のゴブレットを持って葡萄酒を作った。ガチャが無尽蔵に湧く葡萄酒を暫く飲んでいると、戦士達が愕然とした表情でガチャを見つめた。
「そんなに警戒しないでくれよ。僕はギルベルトを支える魔石ガチャ。錬金術師のジェラルド・ベルギウスに作られたんだ」
「これがさっき話していたガチャという者か。魔石を使ってアイテムを作り出せるのだろう?」
「はい。バシリウス様」
「私の妻の魔石を使えば、一体どの様なアイテムが出て来るのだろうか」
「幻獣の魔石からアイテムを作れば、間違いなく伝説級、大陸の歴史に語り継がれる様な驚異的な効果を持つマジックアイテムが生まれる筈だよ」
「ギルベルト。妻の魔石を使うんだ」
「宜しいのですか?」
「うむ。魔石は体内に蓄積した魔力の結晶。妻が死んだ時、既に肉体は滅びているのだ。魔石自体が妻という訳ではない。人間は魔石の魔力を感じ取ってモンスターの魔法を研究をする事があると聞いた事があるが、本当か?」
「魔石に関しては僕の方が詳しいから説明しようか。魔石とは魔法能力が高いモンスターが体内に秘める石で、人間はモンスターの魔石から魔法を習得したり、魔石を武具に嵌め、魔石の持つ力を武具に込めて戦ったり、街灯に設置して辺りを照らしたり、様々な使い道があるんだ」
ガチャが説明をすると、俺はマジックアイテムからミノタウロスの魔石を取り出した、バシリウス様は静かに頷くと、俺はガチャに魔石を投入した。ガチャの体の鏡面には、美しい光の文字が表示された。『LV.6 幻獣シリーズ』幻獣クラスの魔石を投入したからか、幻獣シリーズのガチャを回せるみたいだ。
今まではレベル2のガチャしか回せなかったが、今回は魔石の持つ力が強いからか、レベル6のガチャを回せるみたいだ。やはり高価な魔石を使えば、よりレベルの高いガチャを回せるのだな。
ガチャの体の側面に付いているレバーを回すと、虹色に輝く美しいカプセルが飛び出した。レジェンドカプセルか。これは運が良い……。俺はカプセルをバシリウス様に渡すと、彼は小さなカプセルを指先でつまんで開けた。カプセルからは長さ四十センチ程の金属製の杖が出て来ると、ガチャが興奮して飛び上がった。
「それは、創造神ベネディクトが使用していた天地創造の杖だよ。ミスリル製、四十センチ。聖属性と地属性を持つ杖で、大地に杖を向けて魔力を込めれば、枯れた土地でも農業に適した豊かな土地に変える事が出来るんだ。また、聖属性の使い手が杖を持てば、回復魔法の効果を高め、闇属性の敵を討つ力となる。攻撃にも回復にも使用出来る最強の杖という訳さ」
「天地創造の杖か……。この杖はローラが使うべきだと思うぞ。ローラは聖属性の使い手なのだからな」
「そうですね。ローラ、杖を持ってごらん」
バシリウス様がローラに杖を渡すと、杖からは金色の魔力が溢れ、魔力が森に流れ始めた。ローラの魔力が森に充満すると、木々は瞬く間に成長して果実を生らせ、美しい花々が咲き始めた……。




