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第十八話「救出作戦」

 鉄の玉が自動的にアンネさんの元に戻った気がしたのが、気のせいだろうか? この玉はやはりスーパーレアカプセルから出たマジックアイテムだからか、特殊な力を持っているのだろう。対象を捉えると自動的に使用者の元に戻る効果があるのだろうか。


「手元に戻る鉄の玉か……。これは面白い! 攻撃の威力はアンネが全力で投げた場合、レベル25程度の攻撃魔法と同等だろうか。使用者の筋力と魔力の高さによって破壊力が上がる仕組みなのだろうか……」

「ヴェロニカお嬢様。私は玉を投げる際に魔力は込めませんでした」

「それではもう一度魔力を込めて投げるのだ」

「かしこまりました」


 アンネさんは再び鉄の玉を握り、今度は玉に魔力を込めた。風属性の魔力だろうか、鉄の玉は風を纏っている。それからアンネさんは鉄の玉を投げると、氷の壁を一瞬で捉えた。氷の壁に激突した鉄の玉は爆発的な風の魔力を散らした。明らかに攻撃の威力が上がっている。


「ふむ……。魔力を込めれば破壊力を強化する事も出来るが、アンネ程の実力者でもせいぜいレベル5程度しか強化出来ていないな。これは単純に物理攻撃に特化した鉄の玉と考えて良いだろう。アンネや、ギルベルトに玉を渡すのだ。ギルベルトも使用してみてくれるか?」

「分かりました」


 アンネさんから鉄の玉を受け取ると、俺は鉄の玉を全力で氷の壁に向けて投げた。流石にアンネさん程の球速は無いが、それでも鉄の玉はかなりの速度で氷の壁を捉えた。


「今の攻撃の威力を攻撃魔法で換算するならレベル20程度だろうか。使用者の筋力によって破壊力が変わるのだろうな。これは魔力を込めて使用するよりも、魔力を使わずに遠距離から物理攻撃を仕掛けるために作られた物だろう。しかし、ただ手元に戻ってくるだけのマジックアイテムがスーパーレアカプセルに入っているだろうか……」

「そこが疑問ですね、ヴェロニカ様。攻撃の威力は確かに高いのですが、マジックバッグと同等、もしくはそれ以上の価値があるとはとても思えません」

「確かにな。レベル2の新米鍛冶師シリーズから出たマジックアイテムなのだから、レベル1の新米冒険者シリーズから出たマジックバッグよりも価値ある物じゃなければならないのだが……。何かこの玉には他にも効果があると考えて良いだろう。ただ手元に戻る玉ならマジックバッグの方が遥かに価値が高い訳だからな。今度は的を小さくしてみようか」


 ヴェロニカ様が左手に氷の魔力を溜めると、大きな氷の盾が現れた。アンネさんに渡すと、俺がアンネさんに向けて鉄の玉を投げる事になった。


「さぁ、全力で投げてみるのだ」

「よろしいのですか? 女性に玉を投げるなんて……」

「まぁギルベルトが本気で玉を投げたところで、盾が無くてもアンネに傷一つ付ける事は出来ないだろうから、心配せんで良い。アンネはレベル55の魔法剣士なのだからな」

「レベル55ですか? それは凄い……」

「さぁ、安心して玉を投げるのだ!」


 アンネさんが氷の盾を構えて俺を見つめると、さっきまでの柔和な雰囲気は一変した。これが熟練の剣士の構えか……。武器を持っていたら確実に攻撃を仕掛ける事をためらう眼力だ。ルビーの様な瞳で鋭く俺の出方を伺っている。


 俺は鉄の玉をアンネさんに投げると、鉄の玉は一撃で氷の盾を吹き飛ばした。盾が消えても鉄の玉の威力は変わらず、アンネさんの体を捉えると、球はたちまち俺の手に戻って来た。瞬間、ローラがアンネさんにヒールの魔法を掛けると、アンネさんはローラを見つめ、優しい笑みを浮かべた。


「今度は盾を宙に浮かべるから、鉄の玉を投げてみるのだ」

「分かりました」


 ヴェロニカ様は再び氷の盾を作り出し、魔力によって宙に浮かべた。俺は氷の盾に向かって鉄の玉を投げると、ヴェロニカ様は盾を制御して玉の攻撃を回避した。一直線に飛んだはずの鉄の玉は空中で方向を変えると、再び氷の盾に向かって高速で飛んだ。


 氷の盾は何度か鉄の玉の攻撃を回避したが、ヴェロニカ様が盾の制御を止めた瞬間、玉が盾を粉々に砕いた。


「これでこの玉の効果が分かった。敵に必ず命中し、使用者の元に戻ってくる」

「必ず命中する玉ですか」

「うむ。まぁ地味な効果ではあるが、必ず命中する攻撃というのはいくらでも使い道がある。空を高速で飛ぶモンスター相手にも攻撃を当てられるのだからな。ギルベルトの様な駆け出しの冒険者が使っても、レベル20程度の攻撃魔法と同等の威力を出せるのだ」

「レベル6に上がったばかりの俺がレベル20程度の攻撃を出せる事自体が驚異的ですね」

「うむ。玉の力に頼りすぎずにモンスターを狩るのだぞ」


 俺とアンネさんは残る二つの魔石を使用してガチャを回した。ガチャからはノーマルカプセルとレアカプセルが出た。今日は何と運の良い日だろうか。ノーマルカプセルを開けると、何の変哲も無いブロードソードが出てきた。やっと金属製の武器を持てるという訳か。


 それから銀のレアカプセルを開けると、中からは鋼鉄のガントレットが出てきた。レアカプセルから出たのだから、これもまた特殊な力を持つマジックアイテムなのだろう。両手にガントレットを嵌めてみると、体に力がみなぎった。


「試しにブロードソードを振ってみるが良い」


 俺はヴェロニカ様に促されて、新たに手に入れたブロードソードを抜いた。美しい鋼鉄製の剣で、手に持つとガントレットと相性が良いのか、ますます力がみなぎる様だ。拙い構えでブロードソードでの垂直斬りを放つと、明らかに攻撃の威力が上昇している事に気が付いた。


 それからガントレットを外した状態で再び剣を振ると、攻撃の速度が落ちていた。このガントレットは使用者の筋力を一時的に強化し、攻撃速度を高める効果があるらしい。


 全ての魔石を使い果たすと、ヴェロニカ様は満足気に笑みを浮かべた。ガチャは指環に姿を変えると、俺は錬金術師の指環を左手の中指に嵌めた。外は既に日が落ちており、屋敷の周囲に立つ街灯が魔法の炎を燃やして辺りを照らしている。


「今日は遅いから屋敷に泊まるとよい」

「ヴェロニカ様。実は俺とローラはこれからレッサーミノタウロスを救出しに行かなければならないのです」

「何だと? レッサーミノタウロスをか?」

「はい。実は……」


 俺は廃村での出来事や、ギルドでの職員との会話の内容をヴェロニカ様に伝えた。彼女は暫く悩んでから、羊皮紙を取り出し、羽ペンにインクを付けて簡易的な地図を書いた。ヘルゲンの北西に進んだ位置に印を書くと、棚に並んでいるマジックアイテムの中から杖を取り、地図に向けて魔法を唱えた。


 杖からは穏やかな光が地図に流れた。何やら聞いた事も無い魔法を唱えていたが、一体何をしたのだろうか。


「私はギルドの者達の意見に賛成だが、罪の無いモンスターを殺す必要はないだろう。しかし、私はギルドマスターとして正しい行動を取らなければならない。今の話は聞かなった事にしておくから、レッサーミノタウロスと出会ったら、この地図に書かれた場所を目指して進むが良い。モンスターの一族を隠すための魔法を掛けておいた」

「何から何までありがとうございます」

「果たしてギルベルトの声が仲間を殺されたレッサーミノタウロスに届くかどうかは疑問だが、男なら自分の意思を貫いてみせるのだ。そしてまた魔石を持ち帰り、私と共にガチャを回そうではないか」

「はい! それでは俺達は早速レッサーミノタウロスの説得に向かいます」

「うむ。くれぐれも気をつけるのだぞ。出発の前にシュルスクの果実をいくつか渡しておこう。それからアンネ、ギルベルトに二週間分の保存食を渡してくれるかな」

「かしこまりました、ヴェロニカお嬢様」


 ヴェロニカ様は別れ際に大量のシュルスクの果実を俺に差し出すと、俺は何度もお礼を述べて果実を受け取った。それからヴェロニカ様は俺の手を握り、寂しそうに俺を見上げると、俺は彼女の美しさに心がときめいた。ヴェロニカ様はギルドマスターという立場上、これからレッサーミノタウロスを討伐するために冒険者を廃村に派遣する事になるのだとか。


 冒険者が廃村に到着し、レッサーミノタウロスを見つけ出す前に俺とローラがレッサーミノタウロスの巣を見つけ出す必要がある。それからどうにかしてレッサーミノタウロスを説得し、ヴェロニカ様が書いて下さった地図の場所まで誘導しなければならない。


 ヴェロニカ様が地図に記した土地は、フロイデンベルグ公爵家の領地で、様々なモンスターが暮らしているらしい。領地の一部をレッサーミノタウロスの巣にすると決めてくれらのだとか。


 俺達はヴェロニカ様と別れると、アンネさんに案内されて厨房に入った。屋敷の厨房には大量の食料が備蓄されており、アンネさんは保存が利く食料を次々とマジックバッグに詰めてくれた。レッサーミノタウロスを冒険者の魔の手から守りながら進まなければならないから、片道一週間は掛かるとヴェロニカ様は考えているらしい。ちなみに通常は徒歩なら五日もあれば辿り着ける距離にあるのだとか。


 旅の食料を受け取った俺とローラはアンネさんに別れを告げると、屋敷を出て夜の町を歩き始めた……。

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