第十六話「公爵令嬢と魔石ガチャ」
暫くするとアンネさんが紅茶とビスケットを持って来てくれたので、俺とローラは静かにガチャの話を聞きながら、ゆっくりと紅茶を飲んだ。ローラはビスケットを初めて見るのか、小さなビスケットを手で掴み、おもむろに口に放り込んだ。
噛まずに飲み込もうとしたのか、ローラが咳き込むとヴェロニカ様がすぐにローラに紅茶を飲ませた。ローラは急いで紅茶を飲むと、ビスケットが柔らかくなったのか、何とかビスケットを飲み込む事が出来た様だ。
それからヴェロニカ様は何度もローラの背中を撫で、『食べ物は噛んでから食べるのだぞ』と注意した。ローラはヴェロニカ様の事が気に入ったのか、満面の笑みを浮かべて頷くと、ヴェロニカ様を抱きしめた。ローラの豊かな胸の谷間にはヴェロニカ様の顔が埋まっている。
そんな様子をアンネさんは喜びながら見ており、ヴェロニカ様は顔を赤らめてローラから離れると、恥ずかしそうにホワイトベアのぬいぐるみを抱きしめた。
「全く、何と大きな胸なのだ……。ゴールデンスライムが人間になったからそんなに胸が大きいのか?」
「僕の考えでは、ローラの胸はゴールデンスライム時代の性質を受け継いでいると思うんだ。ホワイトドラゴンを封印したら角と尻尾が生えていたという話はさっきもしたよね。モンスターを封印して人間化すると、モンスター時代の体の一部が残ったままになる事もあるんだ。ローラの豊かな胸はゴールデンスライムの時のものじゃないかって思うんだ」
「ガチャもそう思うか? ローラは私と同じくらいの歳なのに、私よりも遥かに胸が大きいなんて。これは不公平だぞ!」
ヴェロニカ様は顔を赤らめながらローラの胸を揉みしだくと、ローラは楽しそうに笑い出した。それからヴェロニカ様は暫くローラの胸を揉むと遂に満足したのか、今度は真面目な表情を浮かべて俺を見つめた。
長い金髪を左右で結び、つり目気味の三白眼には美しいサファイアの様な瞳が輝いている。容姿はとても美しく、長い深紅色のドレスが良く似合っている。年齢は俺よりも二歳下だが、レベルも社会的な地位も俺では到底及ばない。どうしてこんなに歳が近いのに人間としても差があるのだろうか。
俺も早くレベルを上げて、胸を張ってヴェロニカ様に会える男になりたい。自分よりも遥かに身分が高い相手の前に居るからか、緊張して仕方がない。ローラは緊張せずに、まるで長年の友達の様にヴェロニカ様と遊んでいる。
俺はマジックバッグから魔石を取り出してヴェロニカ様に渡すと、ガチャはソファから飛び降りて、ヴェロニカ様の前に立った。
「ついに魔石ガチャを回せるのだな!」
「はい。まずはスケルトンとスライムの魔石から試しましょう」
「わかったぞ」
スケルトンの魔石を三つローラに渡し、スライムの魔石を五つヴェロニカ様に渡した。まずはローラが魔石をガチャに投入してレバーを回した。すると、穴から小さなカプセルが飛び出した。
透明だからノーマルカプセルという訳だ。ローラがカプセルを開けると、中からはウッドシールドが出てきた。これは運が良いな。続いてヴェロニカ様が魔石を投入してレバーを回すと、銀色のカプセルが飛び出した。
「これがレアカプセルという物か? どれどれ、早速開けてみよう」
ヴェロニカ様がカプセルを開けると、中からは小さな指環が出てきた。白銀製だろうか、指環自体が魔力を持っているみたいだ。レアカプセルに入っているのだから、質の低いアイテムでは無い事は確かだろう。
「この指環は物理防御力を上昇させる効果があるのだろう。プロテクトの魔法に近い魔力を感じる」
「マジックアイテムを持っただけで効果が分かるんですか?」
「私が習得済みの魔法が掛けられたマジックアイテムに限るがな。魔力の波長は魔法によって異なるから、波長を理解すればマジックアイテムの効果も想像出来るという訳だ。ちなみにギルベルトは火属性の使い手だろう?」
「そこまで分かってしまうんですね……」
「勿論だとも。これでも大魔術師を目指しているのでな。さぁローラ、早くガチャを回すのだ!」
「うん!」
それからローラがガチャを回すと、再びノーマルカプセルが飛び出した。ヴェロニカ様だけレアカプセルを当てたからか、ローラは寂しそうにカプセルを開けた。
中からは小さなガーゴイルの人形が出てきた。やはりヴェロニカ様は可愛い物に目がないのか、ガーゴイルの人形をローラから奪うと、嬉しそうに人形を抱きしめた。
「ローラの人形なのに……」
「何を言っておるのだ。これは私の人形にするのだ」
「ヴェロニカお嬢様。ローラ様からアイテムを取り上げてはいけませんよ」
アンネさんがそう言うと、ヴェロニカ様は残念そうにガーゴイル人形をローラに返した。それからヴェロニカ様がガチャを回すと、再びガーゴイル人形が出たので、二人とも満面の笑みを浮かべて見つめ合った。なんだか二人は髪の色も似ており、本物の姉妹の様だ。出会ってからすぐに打ち解けたのか、二人は楽しそうにガチャを回した。
出てきたアイテムは、プロテクトの効果がある守護の指環が二つ。ガーゴイル人形が二つ。ウッドシールドが一つ。木刀が一振り。それから小さなスケルトンの置物が一つ。最後に学習セット(羊皮紙・羽ペン・インク)が出ると、スライムとスケルトンの魔石を使い果たして仕舞った。
ガーゴイル人形とスケルトンの置物をヴェロニカ様に、学習セットをアンネさんに差し上げると、二人は大いに喜んでくれた。
俺は防御力を強化するために守護の指環を左手の人差し指に二つとも嵌めると、全身に力がみなぎった。これが指環の持つ力なのだろうか。ヴェロニカ様の説明によると、指環の効果で物理防御力が強化されているらしい。
続いてレッサーミノタウロスの魔石を取り出すと、今度は俺とアンネさんがガチャを回す事にした。アンネさんが魔石をガチャに投入すると、ガチャの表面には『LV.2 新米鍛冶師シリーズ』と表示された。
「どうやら新しいガチャが開放されたみたいだね。レッサーミノタウロスの魔石ならレベル2のガチャを回せるという訳だ」
「新米鍛冶師シリーズか。一体どんなアイテムが出るのだろうか」
「早速回してみましょう!」
アンネさんがレバーを回すと、虹色に輝く美しいカプセルが飛び出した。最上級のカプセルであるレジェンドカプセルだ。アンネさんは上品にカプセルを拾い上げると、微笑みながら俺にカプセルを渡してくれた。俺は興奮を抑えられずにカプセルを開けると、中からは純金製のゴブレットが出てきた……。




