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第十三話「守るべき者」

 声の元を探して廃村内を駆けると、そこには凄惨な光景が広がっていた。紫色の毛に包まれたモンスターの死骸が散乱しており、三体の巨体のモンスターが二人の冒険者を取り囲んでいる。


 モンスターは頭部から二本の黒い角が生えており、まるで牛の様な顔をしている。体は人間とよく似ており、筋肉は異常なまでに発達ている。冒険者ギルドのグラウスさんが話していたレッサーミノタウロスだろうか。


 三体のレッサーミノタウロスは手に巨大な棍棒を持ち、剣士と魔術師を見下ろしている。剣士は長身で鋼鉄の鎧に身を包んでいる。ヘルゲンで俺達に喧嘩を売ってきたあの雰囲気の悪い男だ。魔術師の女は男の背後に隠れながら、震える手で杖を握り締めている。


 魔術師の杖から強烈な炎が飛び出すと、レッサーミノタウロスの肌を焼いた。敵が狼狽した瞬間に、剣士がロングソードを構え、一瞬で距離を詰めた。剣士がレッサーミノタウロスの足に深々とロングソードを刺すと、レッサーミノタウロスは大粒の涙を流して倒れた。


 どうやら魔術師の女と剣士の男の方がレッサーミノタウロスの集団よりも強いのだろう。レッサーミノタウロスは人間を襲う種族ではないのだが、どうして交戦しているのだろうか。


「おい! そこのお前! 俺達に加勢しろ!」


 男が叫ぶと、俺は何だが腹が立ったので、レッサーミノタウロスに加勢する事にした。どうして仲間を愚弄する男を助けなければならないのだ。それに、肩を貫かれた痛み、体を切られた痛みを忘れた訳ではない。俺は男の事を許した訳ではないからな。


 二体のレッサーミノタウロスが逃げ出そうとすると、突然悲鳴を上げて動きを止めた。足にはトラバサミだろうか、鋭利な刃が喰らい付いている。予め男が準備した物に違いない。男は不気味な笑みを浮かべてレッサーミノタウロスに近づいている。


 俺は瞬時にレッサーミノタウロスの前に立ち、男にメイスを向けた。ローラはすぐに二体のレッサーミノタウロスにヒールの魔法を掛けた。体中に出来ていた傷が一瞬で塞がると、女が再び杖を向けた。


 シャルロッテは魔術師の女との決着を付けようと考えたのか、両手に風の魔力を集め、女に対して圧縮した風の魔力を放出した。女は瞬時に杖の先から炎を放ち、シャルロッテの魔法をかき消した。実力は明らかに女の方が上だが、それでもシャルロッテはウィンドショットの魔法を放ち、攻撃を仕掛け続けている。


 二体のレッサーミノタウロスは俺達を味方だと判断したのか、トラバサミを強引に開くと、棍棒を振り上げて男に襲いかかった。男は怯えながらロングソードを握り締め、魔力を込めた水平斬りを放った。


 鋭い水平斬りは背の高いレッサーミノタウロスの腹部を切り裂き、ローラが回復魔法を掛ける暇もなく、レッサーミノタウロスは命を落とした。仲間を殺されたレッサーミノタウロスは怒り狂って棍棒を振り上げた。


 棍棒には雷の魔力だろうか、強烈な魔力が纏っている。レッサーミノタウロスが棍棒を振り下ろすと、男は瞬時に後退して棍棒の一撃を回避し、ロングソードを握り締めて再び攻撃を仕掛けた。


 このままではレッサーミノタウロスが殺されてしまう……。俺は考えるよりも先に体が動いた。レッサーミノタウロスの前に飛び出すと、男の剣が俺の腹部を貫いた。腹部に耐え難い激痛を感じながらも、俺はメイスを振り上げて男の肩に殴りつけた。


「何故だ……! 何故モンスターを助ける! 何故の俺の邪魔をするんだ!」

「レッサーミノタウロスは人間を襲うモンスターではない! お前達が挑発して戦いを始めたのだろう!」

「それがお前に何の関係がある! モンスターのために剣を受けるとは、何と愚かな男だ!」

「俺は一方的な虐殺を傍観していられる人間ではないのでね……」


 男がロングソードを引き抜くと、俺は無様に地面に倒れた。レッサーミノタウロスは涙を流しながら俺の体を揺すると、ローラが瞬時に回復魔法を掛けた。随分多くの血を流したからか、立つ事もままならない。


「どけろ! 一度人間を標的にしたレッサーミノタウロスを逃がすと、今度は集団で町を襲い出すぞ! 俺達は冒険者だ! モンスターは殺せば良いんだ!」

「馬鹿な……! 人間を襲わない中立のモンスターまで殺す必要はない!」

「どかなければ殺すぞ!」

「やれるものならやってみろ!」


 俺はレッサーミノタウロスの前に立つと、男は容赦なく水平斬りを放った。鋼鉄のライトメイルは大きく変形し、男の剣が俺の腹部を切り裂いた。しかし、ローラの魔法によって俺の傷は一瞬で塞がった。


 俺はメイスを握り締めて距離を詰めると、男の頭部にメイスの一撃を叩き込んだ。男が力なく倒れると同時に、シャルロッテの魔法が魔術師の女を遥か彼方まで吹き飛ばした。


 やっと剣士との勝負に勝つ事が出来たが、辺りにはレッサーミノタウロスの死骸が散乱している。魔石持ちのレッサーミノタウロスが多かったのか、地面には大粒の魔石が四つ転がっている。


 仲間を失って悲しむレッサーミノタウロスは、魔石を集めて俺に差し出すと、ゆっくりと森に帰って行った。頂いた魔石をマジックバッグに仕舞うと、俺は体力の限界を迎えたのか、意識を失って地面に倒れた……。



「ギルベルト……! ギルベルト!」

「ねぇ、シャルロッテ。ギルベルトは死んじゃったの?」

「いいえ、まだ生きているわ。だけどこれ以上血を流すと次は命を落とすでしょうね」

「それならどうして起きないの……?」

「気を失っているのかしら」


 シャルロッテとローラの手が俺の頬に触れると、俺の体には魔力が流れ、一瞬で活力を取り戻した。ゆっくりと起き上がると、ローラは大粒の涙を流して俺を抱きしめた。俺の顔には彼女の大きな胸が触れている。何と柔らかくて気持ち良いのだろうか。ローラが強く抱きしめているからか、俺はローラの豊かな胸の谷間に顔を挟まれ、呼吸が出来なくなってしまった。


「ギルベルトはローラが守るって決めたのに……」

「ローラ。苦しい……」

「絶対に離さないんだから……! ローラのギルベルトなんだから!」


 ローラの胸は信じられない程柔らかくて暖かい。暫く彼女の胸の感覚に幸せを感じていると、シャルロッテがローラの体を引き離した。


「もう。私をどれだけ心配させれば気が済むの? レッサーミノタウロスを助けるなんて無謀すぎるわ!」

『だけど僕は満足しているよ。やっぱりギルベルトは僕が選んだ男だ。今回も見事モンスターを救ってくれたんだからね』

「だけど! 下手をしたら死ぬところだったのよ!」

『ローラが居なかったらギルベルトは即死だったね。確かに剣士は強かったけど、ギルベルトの不屈の精神には敵わなかったんだな』


 男の剣で腹部を貫かれた時は、流石に今回は死んだと思ったが、ローラが瞬時に回復魔法を唱えてくれたから、何とか命を落とさずに済んだ。シャルロッテはモフモフした耳を寂しそうに垂らすと、俺はシャルロッテの頭を撫でた。


「二人共。俺を信じてくれてありがとう。これからも無茶をすると思うけど、俺を支えてくれるかな」

「当たり前でしょう。私達はパーティーなんだから」

「うん! ローラのギルベルトなんだから! ローラが守るの!」

「ありがとう……」


 再びローラが俺を抱きしめると、俺の顔にはローラの豊かな胸が触れた。最高の感覚だな。ずっとこうしていたいが、シャルロッテが顔を赤らめながらローラを引き離してしまった。それからシャルロッテはゆっくりと俺を抱きしめると、可愛らしい笑みを浮かべ、何度も俺の頭を撫でてくれた。


 それから俺達は廃村の近くに穴を掘り、命を落としたレッサーミノタウロスの死骸を埋葬すると、重い体を引きずりながらゆっくりとヘルゲンに向かって歩き出した……。

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