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第十二話「狩りの時間」

 ヴェロニカ様の執事、アンネさんから頂いたお金を確認してみると、革袋の中には三千ゴールドものお金が入っていた。これで暫く宿代を心配する必要は無さそうだ。アンネさんはホワイトベアの着ぐるみに三千ゴールドの価値があると判断したのだろう。


 俺はガチャが作り出したアイテムの相場が分からないが、魔法都市でヴェロニカ様にお仕えしているアンネさんが三千ゴールドの価値があると判断したのだ、もしかすると魔石ガチャは俺の想像以上に価値があるマジックアイテムなのかもしれないな。


 それから俺達は昨日シャルロッテと訪れた武具屋に入った。俺は魔術師の女に燃やされたレザーメイルを脱ぐと、店主がレザーメイルを処分してくれる事になった。四十代程だろうか、筋骨隆々の店主は俺の体に合う金属製のメイルを持ってきてくれた。値段は二千八百ゴールドらしい。


「こいつは鋼鉄のライトメイルだ。駆け出しの冒険者でも自由に動ける様に、金属を薄く伸ばして作った物だから重量も軽いんだ」

「着心地も良いですし、重さをあまり感じません。この商品を頂きます」

「武器は必要ないのか?」

「武器を買うお金が無いので……」


 武器は昨日魔石ガチャで引き当てた竹槍とウッドシールドを使う事にした。まずは武器よりも防具だ。スライムとスケルトン相手なら竹槍とウッドシールドでも戦えるだろう。


「またお金が出来たらいつでも来るんだよ」

「はい! ありがとうございました!」


 代金を支払って店を出ると、俺は三人分の昼食を購入する事にした。ローラが堅焼きパンを食べたいとねだったので、大きな堅焼きパンを三つ、それから乾燥肉の塊を購入したのだ。代金は七十ゴールドだったので、現在の所持金は百三十ゴールドだ。さっきまでは三千ゴールドもあったが、一瞬で財布の中身が空に近い状態になってしまった。


「私達って本当に貧乏ね……」

「それを言うなよ……。シャルロッテ」

「だけど、新しい装備を買えて良かったね!」

「ああ。これで敵の攻撃を受けても安心だ。それにローラの回復魔法があれば、敵の攻撃を喰らって即死する事はないだろうな」

「本当に、ローラの回復魔法の威力は驚異的ね。ギルベルトの怪我を一瞬で治してしまうのだから」

「ローラはこれしか出来ないから……」

「凄い事だよ、ローラ。これからも頼りにしているよ」

「うん! ローラのギルベルトだもん! ローラが守るの!」


 ローラは満面の笑みを浮かべて俺に抱きつくと、シャルロッテが頬を膨らませた。白い毛に包まれた尻尾を振りながら俺を見上げているシャルロッテは何とも可愛らしいな。


 ヘルゲンの北口を出て森に入る。暖かい朝日を体に浴びながら、三人でのんびりと森を歩く。こんなに穏やかな時間が永遠と続けば良いのだが、生活費を稼ぐためにモンスターを狩らなければならない。


 ローラは歩き疲れたのか、途中でしゃがみ込むと、俺はローラを背負いながら歩く事になった。元々スライムは長距離を移動する種族ではないからか、三十分も歩けばすっかり疲れ果ててしまうのだ。ローラは俺の体を抱きしめ、楽しそうに辺りを見渡している。


 一時間ほど森を歩くと、俺達は廃村に辿り着いた。廃村の外周にはスケルトンが何体か居る様だ。まずはスケルトンを狩ってから廃村に入り、なるべく多くのスライムを狩ろう。


「俺が敵の攻撃を受けるから、シャルロッテは攻撃魔法で援護してくれるかな?」

「分かったわ」

「ローラはどうしたらいいの?」

「ローラはシャルロッテの傍に居てくれるかな。俺が怪我をしたら回復魔法を掛けてくれるかな」

「うん!」


 ローラは可愛らしい笑みを浮かべて頷くと、シャルロッテの手を握った。二人は短い間に随分仲が良くなったのか、俺達の後方から楽しそうに付いて来ている。俺は右手に竹槍を持ち、左手にウッドシールドを持っている。防御力は昨日の俺よりも遥かに高いのだ、スライムやスケルトン相手に遅れをとる事は無いだろう。


 木々に身を隠しながらスケルトンに近づく。錆びついたメイスを持つスケルトンは辺りを警戒しながら廃村の外周を徘徊している。気配を消してスケルトンの背後に忍び寄ると、俺は竹槍で突きを放った。瞬間、スケルトンは振り返りざまにメイスでの水平斬りを放つと、俺は瞬時にウッドシールドで防御した。


 ウッドシールドはスケルトンの強烈な一撃を受けて砕け散った。俺はスケルトンと距離を取り、竹槍で何度も突きを放った。スケルトンはメイスを振りかぶって攻撃を仕掛けて来るが、敵の攻撃は空を切った。


 後方から鋭い風の塊が放たれると、スケルトンの胸骨を一撃で粉々に砕いた。シャルロッテのウィンドショットだ。スケルトンは怒り狂ってシャルロッテに向かって走り出したが、俺はスケルトンに足を掛けて転ばせた。


 瞬時にスケルトンの上に馬乗りになり、白骨の頭部を何度か殴りつけると、スケルトンの頭骨はいとも簡単に砕けた。頭骨が砕けると、中からは小さな魔石が姿を現した。魔石持ちの個体だったのか。道理でメイスの攻撃が強い訳だ。まさかウッドシールドを破壊してしまうとはな……。


「怪我はない? ギルベルト」

「大丈夫だよ。シャルロッテ、絶妙なタイミングで援護してくれてありがとう」

「役に立てたなら嬉しいわ」


 俺は魔石をマジックバッグに仕舞うと、竹槍を捨ててスケルトンのメイスを拾った。錆びついているが、竹の武器よりは殺傷力があるだろう。早くまともな武器を購入したいところだ。


 それから俺達は廃村の外周を周り、七体のスケルトンを狩った。スケルトンの攻撃を受ければローラが瞬時にヒールの魔法を唱えてくれたからか、特に苦戦せずにスケルトンを狩る事が出来た。魔石持ちのスケルトンが三体居たので、比較的短い時間で三つもの魔石を入手する事が出来た。


 廃村外周のスケルトンを片付けると、俺達は早速廃村に入る事にした。朽ち果てた家の中にはスライムが潜んでおり、俺はスライムを見つけるや否や、メイスでの攻撃を仕掛けた。やはり金属製の武器は攻撃力が高いのか、何度かスライムを殴りつけると、液体状の体が弾けて命を落とした。


 俺達は単独で行動しているスライムを見つけ出し、次々とスライムを狩り続けた。スライム狩りにもかなり慣れてきたからか、二時間ほど廃村で狩りを続けると、俺達は三十体ものスライムを狩る事が出来た。その内魔石持ちのスライムが五体も居た。


「少し休憩しましょうか」

「そうだね。狩りは順調だし、まだまだ時間にも余裕がある」

「ギルベルト、堅焼きパンを出して!」

「分かったよ」


 俺達三人は適当な廃屋に入ると、早めの昼食を摂る事にした。堅焼きパンを三つ取り出して分けると、シャルロッテとローラは楽しそうに食事を始めた。俺は廃屋の入り口に立ち、廃村を眺めながら敵襲に備えている。


 ローラはすぐに堅焼きパンを食べ終えたのか、乾燥肉を食べたいと言うと、俺は彼女のために乾燥肉を小さく裂いて渡した。ローラの豪快な食事風景を横目に見ながら、堅焼きパンを齧る。


 通常のパンよりも日持ちする堅焼きパンは食べ応えがあり、ゆっくりと時間を掛けてパンを噛んでいると、廃村の奥から人間の叫び声が聞こえた。


「ギルベルト! 何が起こっているの?」

「分からない。俺達以外の冒険者がモンスターに襲われているのかもしれない!」

「助けに行こうよ。ギルベルト」

「ああ。ローラ、シャルロッテ。俺から決して離れない様に」


 俺達は急いで廃屋を出て、声の元を探し始めた……。

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