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第十一話「公爵家令嬢」

 シャルロッテは大粒の涙を浮かべ、俺に頭を下げた。シャルロッテが女の挑発に乗らなければ、ここまで大事にはならなかっただろう。俺もローラも男の暴言を無視してギルドを出た筈だからな。


 ローラがシャルロッテを抱きしめると、シャルロッテはローラの豊かな胸に顔を埋めてすすり泣いた。そんな様子をヴェロニカ様は優しい笑みを浮かべて見つめると、俺に向き直り、俺の顔を見上げた。


 つり目気味の三白眼には優しい笑みが浮かんでおり、朝日が少女の美しい金色の髪に反射して輝いている。なんと堂々とした、美しい少女なのだろうか。


「おいお前! 自分の命を捨てる気か? 私はお前の事が気に入っているのだ! お前は私のために可愛い物を集めていれば良いのだ! 勝手に死なれては困るのだからな」

「ヴェロニカ様のお陰で助かりました。ありがとうございました」

「当然の事だ。貴族の私は平民を守る義務がある。それに、お前は私のギルドのメンバーなのだからな」

「私のギルド……?」

「うむ。私がユグドラシルのギルドマスター、ヴェロニカ・フォン・フロイデンベルグだ」

「紹介が遅くなりました。俺はギルベルト・カーフェン。この子はローラ。それからこちらはシャルロッテ・フランツです」

「ギルベルトというのだな。お前が譲ってくれたホワイトベアのぬいぐるみ、あれは誠に良い物だ。もっと可愛い物はないのか?」

『ギルベルト。なんだかこの子には運命を感じる。この縁は大切にした方が良いよ』


 ガチャの声が響くと、俺はマジックバッグの中を確認した。可愛い物か……。ホワイトベアの着ぐるみはどうだろうか。着ぐるみを取り出してヴェロニカ様に見せると、彼女は目を輝かせ着ぐるみを抱きしめた。なんだか小さな女の子の様で可愛らしいな。


「ギルベルト……。お前は天使なのか? どうしてこんなに可愛い物ばかり持っているのだ? アンネや、ギルベルトが装備を買えるだけの金額を渡すのだ」

「そんな、お金を貰う訳にはいきません」

「まぁまぁ、平民は私の言う通りにしていれば良いのだ。それで、一体どうして決闘をしていたのだ?」


 執事のアンネさんが俺の懐にお金が入った袋をねじ込むと、俺はありがたく頂戴する事にして、一連の事情をヴェロニカ様に伝えた。彼女は俺達に同情しながら、何度も着ぐるみに頬ずりをして幸せそうに俺を見つめた。


「ギルベルトよ。確かにフェスカ達はお前達を愚弄したが、それでも怒りを抑えなければならない時がある。常に相手と争えば良いという訳ではないのだ。冒険者なら自分の命を守りながら、民を守れる人間になるのだ。分かったな?」

「はい。ヴェロニカ様……」

「素直でよろしい。それで、再び聞くが、どうしてギルベルトはこんなに可愛い物をいくつも持っているのだ?」

『ギルベルト。彼女は間違いなくギルベルトの救世主になる人物。僕の直感がそう言っているんだ。僕は人を見る目だけは確かなんだ』


 指環が優しく輝くと、次の瞬間、魔石ガチャが現れた。ヴェロニカ様は愕然とした表情を浮かべてガチャを見下ろした後、ガチャがヴェロニカ様に握手を求めた。ヴェロニカ様はすぐにガチャの手を握ると、満面の笑みを浮かべた。


「これは……! これは一体なんなのだ? 自分の意思で動く箱なのか? ギルベルト!」

「これは俺の相棒。魔石ガチャです」

「魔石ガチャだと? ガチャとは一体なんなのだ?」

「僕はギルベルト本人、もしくはギルベルトの仲間のみが使用出来るガチャなのさ。錬金術師、ジェラルド・ベルギウスが作り上げたマジックアイテムなんだ」

「ジェラルド・ベルギウス……。大陸で最も偉大な錬金術師だな! その錬金術師が作り上げたマジックアイテムか。一体どんな効果があるのだ?」

「僕はギルベルトの冒険者生活を支える仲間なんだ。モンスター封印と魔石ガチャの力でギルベルトを最高の冒険者にするのが僕の目標さ」

「それで、魔石ガチャとは一体何なのだ?」

「ヴェロニカ様。実はこれからモンスター狩りに行って魔石を集めてきます。町に戻って来たら実際にガチャの力をお見せする事が出来るのですが……」

「そうかそうか! それなら狩りが終わったら私の屋敷に来るのだ! アンネや、地図を書いてギルベルトに渡しておくれ」

「かしこまりました。ヴェロニカお嬢様」


 アンネさんはヴェロニカ様の屋敷の地図を書くと、俺は地図を受け取ってマジックバッグに仕舞った。シャルロッテはすっかり泣き止んだのか、ローラから離れると、何度も俺に頭を下げた。


「ギルベルト。さっき渡したお金で武具を揃えるのだ。仲間を守るために、更に強くなるのだぞ」

「はい! ヴェロニカ様!」

「良い返事だな。私はギルベルトが戻って来るまで着ぐるみを着て待つとしよう」


 ヴェロニカ様はホワイトベアの着ぐるみを抱きしめながらアンネさんと共に帰路についた。なんと気さくで雰囲気の良い少女なのだろうか。


「ギルベルト、相手の挑発に乗ってしまってごめんなさい……」

「良いんだよ。シャルロッテ」

「だけど、ギルベルトは私を守るために怪我をしてしまった……」

「この程度の怪我、ローラの魔法があればどうという事もないよ。シャルロッテが無事なら良いんだ」

「ありがとう……。ギルベルト、私達ってまだまだ弱いのね。力があれば馬鹿にされる事もないのにね」

「確かに。改めて自分の弱さを実感したよ。俺があの男に勝てたのは偶然だったし、ローラが居なければ俺は今頃焼死していたかな」

「ローラがギルベルトを守るんだもん」

「ありがとう、ローラ」


 俺はローラを抱きしめると、ローラは嬉しそうに微笑んで俺を見上げた。彼女が満足するまで頭を撫でると、ローラはすっかり機嫌を良くした。しかし、ローラの回復魔法の威力は驚異的だな。剣で肩を貫かれても、次の瞬間には痛みすら消えているのだから……。


「さて、お金も頂いたし、武具を買いに行こうか」

「そうね。ギルベルトの剣と防具が必要ね」

「ああ。強い武器と防具があれば安全に狩りを行えるからね」

「ギルベルト、ローラの着ぐるみが……」


 ローラは自分の着ぐるみを失って悲しんでいるのか、寂しそうに俯くと、俺はローラを抱きしめた。


「ヴェロニカ様には助けて貰ったし、着ぐるみならまたガチャから出てくるよ」

「本当?」

「勿論。だから魔石を沢山集めて、ヴェロニカ様と一緒にガチャを回そう!」

「うん!」


 ローラは満面の笑みを浮かべると、シャルロッテの手を握り、楽しそうに町を歩き始めた。敵意を持つ人間を前にしても動揺せずに、的確に回復魔法を使用出来るローラの意思の強さに驚きを感じる。全く、モンスター娘とは頼りになる生き物なのだな。これからも大切にしなければならないな……。


『そうそう。更に多くのモンスターを封印して、理想のハーレムを作ろうよ。ギルベルトなら第二のジェラルドになれる!』

「なんだって? 第二のジェラルドさんに?」

『ああ。彼はモンスター娘と重婚したって言っただろう? ジェラルドは数多くのモンスターを封印したんだけど、全てのモンスター娘と結婚したんだよ。全く、凄い男だろう? 僕が知っているだけで十二人のモンスター娘と結婚したんだ!』

「重婚か……。女性と付き合った事すらない俺には理解出来ないよ……」

『ギルベルトなら第二のジェラルドになれると信じてるよ!』

「そんな事を信じられても困るよ」


 俺はガチャと他愛の無い話をしながら、シャルロッテとローラと共に朝の魔法都市を歩き、低価格の武具を販売する店を探して歩いた……。

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