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ショートショート「お手本」

作者: 兼藤伊太郎

まだ年端もいかない息子に煙草をせがまれて脚本家は驚いた。世も末だと嘆いた。なぜそんなものを欲しがるのかを尋ねると、昨夜のテレビドラマのヒーローが格好良く煙草を吸っていたからだという。そのドラマの脚本を書いたのは脚本家自身。脚本家は後悔した。あんな場面を入れるんじゃなかった。

ということで、次回分の脚本も出来上がっていたのだが、急いで書き直した。事件を解決し一服、だったのを一念発起して禁煙することにさせたのだ。この筋が意外と好評だった。禁煙の苦しさを抱えながら事件の解決に挑むヒーロー。今までにない人間味が加わったと評価された。

ドラマ放映の翌日、脚本家は今度は息子が汚い言葉使いをするのを聞いた。なぜだと問うまでもなく、前日のドラマのヒーローの真似だと言う。もちろん脚本家は後悔した。あんな台詞を書くんじゃなかった。

そこで、次回分の完成していた脚本に手を加えることにした。ヒーローが母親に汚い言葉を使うんじゃないと説教されるシーンを付け足した。これもまた意外と好評だった。今まで一匹狼で通していたヒーローにも家族があるのが明らかになり、今後の展開が期待された。

ドラマ放映翌日、脚本家は今度は息子が近所の子供に暴力をふるうのを目撃した。聞くまでもないので聞かなかった。もちろん、前日のドラマの影響なのだ。ヒーローは悪漢たちを蹴散らして事件を解決していたのだから。

脚本家はまた脚本を書き直した。暴力をふるわず、やりたい放題の悪漢たちを説得して事件を解決する筋にしたのだ。

ドラマ放映翌日、脚本家はプロデューサーに呼び出され、馘を宣告された。禁煙に苦しみ、母親に従順で、非暴力主義の人間が主人公では視聴率がとれない、現にここ数回の視聴率はがた落ちだと。

「後任の脚本家はもう決まっているから安心したまえ」

家に帰ると息子が汚い口調で煙草をせがんできた。叱りつけると逆に蹴りを入れられた。お前の好きなヒーローならそんなことはしないと言うと

「あんなヤワな奴大嫌いさ。悪漢どもの方が百倍格好いいよ」

自分が馘になったドラマを観ると、ヒーローは何事もなかったかのように煙草を吸い、口汚い口調で喋り、暴力で物事を解決していた。脚本家は息子に言った。

「悪は必ず滅ぼされるのだよ」

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