十三章 : 虹色の浮橋、未来へ ... 後
「良いのか? ホントに」
「ん、良い。多分けっこー、すっきりした」
揺れる汽車の中で、向かいに座る従兄の問いに一輝は言う。
「ごめんな、槙桧」、そう付け足す。
妹の知らせを受けた後、彼は従兄の店に行った。
既に涙は止まっていて、其れでも、腫れた其の目と頬に驚いた槙桧に、彼は淡々と説明した。
一輝自身も、全容なんて知れてはいなかったけれど。
『それで、殴っちまった。アイツ』
祈咲の亡骸を抱えて、一輝の元を訪れたのはカノンだった。
抱かせてもらった義妹の躯。
白かった肌はむしろ蒼くて、冷え切った其れに嘘だと思った。
カノンの口から聞かされる、表情も、感情もない、淡泊で端的な説明。
『殺した』、その一言に、思わず拳が飛んでいた。
よろめきも痛がりもしなかったが、彼は其れを甘んじて受けた。
初めて、全力で殴った。羨ましく、尊敬していて、畏怖していた、相手だった。
『カノンは凄いな』
何度、祈咲にそう聞かせたか。
果刹が死んだその後も、彼になら彼女を、委ねられると――――――
『………ッ』
自分の頬は、自分で殴った。情けなくて、悔しかった。
そしてカノンのした事が、祈咲には一番良かったのだと、幸せだったのだと、知っていた。
何時からか、気付いていた。
彼女はきっと、此の世界には耐え切れないと。
其れを引き留め続けたのは、自分が、弱かった所為だ。
妹を失いたくないと、“自分が”、思っていたからだ。
驚いた顔も、言葉もない。
カノンはただ、冷たいほどに感情のない目で彼を見る。
ぐっと唇を噛み締めて、祈咲の躯を差し出した。『任すよ』。
『―――――そう』
あっさりと、踵を返す。
扉を閉めて、エントランスで、枯れ果てるほどに一輝は泣いた。
『―――――どっか、遠いトコでも行くか』
全部を吐き出したその後で、唐突に槙桧が言ったこと。
店も畳んで、あの、屋敷も手放して。
最低限の物だけ持って、彼らは宛てもなく、汽車に揺られる。




