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009プロ入団

 室内に入ると、黒色のプロテクターに黒革ジャケットの男が立っていた。


 25歳と聞いていたが、それより少し幼い印象を受ける。細目でユーリを眺めている様は、警戒しているようにも見えた。


 糸目のイケメンタイプかー。苦手なんだよな。裏切りそうだし、強いし。そーゆーキャラばっかじゃん。漫画とかでは。


 そんなユーリの内面の声が聞こえた訳でもないだろうが、リキは机の上に置かれたファイルを開き、聞いてくる。


「正宗有理……15歳、第三世界から帰還。で合ってるかな?」


「どうも、はじめまして。名前は合ってるが……第三世界?」


「フロリア王国、アガテア帝国、永世中立国エリザン、それに勇者共和国トランエラ……聞いたことあるだろう?その異世界からの帰還者という意味だよ」


「ちょっと、聞いても?」


ユーリの言葉に鷹揚に頷くリキ。


「いきなりこの世界へ来たんだ。聞きたいことはたくさんあるだろう。なんでも聞いてくれ。答えられることなら答えよう」


「そりゃどうも……そんなことまで把握してるってことは、その異世界から帰還した奴も沢山いるってことなのか?」


「いるよ。その多くは日本帝国軍籍、あるいは治安維持隊籍にあって会うことはかなわないが……ひょっとしたら君の知り合いもいるかも知れないな」


 日本帝国軍に治安維持隊……日本に二つも軍関係の組織があるということだろうか。いや、それは後でいい。ユーリは続けて質問する。


「この世界と、向こうとでは、時間の流れはどうなってるんだ?」


「一致する。誤差はそれほどない、と考えられている。君は向こうに10年いたと聞いた。その間、第三世界からの帰還者は3人ほどだ」


「どうやって帰ってきたんだ?」


「2人はこちらが捕捉して転移をした。もう1人はそういった魔法道具か何かを使って帰還したらしい。詳しくは分からないが……全員帝国軍に引っ張られていったからな」


「捕捉して転移……?そんなこともできるのか?」


「……出来る出来ないで言えば、出来る。事前に国民番号など登録して、トレースさえ出来れば」


「じゃあ自由に行き来できるのか?」


「それは出来ない。詳しくは話せないが、条件が厳しい。簡単に行き来できる訳ではないんだ」


「……その条件は言えないってことか?」


「ああ、そういうことだ。ちなみに、君が元いた日本に転移することは、今は出来ないが、可能ではあるはずだ」


「今は出来ない理由は?」


「それも言えない。条件が揃っていないという事くらいしか教えられない」


 なら、俺をナギが召喚したのは、どういう事になるのだろうか。ナギは聖剣召喚と言ったか。それで俺が召喚されるっていうのは?どんな法則がある?


 わからない事だらけで、ユーリは押し黙る。


「……七星君に聞いただろうが、我々はプロのブレイブとして、害獣の駆除活動を行っている」


「……害獣?」


「魔物の事よ。正式には害獣って言うの」


 ユーリの疑問にナギが答える。


「君がもし元いた日本に帰りたいのなら、条件が揃うまではここで暮らす必要が出てくるだろう?そうなると、元手が必要なはずだ。君は魔物と戦う術を持っている。我々は戦力が欲しい」


口を挟んだのはナギだった。


「ちょっ……待ってください!ユーリをチームに入れる気ですか?そんなこと……」


「炎鬼猿と禍牙狼4匹を一瞬で殺ったんだろう?そんな奴、二軍にいるか?一軍でもいいくらいだ」


「勝手に選手を登録するなんて……ルールだってあるし……監督だって何て言うか……」


「ルール?じゃあ育成選手枠でどうだ?チームに入れるなら枠さえありゃ十分だ。それに、メダリオンは一軍にも二軍にも空きはある。監督には私が推薦しておくさ。期待の大型ルーキーだってな」


「……そんな簡単にプロ入りさせちゃって大丈夫なんでしょうか?」


「入団テストが必要か?じゃあしよう」


 言いざま、リキの右手がブレる。ヒョイ、とユーリは横へスウェーした。トン、と軽い音を立てて、スローイングダガーが、ユーリの背後にある分厚い壁に刺さる。あっぶね。


「合格だ」


「い、いきなり危ないじゃないですか!そんな簡単に合格って……」


「不満か?じゃあ」


 リキの両手が動くのを見て、ユーリは今度は魔術を展開した。リキの右手に握られたハンドガンは、バスンと音を立てて弾丸を発射し、左手からは何かしらのマギアの術式が展開されていた。


 ユーリは丁寧に弾丸の勢いを魔術で殺して左手で弾丸をつまみ、リキのマギアは術式を解きほぐして無効化する。


「あっぶね……」


「……これは……ここまで軽くあしらわれるとは予想外だった。予想してたのかい?」


「そりゃ、何かやるぞって感じで身構えてりゃ誰でも警戒するだろ……予想以上の危険度だったけど」


「まあ、ユーリ君を傷付けるのは、それほど難しいってことだ。プロ入りしてもどこからも文句は出ない。後はどこのプロチームに入れるかの問題だ。よく見りゃ外見だって悪くない」


 リキは打って変わって柔和な表情を浮かべると、ユーリに手を差し伸べた。てめぇ外見は関係ないだろ。


「《メダリオン》は、君を歓迎するよ。ユーリ君。ナギについて、施設を回ってみるといい。二軍スタートとなるが、ナギ君を君の力でサポートしてやってほしい」


 傷付けるのは難しいとか、そんなことはないんだが。ユーリは内心の冷や汗を何とかポーカーフェイスでやり過ごそうとしながら、リキの差し出された手を握る。ナギは唖然とユーリとリキの握手を眺めていた。


第六会議室を後にしてから、ナギは黙ったままだ。


「……」


 あくまでも納得いかない、と言う感情を全身で表しているナギに、ユーリは人間関係における適切な距離を推し量る。ユーリの得意な分野だ。

 共にいた時間は短いが、人間性は何となくだが掴めている。ナギは、真面目で、少し間が抜けてて、世話焼きな面がある。そして恐らくチームでは歴が浅く、新人のはずだ。先程すれ違ったブレイブへ、いちいち丁寧に挨拶をしていたくらいに。


「……先輩、よろしく」


 コレで行こう。失敗したら謝ればいい。失敗しても死ぬわけじゃない。フォローさえしっかりすれば何度でもやり直せる。


「先……輩?」


「そう。ナギは、俺の先輩になるわけだろ?俺が後輩で、ナギは……」


「私が……先輩……」


「お、おう」


 しばらく反芻したナギの表情が、二ヘラ、と笑顔になる。


 ヤバい。チョロい。


 ニヤニヤと嬉しそうに微笑むナギに、ユーリは胸を撫で下ろす。


「ナギ先輩、施設の説明オナシャス!」


「いいわ!ついてきて!」


 チョロいわー……ナギちゃんチョロインだわー……。ユーリの内なる声は聞こえないナギは、颯爽とユーリを連れて歩くのだった。

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