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008ブレイブ

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 プロブレイブチーム・メダリオンの本部は、繁華街を抜けたオフィスビルの立ち並ぶ一角にあった。


 オフィスビルが立ち並ぶ、と言うより、地下の広大な空間に光り輝く柱が何本も立っているようにしか見えなかったが、ここはオフィス街らしい。


 通行人も、若者中心の繁華街から変わって、スーツ姿の人が増えた。と言っても種族はやはり多岐に渡っていて、ドワーフ、エルフ、ホビット、獣人達がスーツを着ていたりするのだ。


 まあ、大分慣れて来たが、ちょっと面白い。


 入り口はガラス張りで、受付には綺麗な女性が数人、グレーのスーツ姿で立っている。ぱっと見普通の会社の受付な感じなのだが、その横で訪問者に愛嬌を振りまくマスコットキャラらしき着ぐるみが全てを台無しにしている。


 まぁ、訪問客には大ウケしていたが……何のキャラなんだろうか。ペンギンだろうか。


 ナギは、ちょっと待ってて、と言い残してエレベーターで移動した。残されたユーリはやや離れた場所にあるソファに座り、ペンギンの着ぐるみが少年少女と戯れているのを眺めていた。


 オフィス街にしては、訪問者はスーツ姿は少なく、普通の格好の家族連れが多い。記念写真を撮ったりしているところを考えると、そういうスポットなのだろう。


 プロブレイブっていうのは、ユーリの知るところのプロ野球やプロサッカーみたいな興行をなしているのかも知れない。どういう形式で興行しているのかまでは想像できないが。


 ユーリはソファに沈み込むと、胸に手を当てた。そこにもう傷はない。


 アナベルは、エリアは、あの後残された仲間達はどうなったのだろうか。自惚れているわけではないが、ユーリはあの軍の主力の一人だった。


 全軍で魔王軍を足止めしている間に、ユーリが斬り込み、道を開き、無傷のまま勇者アナベルを魔王にぶつける。それが魔王に対する作戦だった。


 今、彼らはどうなっているのか。


 魔王に、挑んだのだろうか。


 あの軍を起こして、ユーリが欠けたくらいで戦いを止めるとは思えない。


 だとしたら、結果は?


 何で、俺は、ここにいる?


 日本に帰りたかった。それは確かだ。


 でもそれは叶わないと思った。


 だから、決意したのだ。あの世界で生きると。


 今更何故日本に。しかも、元の日本ではなく、別の世界の日本に?


「おまたせ……う、あ、ごめん待たせて」


 気付くとナギが立っていた。相変わらず不審者サングラスマスクだが、怯んだようにユーリを見ていた。


「……怒ってない?ごめん」


「ん?怒る?いや別に」


「……怖い顔してたから。何だ、吃驚した。そんな顔もするんだ」


「いや……まあ、うん。思い通りにはならないもんだよな。色々」


「え?」


「気にするな」


 話を聞く限り、ナギが俺を召喚したのは事故だ。ありえない事が起こった。仕方のない事なのだ。ナギに怒りはない。それでも、それを仕組んだ何かに、ユーリは怒りを覚える。


 ユーリは顔を揉み解す。この顔は色々感情が出やすい。ポーカーフェイスを心掛けよう。


 ソファから立ち上がり、モジモジしているナギに聞く。


「で、どうだった?」


「……他のチームのメンバーには話す予定はないけど、一人だけ、ユーリさんの事情と私のした事を話そうと思ってる人がいるわ……ていうか、もう話した」


「いきなりか。信用できるのか?」


「それもあるけど、送還マギアを手に入れようと考えたら、協力してもらわないとならない人……って所かな」


「……って嬢ちゃんが逮捕でもされたら目も当てられないんだが」


「それは大丈夫。事故だってわかってくれたから。問題はユーリさんが……ううん、そうならないように頑張る」


 身内のナギはチームに守ってもらえるが、無関係の俺を守る義理はないってことか。ユーリは納得して嘆息する。


「それと……お嬢ちゃんは止めて。私のことはナギでいいから」


「ああ、そうか。悪い。じゃあナギ。俺もユーリでいい」


「わかった……ユーリ」


 ナギは口の中で確認するように呟く。


「じゃあユーリ、ついてきて」


 ナギはユーリにそう言って説明を続ける。


「今から会う人は、プロの中でもトップの一軍に所属している人。チームリーダーも兼ねてるの。優しい人よ」


 ナギはエレベーターを操作しながら、囁くように言う。


「和泉リキって言うの。上層部にもコネがあって色々現場に融通してくれるの。監督とも仲がいいし、信頼もある。二軍の訓練にも顔を出して指導してくれたりするから、二軍でも評判はいいし」


「年齢は?」


「25位かな?」


「同い年か」


「……とてもそうは見えないけど……」


「いや、まあそうなんだが……しかし俺の年齢はどう説明したもんかな」


「師匠が作ったデータでは、15歳のはずよ。あなたが初めての強制転移を受けた年齢」


「ならそれで押し通すか」


「……それも含めて、もう説明してあるから」


「だとしたら、俺が行く意味ってのは何なんだ?」


「……うーん……直接見てみたいって事みたいなんだけど……」


 嫌な予感がする。まあ俺の勘は当たった試しがないが。


「リキさんは、召喚送還マギアを使った事があるの」


「……禁止されてんじゃなかったか?」


「詳しくはわからない。でも、新政府の実験で召喚送還マギアを試したみたい。ネオポータルって言う実験だったわ。それは異世界とも繋がったって話よ」


「禁止したり実験したり、忙しいもんだな……てかそーゆー実験とかって普通極秘とかじゃないのか?」


「ごめん、説明不足だったね。ポータルって言うのは以前から使われていたの。色んな所に使われていて、都市間、各国間の移動は昔はそれで行っていたわ。ポータルは技術的には召喚送還マギアを使っていたらしいけど……でも、事故が起きたの」


 エレベーターが目的階に到着した。ナギの後に続いて、ユーリは無機質なエレベーターホールへと出る。


「10年前、ポータルから魔物が転移して来たわ。それで世界の都市は階滅状態になった」


「ん?それまで魔物はいなかったのか?」


「いたわ。魔物は、条件はわからないけど、ユーリと同じように、転移マギアで現れる。地上のどこに現れるのかは分からなかったけど、何処にでもポップしたわ……地下以外は。でも今までポータルから出てきた事はなかったの。それも大量に。それで、世界の地上都市は廃棄されて、人類は地下に潜った。不思議な事に、地下だと召喚送還マギアがうまく作動しなかったの。だから、地下には魔物はいないわ」


「で、ポータルは禁止されたと?」


「そう。人の召喚送還マギアもね。魔物が召喚されたら困るから。モノだったらポータルも小さいから魔物が現れる事もないみたいで、それは禁止されなかったけど」


 エレベーターホールには人は疎らだった。武装しているところを見ると、いるのはプロのブレイブ達なのだろう。当たり前の話なのかも知れないが、ブレイブ達の武器は長モノの銃器で、プロテクターを身に付けた軽装だ。ユーリのような鎧姿は見当たらなかった。ナギの話では鎧も使われているようだが……。


 ナギはマスクとサングラスを外して鞄に仕舞う。


「それで魔物が召喚されないようにプロテクトを掛けた新しいネオポータルが開発、研究されてるって訳。だから極秘とかじゃないわ」


「渋谷が廃棄された、先の大戦?ってのは、じゃあ?」


「ポータルからは、強大な魔物も召喚されたらしいわ……全世界の軍が、ブレイブが、総力戦で各国の都市に現れた魔物達を掃討して回った。それがポータル戦争。私達が先の大戦って呼んでる戦いの事」


 ナギが立ち止まる。飾り気のない扉には、第六会議室と書かれていた。

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