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006渋谷へ

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 なんの事はない。ブレイブと言うのは、まあ要するに魔物の狩猟者、という事らしい。


 ナギの話では、日本にはそういうプロ制度が整っていて、プロブレイブチームと契約した者がプロブレイブを名乗れる、という事なのだそうだ。


 いや、魔物と戦う事を生業としてるならそれは皆プロじゃないのか?と聞いたら、ちょっと納得いかない表情をしたから、プロとアマチュアの溝は深いらしい。


 それはいい。細かいことは気になるが、異世界で学んだ処世術に従う。細かいことは放っておいて、大まかな概要を掴め、だ。


 オーケー、ここは一風変わった日本。剣と魔術のファンタジックな日本だ。


 いや、剣は分からんけど。見てないし。とにかく魔物がいるけど、人類は逞しく権力争いしてて、魔術……いや、マギアだったか。という魔物と戦う術が存在する。


 で、魔物と戦う奴らはブレイブ。俺が知ってる異世界で言うところの冒険者ギルドみたいなものだろう。そういう組織が存在する、と。


 大事なのは、召喚送還マギアと言うものが存在するって事だ。日本では禁止されているらしいが、研究している人は結構いるらしい。黒髪の美少女、七星ナギにはアテがあるみたいだった。取り敢えずそれに期待するしかない。


 今までのナギの説明をざっくりと飲み下す。廃墟の渋谷の光景には未だ慣れないが、先の大戦とやらでこうなったらしい。先の大戦とは第二次世界大戦とかのことではなく、強大な魔物との存亡を賭けた戦いだと聞いた。


「あ、待って」


 幾つかあった地下鉄の入り口……と言っても重そうなシャッターが降ろされていて、閉ざされている、をユーリが通り過ぎようとしたときだった。


「ここ、地下への入り口なの」


「あれ、さっきのは通り過ぎなかったか?」


「幾つか通り過ぎたのは……治安が良くなかったり、軍専用の入り口だったりしたんです。ここは平気なので」


 と、ナギは持っていたマギデバイスを入り口にかざす。よく見ると入り口の天辺あたりにセンサーらしきものが付いていた。


 ぴ、という電子音に続き、重々しいシャッターが何層も重ねられた入り口が開いてゆく。


「秘密基地みたいだな」


「あはは、そんなようなものですよ」


 開いた先は、地下に続く階段。その足元には淡い光が灯っている。


 ナギの後について、階段を降りると、やがて病院の処置室のような作りの部屋に着いた。


「ここでクリーニングしてから地下に入るんです。服は着たままで。音声に従ってジッとしてれば大丈夫ですから」


「お、おう」


 すぐに音声が流れた。


「これからクリーニングを行います。所定の位置に移動をお願いします」


 てっきり、電子音声みたいなのが流れると思ったが、綺麗な女性の声だった。中央に緑のラインで円が描かれている。ナギがそこへ立ったので、ユーリも従う。


 そして、なんとなく光的なものを照射されると予想していたが、何も起きることはなく、


「クリーニングを行いました、お疲れ様でした」


 と本当にただ立っていただけで終了する。


「……何のクリーニング?」


「外の雑菌とか、ですよ。あとこれは秘密なんですけど、手配写真との照合や国民番号の照合、武装のチェック、感染症にかかってないか、なんかもしているんです」


「あ、鞄持つよ……俺、完全に鎧武装なんだけど大丈夫?剣はしまってあるけど」


「いえ、荷物は自分で持ちますので。そうですね、どこにしまったんですか?やっぱり異世界には魔法鞄的なインベントリみたいなのがあるんですか?あ、鎧は大丈夫ですよ。こっちでも使う人はたくさんいるので」


「まあ、魔法鞄ね。そんな感じ。だから荷物預けても平気だよ。で、国民番号って?」


「自分の荷物は自分で持つのがプロのルールなんです。あの、国民番号っていうのは、日本に国籍を持つ人が皆持ってるマイナンバー制度のことで……あれ?」


 ナギの白い頬の血がサッと引く。


「ユーリさん、マイナンバー持ってます?」


「ないだろうな。当然」


 と、ナギのマギデバイスが鳴り響く。慌てた様子でナギは通話し始めた。


「はい、七星です。はい……はい、あのー……はい。ち、違うんです、ちょっと事情が……その……分かりました、後で本部に向かいます……はい、お疲れ様です」


 ああ。ヤバイんだろうな、国民番号?みたいなのなくて。通話を終えたナギがワタワタとユーリに言い募る。


「ち、ちょっと待ってください。今、その……解決しますから!」


「お、おう」


 大丈夫だろうかこの娘。しかし、国民番号とは……そんな制度日本になかったはずだが……いや、あれ?マイナンバー制度ってのは聞き覚えある気がする。ひょっとしたら元いた日本でも導入されていたのだろうか?


 ナギはマギデバイスを操作して、再び通話を始める。


「あ、もしもし、師匠?あの……ひゃう!?ご、ごめんってば!ごめんなさい……聖剣召喚のアレ……使ったらだっていきなり日本人が!……それは……ごめんなさいってば!あーもう!ネトゲの課金していいから!え?……3000円くらい?や、5000円!5000円でどう!?」


 いや、何の話だ。て言うか、コレが素か。お嬢様っぽい喋り方は外行き用なのだろう。


「イベント?な、何のよ!?……分かっ……あー分かりました!10000円ね?じゃあ私の頼みも聞いてよね?……うん。そう。データの改竄と、整合性も。うん。この後本部に行くことになってる。え?名前もわかってるの?さっすが師匠!あー、じゃあ任せる、うん。分かってるから!カード買っていくから!じゃあね!」


 会話が途切れる。


「……あー……の、すみません」


「いや、いいよ。で、どうなったの?」


「これから、住むところをナントカしようと思ったんだけ……ですけど」


「……あー……その外向きの話し方じゃなくていいよ。これからお世話になるんだし、一緒に魔物と戦った訳だし」


「……うー……いちおー、私の素は……もういいや。はい。えーと、これから本部に行くから」


「……何の本部?」


「私の所属するプロブレイブチームの、メダリオンの本部に」


「えーと……何しに?」


「私と不審者が地下を通行したログが本部に行って、その釈明に」


「誰が不審者だ」


「あなたが」


「誰のせいだよ!?」


「あー!私のせいですぅー!分かりました!頑張りますから!うううう〜」


「……いやまあ、責めて悪かったよ。ほら、嫌なことは早く済ませよう」


 この娘、大人しい清楚な美少女だと思ってたんだけどなぁ。残念美少女かも知れない。へたり込んでアンティーク調のトランクケースに抱きついているナギの肩を叩きながらユーリは思う。


「あ、でもでも、解決したこともあるんですよ!」


 さっきの師匠?とのやり取りだろうか。

「国民番号も発行されますし、住むところも確保しましたから!」


「や、そりゃ助かる。ありがとう」


「どういたしまして!まあ師匠がデータの改竄するんですけど」


「……それできるのにゲームは課金するんだ」


「……うん……なんかゲーマーのプライドが許さないって」


 それはわかる気がする。が、弟子に支払いを頼んでから言うセリフではない気もする。師匠のプライドよりゲーマーのプライド優先なんだろうか。


「てか改竄とか……大丈夫なのかね?」


「師匠が大丈夫って言うなら大丈夫ですよ」


 弟子の、師匠に対する信頼は絶大みたいだ。ナギとユーリは話しながら長い通路を進んで行く。


「……師匠っていうのは、やっぱりゲームの?」


「違うわよ何でよ!?」


「あ、違うのか」


 てっきりオンラインゲームの師匠と弟子の関係だと。


「魔術の……戦い方の師匠です!私、魔女術しか上手く使えなかったから、師匠にお願いしてちょっと特殊な魔術とか、心得とかを学んでるんです」


「あ、そうなのか」


 て言うか、この娘、自分の不得意なこととか簡単に喋りすぎじゃなかろうか。


 と言うようなことをやんわり伝えると、


「それは……隠す必要無いので」


「いや、危ないだろ?不穏分子にそんな話聞かれたら」


 言うと、ふふ、とナギは微笑んだ。やっぱり笑顔は可愛いんだよなぁ。


「ユーリさんは、人と人が争うところで生活してたんだよね……ここでは、人が人を襲うことはタブーなの」


「いや、だって新政府と旧政府のイザコザだってあるんだろう?それに強盗だってあるかも知れない」


「それはそうだけど……私も情報を渡す相手くらい選ぶし……それに、新政府と旧政府のイザコザって、多分ユーリさん勘違いしてる」


「勘違い?」


「見ればわかるわ。さあ、ここです」


 鉄扉の前。頭上のセンサーに向けて、ナギはマギデバイスを再びかざす。


 ごうん、という重い音とともに、鉄扉が開き……


「ようこそ!渋谷へ!」


 歓楽街の眩い光が、ユーリ達を出迎えた。

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