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005荒廃した世界で

何か日本語がおかしいので直す予定

そこを含めて感想・訂正などお待ちしております


 そこは、過去に路上に構えた喫茶店のようだった。人はおらず、無論店員もいない。長年放置されたであろう頑丈なプラスチック製の椅子は塗装が剥げ、机は若干斜めに傾いている。


 放置された渋谷の街並みを横目に腰を下ろしたユーリは、少女の持っていた水筒からハーブ茶を振舞われていた。


 思うに、日本語に飢えていたのだろう。決して流暢にとはいかなかったが、ユーリは少女相手にそれまでの経緯を訥々と語った。


 大の大人の、感情の発露を受け止めた少女も、静かにユーリの話を聞いていた。


「その話……」


 区切りに、少女は口を挟む。


「他の誰にも話さないでください。もちろん、召喚されたって事も含めて」


「……何で?」


「ここが、ユーリさんのいた日本とは違うことは分かってますよね?日本では、異世界帰還者は保護の……言葉を取り繕っても仕方ないですね、保護という名の新政府、または旧政府の管理下に置かれるんです」


「シン政府?」


「ああ、すみません、そうですね、新しい政府って事です。日本には新政府と旧政府の二つの政府があるんですよ。旧政府は《中央政府》の日本に対する介入を嫌い、日本を独立させるために活動していて……新政府は事実上《中央政府》の支配下にあるんです」


「日本は植民地になってるって事?」


「そうではなくて……そもそも《中央政府》って言うのは、元々は企業だったんですが、影響力が強くなって、国際連盟の一機関として改編されて、今の形……世界の魔術を管理、監督する国際機関となったんですけど……」


 国際連盟?国際連合じゃなくて?連盟は1950年頃解体されたはず……てことはここは過去なのか?というか、《中央政府》と?よく分からないが、ここもユーリの元の日本の常識は通用しないみたいだという事だけは感じる。


「《中央政府》って言うのは……マギアを使うためのマギデバイスを開発して、ネットワークを整えた組織です」


 そう言って、少女はスマートフォンを取り出す。マギアってなんだ。


「コレがマギデバイス。様々なマギアプリを使えるんです」


 アプリなら分かる。ようやく理解できそうな単語に、ユーリは口を挟んだ。


「いや、スマホだろ?それ」


「スマホ?ユーリの世界にも似たようなものがあるんですか?」


「ああ。スマートフォン。まあ俺は無くしちゃったけどね。電話としても使えて、パソコンみたいにも使えるし、ゲームやなんかのアプリケーションも使えるって奴だろ?」


「賢い電話なんて、洒落た名前ですね、でも……それだけ?」


「それだけって……他に何かあったか?」


「マギアプリは?」


「すまん、そのマギアプリがよく分からないが、普通のアプリケーションと違うのか?」


「ああ。そっか。魔術とかがない世界なんでしたね。マギアプリって言うのは、要するに魔術の事で……正確には、魔術がマギアだと思って下さい。で、こーすると……」


 少女はスマホ……いや、マギデバイスだったか。を操作してアプリケーションを立ち上げた。


 すると、少女を中心とした魔法陣が展開され、その頭上に、何もなかったはずの空間に光が灯る。


「おお?」


 まず間違いなく魔術の明かりだ。何度も見た事のある見慣れた光源だった。


「これを使えば魔術素養のない人でも擬似魔術……マギアが使えるってことです」


「マギアってのは擬似魔術なのか?」


「そういう訳じゃなくて……擬似っていうのは、魔術の行使に必要なマナを自前で用意してない魔術って意味です。ネットワーク上にプールされたマナを使ってるから、マナプールにアクセスできる状況であれば誰にでも魔術現象が起こせるって事なんです」


 ネットワーク上にマナプール?原理が全然分からないが、それが本当なら凄い。


「凄いな、マギデバイス。この世界の魔術はみんなマギアプリ?になっているのか?」


「アプリにならないものも沢山ありますよ。そもそも出来ないものも。マギアプリに採用されているのは汎用マギアだけで。もちろんプロの使うマギアプリには尖った性能のマギアもあるけれど……とにかく、マギアプリは一部のよく使われる汎用マギアだけをアプリ化したものなんです」


 いや、何だプロって。ハーブ茶を口に含む。草の味しかしないが、お茶なんてみんなそんなもんだろう。ユーリは水筒に入っていたにも関わらず、かなり熱いお茶を一気に飲み下す。


「公式化されていない……なんて言うんだろう、土着の魔術みたいなものもあります。汎用マギアに採用されているのは、中東や西洋で発展したクラシックなんですけど……なんて分からないですよね。例えば私の使う」


 少女はやや胸を反らす。あまり大きくはない。


「日本式魔女術とか……これは非公式の、つまりマギアプリにはなっていないマギアなんです」


 と、少女もお茶を飲む。その仕草に、育ちの良さを感じさせるような飲み方だった。


 が、ハッとした様子で、急にワタワタしだす。


「じゃないですよ!えっと……私は何て事を……ユーリさん、渋谷を知ってるって事は、日本から来たってことですよね?日本から異世界に渡って、戻ってきた……てことですよね、さっきの話からして」


「俺の知ってる渋谷はこんな廃墟じゃないけどな」


「あ、渋谷は今地下にあるんですよ。地上は魔物が多いので」


「へー」


「ってことは、過去から来た可能性もあるってこと……なのかな?」


 首を傾げる少女。


「いや、それはないな」


「え、何でですか?」


「魔術だよ。マギアって言ったかな。さっきマギアプリに採用されてるのはクラシックという魔術だって言ってたろ?魔術の発展には時間がかかる。つまり何年も……何十年何百年と魔術の歴史があるってことじゃないのか?魔術の発展は向こうの世界でも時間はかかってた……その魔術の存在を俺は知らない。が、魔術発展以前から来たってことも状況を鑑みてなさそうだ」


 国際連合と国際連盟の違い、技術の進歩具合から鑑みても過去に飛んだわけでも、過去から飛んで来たわけでもないだろう。


「……確かに、魔術が発展したのは遥か昔のことですが……」


「それに……多分俺の知ってる日本にはマナとか魔法の現象を引き起こすためのパワー的なものがない」


「どうしてそう言い切れるんですか?」


「……科学がそれなりに発展しても発見すらされないってことがね……いや、まあこれは憶測だけどさ」


「そうですか……」


「とにかく、過去から来た説も、過去に飛ばされた説も、多分ない」


「なるほど……平行世界……かも知れませんね」


 唸って少女は虚空を見上げる。


「まあでも、俺を召喚したって事は、送還も出来るんだろ?て言うか、この世界の術式調べれば日本に帰る事も、異世界に思い通りに行くことも出来そうだな」


「……」


「……無理なのか?」


「日本では、人の召喚、送還のマギアは禁止されています。私がさっき使ったのは、武器召喚マギアなんです……何で人がそのポートを通れるのか……とにかく、ユーリさんが召喚された事は、日本では禁止された行為なんです」


「バレるとヤバイってのはそういう意味でもあるのか」


「まぁ逮捕されるのは私だけで、ユーリさん拘束されるだけなんですけど」


「拘束も嫌だろ」


「ただし、禁止されてるだけなんです。召喚送還マギアは存在します。だから……何とかします」


 少女は、強く、そう言い切った。


「そうか……」


「呼び出したのは私の責任です。なんとかしてみせます!」


 一介の少女になんとか出来る問題なのだろうか。と思ったが、言わないでおく。ユーリのアテは今、彼女しかいないのだ。


 それより聞かなきゃならないことがある。


「ありがとう。そう言ってもらえると心強いよ。で、君の名前は?」


「あれ?名乗ってませんでした?」


 そう言って、少女は立ち上がり、パタパタとスカートの裾を払う。


「私は渋谷地区、プロブレイブチーム・メダリオンの選手、七星ナギ。よろしくお願いします」


 また謎を呼ぶような自己紹介であった。

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