004出会い
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魔法陣が起動し、幾何学的な紋様が回り出す。それに合わせて、強制転移の文字も、くるくると旋回する。
「そろそろ芋、焼けてるから」
いや他に言うことあるだろう。再度口を開きかけると、景色は一変。
「……力を示せ、異界の聖剣アナ……ぅえあ!?」
耳に飛び込んできたのは、紛れも無い日本語だった。声の方を振り向くと、日本人の黒髪の少女が厨二臭いポーズのまま、固まっている。
少女の示す先を見る。見慣れた魔物がいた。四足歩行の中型獣タイプが4体に、大型の猿タイプが1体。名前は忘れ……え、日本語で日本人なのに魔物?
と考えながらも身体は動く。接敵しながら中型獣タイプを魔術で吹き飛ばし、抜剣しざまに猿タイプの魔物の急所を突き刺す。少しズレた。が、構わず突き刺し、強引に刃を立てて振り抜いた。
周囲を確認する。遅れて大型の猿タイプの魔物が崩れ落ちる。
他に魔物はいない。というか、ここ……
「渋谷のスクランブル交差点じゃないか!?」
見覚えのある交差点だった。学校帰りに何度も寄った事がある。この近くのラーメン屋が好きで通っていたのだ。
しかし並ぶ店に灯りはなく、常に混雑するはずの交差点には少女以外の人気はない。
いやその前に、
「日本で、何で魔術が発動するんだ?」
ティエリエルフィンの理論によれば、魔術はユーリの知る日本では発動しないはずなのだが。
違う、そんな事より。
「戻って……来られたのか?日本に?」
違う、と冷静な自分が反論する。ここは日本じゃない。魔物はいる。魔術は発動する。
「そうか。日本のはずは……ない、か?」
「いいえ。日本ですよ。そしてここは旧渋谷駅センター街前のスクランブル交差点」
そう澄んだ声音で応じたのは、制服姿の黒髪の少女だ。
大型のヘッドセットを首にかけ、傍らには大きなアンティーク調の革製トランクケース。そしてギターケースだろうか、黒いプラスチック製のケース。一見すると、家出少女だ。
「君は……?」
「あなたは、人間ですか?日本人?」
問い掛けようとしたら質問で返された。
「人間だし日本人でもある」
「てことは……異世界帰還者……ですか?」
「異世界……帰還者?」
「何で聖剣召喚で日本人が召喚されたのかは分からないですけど……帰還者なら言っておかないとですね」
少女はそう言って、制服のスカートをパタパタと整えた。
「何をだよ?言っておくけど、ここが俺の知ってる日本じゃないことはなんとなく想像ついてるぞ」
舌が縺れる。日本語を話すのは久しぶりだった。
「違います」
少女が少しむくれてから、薄く微笑む。その笑顔に、ユーリは初めてその少女が美しい顔立ちをしていることに気が付いた。
「おかえりなさい」
その一言で、たった一言だけで。
初めて出会った少女の、ユーリの苦労など知るはずもない少女の言葉なのに、ユーリの涙腺は崩壊し、堪えようのない嗚咽が込み上げた。
「……ただいま」
ただ、絞り出すように。ユーリはそう応じた