表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

代々木公園へ

 午前7時。ナギはいつもこの時間に出るらしい。ユーリも身支度を済ませてナギと一緒に出掛けた。ナギはグラサンマスクを着用し、スポーティな普段着である。ユーリは異世界の服はまずいということで、急遽ナギの姉弟子、坂上キヌの買ってきたジャージ姿である


「訓練は、地上の施設で行うの。マギア使うと地下だと色々篭っちゃうから」


「あー、炎とか出して延焼でもしたら一酸化炭素中毒とかになるもんな」


「あ!忘れてた!ユーリ。火は使っちゃダメだからね。日本ではっていうか、この世界どこでもだけど、火は厳禁」


「……なんで?」


「なんでって……異世界では火を使ってたの?普通に?」


「そりゃ……使ってたけど」


「へぇ……第三世界の魔物は種類が違うのかな?じゃあ分からないよね。ここの害獣は、火を見ると集まってくるし、より凶暴になるの。人類は火薬を使った戦争をして、一度は滅びかけたのよ。魔物の暴走で。ワールドモンスターハザードって呼ばれてる現象ね」


 そう言われてみれば、この世界に来て、火を見ていない。すき焼きもIHだった。熱は大丈夫なのか。


「それは、例のポータル戦争のことじゃないよな?」


「それよりももっと昔。当時の資料はあまり残ってないんだけど……人と人が戦争してた時代の話よ。そのときは火薬式の銃が主流だったの」


「あれ?今は違うのか?」


「……今の銃弾は、マギアで飛ばす弾よ。MAGI弾って呼ばれてる」


 ナギは、いつも持っている楽器ケースみたいなプラスチック製ケースのロックを外して中を出して見せた。


「コレがエルフ式マギア銃。この中に、マギアを発生させる内部機構が取り付けられてて……」


 ケースの底にある箱を取り出し、中から実弾をユーリに見せる。


「これがMAGI弾。カートリッジ部分がミスリルで……あ、大事に扱ってよ。一発5000円位するんだから」


「一発で!?たかっ……いのか?銃弾の値段はわからんけど」


「エルフ式マギア銃ならハンドガンでも300万位するわよ。私のはスナイパーライフルモデルで1000万位」


「……高過ぎないか?」


「ユーリの使ってるミスリルの剣だってそれ位するでしょ?確か知り合いが持ってる、横浜ミスリル社製の両手剣で700万って聞いたわよ」


「俺が買ったわけじゃないから値段は分からない……まあ確かにそうなのかもしれないな。でも実際、円で言われると実感するな……」


「だからプロブレイブは大変なの。下手すると、消耗品だけで年俸使っちゃうから……アマチュアの人とかどうやって生活してんだろ……?」


 俺に聞くなよ。知るわけないだろ。


 渋谷地下街は朝でも賑わっている。というか群れている。長らくこの人混みを忘れていたため、ユーリは人の流れに押し流されそうになる。


 地上へ出ると、井の頭通りを北上する。かつて車道だったアスファルトは、所々ひび割れ、そこから逞しくも雑草が伸びていた。


「ユーリに言うことじゃないかもだけど、周囲に警戒してね。いつ害獣が出ても対応できるように」


 ナギはスナイパーライフルを肩にかけ、ガラガラと簡易祭壇となるアンティーク調の革製トランクケースを引きながら言う。トランクケースの上には、長柄のハルバードまで括り付けてあった。


「……なぁ、荷物は持つよ。魔法鞄ならそのトランクケースも運べるし」


「それをしたらプロとは呼べないわ」


「状況判断もプロに必要な技能の一つだと思わないか?魔物が出てきたら……」


「害獣。ユーリもプロブレイブなんだから正確に呼ぶこと」


「ああ、害獣ね。害獣が襲ってきたとき、まずナギは何で対応するんだ?魔女術?スナイパーライフル?ハルバード?それとも、マギデバイスのマギアプリ?」


「……そんなの……状況によるわ」


「じゃあ、はい、あのビルの陰から猿が出た!何で戦う?」


「ライフル」


「じゃあライフルだけ持てよ。マギデバイスは軽いから良いとして他いらない」


「なんでよ!?」


「理由は、俺がいるからだ。俺は剣と魔術で前に出て戦う。まも……害獣が物陰から出てきても、多分漏らさず索敵できる。ナギはスナイパーライフルで支援する。そう決めておいた方が動けるもんだ」


「……でも何でスナイパーライフルなの?」


「ナギが第一選択肢に選んだから」


「あそこに炎鬼猿が出たらって話ならスナイパーライフルを選ぶって意味よ?ユーリが前衛で戦うならフレンドリーファイアを考えて別のを選ぶわ!」


「じゃあ何選ぶんだ?」


「……魔女術……かな」


「ならナギはトランクケースとマギデバイスで支援な」


「……腰に付けてるハンドガンは渡さなくても良いのよね?」


「どんだけ武装すれば気がすむんだよ……まあかさばらないなら良いけどな。俺とナギは初めてチームを組むんだ。出来るだけシンプルに動こう」


「うぅ……分かったわよ」


 名残惜しそうにスナイパーライフルとハルバードを手放すナギ。かわいい。


「ところで魔女術ってどんなんだ?訓練で見られるもんなのかな?」


「訓練では使わないわ。切り札的なものだから。バフとデバフ……ってわかる?そういう戦況コントロール的なマギアよ」


 バフは、味方への能力アップなどを目的とした魔術、デバフは逆に敵への能力ダウンなどを目的とした魔術だ。一見地味なのだが、非常に厄介な魔術だ。


 索敵をしながら進むこと30分ほど。代々木公園へとたどり着く。


 それまでに出てきた魔物は四つ足の中型5匹……禍牙狼というらしい、そういえばリキがそんな事を言っていた。死体は業者が場所を指定すれば回収してくれるのだという。


 いずれもユーリが遠くから魔術で吹き飛ばした。素材となる部位もないとの事なので、《メダリオン》専属の業者に場所を連絡して放置だ。


「ここ、代々木公園だよな?」


「ええ。その運動場が訓練施設。《メダリオン》以外の人もいるから、おとなしくね」

「人を暴れ馬みたいに言わないでくれませんかね」


「そーじゃなくて……異世界帰還者ってバレないようにね」


「了解」


 7時30分。訓練が始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ