014アナスタシア
コレは消すかも知れません
閑話みたいなものです
昔の、夢を見た。
あれはいつだったか。
正宗有理が本当に小さい頃の話だ。
近所に、アナスタシアという名前のお姉さんがいて、しょっちゅう遊んでもらっていた。少なくとも、当時はそう思っていた。
その頃のユーリには、妹が産まれたばかりで、母親は妹の世話にかかりきりになり、父親は仕事で忙しく、一人で遊ぶことが多かった。
近所の公園が、ユーリの全てだった。
そこに、いつからかアナスタシアと名乗るお姉さんが来るようになったのだ。
アナスタシアは17歳かそこらの少女だったが、当時のユーリにとっては大人と同じように見えていた。
アナスタシアはユーリの側で、ユーリの砂遊びを眺めたり、ブランコを押してくれたりした。
アナスタシアは日本語が上手く喋れなかったので、ユーリは日本語を教えてあげたりもした。
そんな日が、しばらく続く。
ある時、その公園で母親にアナスタシアのことを紹介した。アナスタシアは悲しそうに微笑んだ。
「アナスタシア?って……あなた一体なんのことを言っているの?」
母親の言葉に、ユーリは精一杯アナスタシアのことを説明した。
目の前にアナスタシアがいることを子供ながらに一生懸命に訴えた。
しかし、母親にはアナスタシアのことは伝わらなかった。
母親は、妹にばかりかかりきりになっていた自分を責め、ユーリを病院へ連れて行った。
それから、ユーリはアナスタシアは自分にしか見えないのだと悟った。
アナスタシアはいる。
でも誰も信じない。
ユーリはアナスタシアのことを誰かに話すことをしなくなった。
人の顔色を伺い、適切な距離を置くのが得意になったのはこの頃からだった。
架空の友達がいるとか、やっぱり変な噂になるだろう。
あの公園で遊ぶことはなくなっても、小学校へ通うようになっても、アナスタシアはユーリと一緒にいた。
転んで怪我をしたときは、不思議なまじないで傷を治してくれた。
友達と喧嘩をしたら、謝りに行くように促してくれた。
中学校に通うとき、毎朝アナスタシアは見送ってくれた。
勉強しているときには、静かに漫画を読んでいた。腹が立った。
部活の試合にも見に来てくれた。
高校受験のときには、試験会場で応援していた。邪魔だった。
暗い洞窟の中で、正気を保つために励ましてくれた。
終わりの見えない洞窟の中で、お前は俺の空想なんだと叫んでも、笑って大丈夫と慰めてくれた。
剣の持ち方を教えてくれた。
魔物の捌き方を教えてくれた。
挫けそうになっても、アナスタシアが見ていると思えば、弱音なんか吐けなかった。
ユーリの強さは、アナスタシアに支えられていた。
異世界でも誰にも伝えなかった。
あんなにはっきり見えているのに、誰もアナスタシアのことに触れなかったからだ。
変だな、と思ったことは何度もある。
ちなみに病院では病名すら付けられた。厨二病じゃなくて。
でも、アナスタシアはユーリの頭の中に住んでいるようで、消そうとしても消えないし、助けを呼べば必ず答えてくれた。
アナスタシアの姿はいつでも変わらない17歳のままだった。
……一人遊びをするときは、アナスタシアの睡眠時になった。のは置いておくとして。
夢の中、ブランコを押してくれるアナスタシアに聞いてみる。
ねえ、君は、何なんだ?
アナスタシアは笑って答えなかった。