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011乕徹

 渋谷地下繁華街、道玄坂下ストリート。道玄坂下、と言うのは、上に、つまり地上に道玄坂があり、その地下の道という意味らしい。


 そこを歩きながらナギに聞く。


「何で戦い方を?」


「……強く、なりたいから」


 そう言えばナギは戦い方を学ぶために師匠に教わっているとか言っていた。女の子ってこんな好戦的だったっけか。パッと思いついたのがアナベルとエリアだった。好戦的だった。


 何もおかしくないのかも知れない。


「まあ……それはいいとして。俺から教わって強くなれるのか?多少強いって自覚はあるよ?でも教えるほどかって言うと……」


「ユーリが強くないなら私はそれよりもっと弱い……もっと、強くなりたいの」


「分かった。まあ教えたことなんかないからどうなるか分からないけどな」


「いいわ、そこは自分の中でなんとかするから」


 直向きな女の子っていいよね。


「あ、ここよ」


「……ん?」


 ナギが示したのは、かなり使い込まれた感じのビルだった。古びた看板も、今にも落ちそうなくらいに年季が入っている。ビルに入っているのは雀荘、ファッションへ◯ス、いかがわしい方のバー、いかがわしい方のホテルと、嫌な予感しかしない。


「場所間違ってない?」


「いいえ、ここの工房は、何度もお世話になっているから。《メダリオン》のマギデバイスはここでメンテされるの」


「いや、看板ないし……」


「看板出さなくてもお客さんはたくさんいるし。それに中曽根さん、人見知りだからたくさん来るのが嫌なんだって」


 ずんずんと中に入っていくナギに、ユーリは慌てて従う。人見知りが店を構える場所じゃない気もするが。


 ビルは一階に雀荘、二階にファッションへ◯ス、三階にいかがわしい方のバーが入っており、四階がその工房らしい。ちなみにその上は全ていかがわしい方のホテルである。


 エレベーターはないわけではないが、いかがわしい方のホテル用のため、なるべく使わないのが決まりらしい。


 無機質な鉄製の扉の前のインターホンを鳴らすと、ガチャン、と鍵の開く音が響いた。


 躊躇することなくナギはその鉄製の扉を開く。


「いらっしゃい」


 奥から渋めの男の声がする。


「お邪魔しますね」


 いつの間にかグラサンマスクを外したナギが中に入る。それに続いてユーリは中に入った。


 狭い通路だ。サイドにラックが連なっているからだ。ラックには所狭しと電子部品が並んでいる。


 そこを抜けると、作業場のようだった。工房、と言われているだけあって、様々な工具が至る所に配置されている。様々な種類の部品が並んでいるのだが、それらは几帳面に整頓されていた。


 そのさらに奥。壁一面にモニターが並ぶ中に、長身痩躯で白衣の男がいた。長い白髪のこの男が《メダリオン》のマギデバイスのメンテナンスを担う職人なのだろう。しかし、見た印象は医師を彷彿とさせた。


「ん。君は七星君だったな。君は見慣れない顔だが……」


「《メダリオン》の新人なんです」


「正宗ユーリです」


「そうか。新人、ということはマギデバイスの調整かな?」


「あ、いいえ、彼はマギデバイスを持っていないので新規購入を検討しています……あ、これ、回線契約の書類です」


「マギデバイスを持っていない?珍しいね……新規購入といっても、ここには中古品しか無いが?」


「ええ、中曽根さんの調整したマギデバイスなら中古品でも一級品ですから」


「そうか。そう言ってくれるとこちらも適当な仕事はできないな。ウマい手だ。君、手を見せてくれ」


「ああ、どうぞ」


 中曽根は、ユーリの両手を覗き込み、


「……剣を使うのか?」


 と短く聞いてくる。


「見ただけでわかるんですか。凄いな。剣をというか、剣しか使えないんだけど」


「……随分と癖のある拵えを使ってるんだな」


「拵え……あ、柄のことか?うーん、特に変わった作りじゃない……と思うんだけど。店売りの普通の剣だったよ」


「え、店売りのそのまま使ってるの?」


 ナギが聞いてくる。


「いや、なんか俺の使い方が悪いのか、いい剣でも結構すぐにダメになっちゃうんだよね……だから最終的に店売り品をストックして、使い捨てする戦い方になった」


「……使い捨てって……持ってた剣ミスリル製じゃなかった?」


「よく見てんな。いや、それなりに良い剣は使うよそりゃ。でもそれ以上良くても何故か長持ちしなくて」


 男はユーリの手を見てから何やらブツブツと呟きながらラックから部品を取り出している。


 ゴソゴソと段ボールからマギデバイスを探す男の耳が見えた。エルフだ。長寿で魔法に長けた一族である。


「中曽根オキサトさんはね、あの名工、長曽禰コテツなの」


 ひっそりと告げてくるナギ。いや、ナギさんや。エルフの耳は凄く良いんだけど。そんなひっそりと言っても筒抜けだよ。自分もエルフの血が混じってる癖に抜けてるなぁ。かわいいなぁ。


「ごめん……聞いたことはあるんだけど……刀鍛冶の人だっけ?」


 歴史の授業で覚えるべき人物ではなかったため、ユーリの記憶にはうっすらとそういう人物がいたことくらいしかない。


 その言葉に、中曽根オキサトはギロリとユーリを見てきた。


「あ、違ったかな?すみません。よく知らなくて」


「剣を使うのに私を知らないのか。珍しいな」


 そう言って、オキサトは手元のパーツをちゃかちゃかと組み立てる。


「ゆ、ユーリは……世間の話に疎くて」


 フォローするナギ。しかし、オキサトは無言でパーツを組み立てている。部屋に作業の音だけが流れた。


 組み上がったスマホ……じゃなくてマギデバイスを様々な機器に接続して、オキサトは作業を続ける。


「終わったぞ」


 やがて声をあげて、ユーリにマギデバイスを手渡した。


「外装は最新機のものを使ったが、中身は別物だ。東通工業社製のクロスペリア初期モデルをベースに反応速度重視でCPU、メモリも選んだ。バッテリーの持ちは多少悪いかもしれないが、軽く、衝撃に強いカバーを選んだ。片手で操作しやすい大きさのハズだ。OSは注文がなかったから、いつもの奴を入れた。電話回線に関しては、《メダリオン》のブレイブ用のSIMを入れてある。個人用ではないのだろう?」


「えっと、ありがとう」


 機能的なことはよく分からない。見た目には、普通のスマホに見える。コレがマギデバイスか。


「ついでだ。使っている剣を見せてみろ」


「あ、ああ」


 やっぱり怒ってるのだろうか。何かエルフって俺に対して無愛想なの多いんだけど何でだ。魔導騎士クェンティンフィルとかも俺には厳しかったし。


 魔法鞄からいつも使っている長剣を取り出す。カロッツォというアガテア帝国の言語で銘が入っているのは、異世界の鍛治師の銘だ。肩掛け鞄から長物が出てくる様子にナギは目を丸くする。


「……確かにミスリル製だな。良く作られている」


「その鞄が魔法鞄なんだー……へー、そうやって出てくるんだね」


 ナギも古びた皮鞄にしか見えないであろう魔法鞄に興味津々といった様子だ。


「……君、正宗君だったかな。ちょっとそれ構えてみてくれ」


 狭い室内だったため、慎重に両手で剣を持つ。


「……君な……その剣は片手剣なんだが」


「え?」


「その構えは、魔導騎士流か?」


「魔導騎士流を知ってるのか?こっちでも遣い手がいるのか?」


「エルフの騎士は大体が魔導騎士だ。何故人族の君が魔導騎士流なのかは置いておく。魔導騎士流は魔導騎士剣という特殊な両手剣を使うのに、君は単なる片手剣で魔導騎士流を使っている。剣の寿命が短いのはそれだ」


「……えー……師匠はそんなこと全然教えてくれなかったんだが……てか勝手に魔導騎士流を盗んだだけなんだけどさ」


「アレ、ユーリ、勇者流の剣技を教わったとか言ってなかった?」


「聖剣技な。それは正式に勇者から習った。んだけど、魔導騎士流の戦い方が俺には合ってたからさ……盗み見して練習したんだよ」


「盗み見して魔導騎士流を修められるとは思えんが……珍しいな。人族の魔導騎士か。時代は変わるものだな」


 中曽根オキサトは長く溜息を吐いた。


「正宗君。プロフェッショナルになるのだったら、剣には拘れ。魔導騎士流は剣にマナを吸わせるんだ。通りの良いこのミスリルの片手剣ですら寿命が近い」


「う……すみません」


「プロブレイブなら色々な素材を手に入れることもあるだろう。まとまった金と素材を持って来い。魔導騎士剣を打ってやる」


「えええ!?」


 何故かナギが驚く。


「中曽根さんが、刀を打ってくれるんですか!?!?」


「刀じゃない、魔導騎士剣だ。素材は、ミスリル、アダマンティン、オリハルコンなんかが刀身になる。柄には神木、ドラゴンの皮なんかが良いかもしれない……まあ駆け出しにはキツい素材だがな」


「素材は持ってる……かも」


「なにっ?」


 中曽根は驚きの声を上げる。


 確か、あったはずだ。ユーリは魔法鞄を漁る。


 ミスリルインゴット……使い捨てた剣を鋳潰して売ろうと持っていたものだ。結構大量にある。純度はちょっと自信ないが、これだけあれば100%のミスリルインゴットも作れるだろう。


 アダマンティン……これはアダマンタイトとも呼ばれているが、その塊はエリアが、とりあえず持ってて、と渡してきたのをそのまま入れていた。ティエリエルフィンが魔術で純度を高めていたから大丈夫だろう。結局、加工方法が分からず、魔法鞄の肥やしになっていた。


 オリハルコン……言わずと知れた貴重な金属だが、これも加工の仕方が分からず、仲間は見つけて来てはユーリの鞄に詰めていった。ほぼゴミ袋扱いであった。


 神木の代わりになるのかは分からないが、オノドリムという樹木の魔物の板がある。まな板にしようと思ってそのまま入れっぱなしだった。


 ドラゴンの皮は、様々な用途に使える便利素材として結構使ってしまったが残りがあった。ユーリの鎧にも使われていたはずだ。取り出した皮はエルダードラゴンと呼ばれる物らしいが、伸縮性に難があるもののかなり丈夫だ。これは使えないだろうか。


「こんな感じなんだけど……まだあったかな……?」


「マナストーンはあるか?マナを貯められる宝石でもいいが。それと、火龍の牙は?」


「うーん……あったかなぁ……?」


 マナストーンは聞いたことがないが、貴重そうな宝石や綺麗だからと魔族の宝物庫から持って来たものなら色々ある。


 取り出したのは、彩り豊かな宝石や原石だ。この中にマナストーン的なものはあるだろうか。


「あと、火龍の牙……?」


 火龍なのかは分からないが、サラマンダーだったか?の爪と牙はあった。宝石の散らばる机に並べる。


 ああ、あとエルダードラゴンの牙ならある。あれは火龍なのだろうか。取り敢えず並べる。


「……こんなもの、どこで手に入れたんだ?」


「それは企業秘密で……」


「……まあいい。面白いじゃないか。……珍しい人族の魔導騎士に相応しい剣を打ってやる。ここにある材料は適当に使うぞ」


「ところが、俺は無一文なんですよ」


「ここに並べてあるものを売れば一生遊んで暮らせるだろうに、無一文なのか?」


「……まあ最終的にはそうしようかな、とも思ってました。ていうか、じゃあ好きに持って行っていいので魔導騎士剣作ってください」


「まあ、いいだろう。その鞄には面白くも珍しいものが色々入っているんだろう?今度見せてくれ。お代はそれでいい。私も金に困っているわけではないからね」


 そう言って、今を生きる長曽禰虎徹は笑みを浮かべたのだった。

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