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即興小説トレーニング集

オレだよ、オレ

作者: 橋比呂コー

「オレだよ、オレ」

 まただ。また、どこからともなくそう囁く声がする。


 もうずいぶんと前からだろうか。ふとした拍子に「オレだよ、オレ」という声が聞こえてくるようになったのだ。単なる幻聴にしてはしつこいことこの上ない。


 ある時、俺は試しに、この謎の声との会話に挑戦してみた。

「オレだよ、オレ」

「誰だよ、お前」

 返事はない。当たり前か。傍目からすると、俺が独り言を言っているようにしか見えないからな。


 だが、耳元を風が吹き抜けた。身の毛がよだつ。たちの悪いいたずらというレベルではなかった。


「オレだよ、オレ」


 どうしたことだ。今度は眩暈がしてきた。頭が痛い。ふらついた俺は、街中を行くサラリーマンにぶつかる。怪訝な顔をされたが、それどころではない。


「オレだよ、オレ」


 どこだ、どこにいる。


「オレだよ、オレ」


 その声は次第に大きくなる。なぜだろう。周囲がざわめいている。


 すると、俺の前にぼんやりとした影が現れた。幻影まで目撃するとは、俺は精神を病んでいるのか。

 だが、その影には既視感があった。はるか昔に見たような。


「もしかして、お前か」

 その影がくっきりと人の姿へと立ち代る。俺は「アッ」と声を上げた。間違いない。あいつだ。


 子供のころ、一緒に遊んだ唯一無二の友人。けれども、彼とは永遠の別れをしなければならなかった。俺を遊んだ帰りに、事故に巻き込まれたという。


 そいつは、俺の目前まで迫った。存在しえない体から温かみを感じる。その口から漏れ出す吐息が特に顕著だった。すっと手を伸ばせば、捕まえられそうだった。


「オレだよ、オレ」

 すっと、その影は消えていく。待ってくれ。行かないでくれ。


「オレだよ、オレ」


 俺は、その影に追いすがる。だが……。


 待ち受けていたのは、大型のトラックだった。


「オレだよ、オレ。迎えに来たんだよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] シンプル…!シンプルなのに、怖い…! こう言うさっぱりとしてるのにゾワッとするホラー大好きです。 最初はオレオレ詐欺かな〜?と思って見ていましたが、とんでもない…( ゜д゜) 文章も読みや…
[一言] 一言言わせてもらいます、結末怖っ!! ホラーですかこれ!? 久々に背筋がゾクッとしましたよ(゜〇゜;)
2014/11/08 17:42 退会済み
管理
[良い点] タイトルから察して、てっきり「詐欺」の方向へ進んでいくのだと思ってしまいましたが、いい意味で予想を裏切られましたし、テンポよく読めて無駄な言葉や描写がなく、面白く読ませていただきました!
2014/11/08 17:37 退会済み
管理
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