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僕の三日間文字。  作者: 雪村 之
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零文字  

この現状を、誰が嘘と言えるだろうか。

いつもと同じ家。いつもと同じ部屋。いつもと同じ地球。ただ違うのは、目の前にいる一人の美少女。

え、なにこのラノベによくあるアレ。

とりあえず今は敷かれたレールを進まない脱線した自分の思考回路を正そうと必死になっていた。



そもそも、何で目の前に美少女が居るかっていうと、最早最初の最初から説明しなければいけない。

まず最初はこの世界について話さなければならない。

現在、この世界は文字を生物化できるという不思議な怪奇現象が日常と化しているという設定がある。

こんな怪奇現象の事の発端は数十年前にこの怪奇現象を人類で初めて味わった「結城 彼方」と言う一人の三十代後半の男性の話をしなければならないが、とりあえずは一言でようやくして「結城さんは文字が人になって地球上に存在していくのをみて研究を進めて世界に驚愕をもたらした。」とだけ覚えておけば続きも分かるだろう。


そんな結城さんのおかげで世界には文字を生物化できる人が増え、今や日常と化している。ということになっている。

ちなみに俺、野乃埼 丸男もその一人である。

文字が生物化されるときは何百個もある条件を満たさないと存在することは出来ないが、少し確率でそれが訪れることがある。

それでも絶対条件は全部で五つあり、全ては人類の大半が知っている条件である。

絶対条件の内容は、

一つ、文字自体が生物化されている想像に気づいているか。

二つ、文字がそこに存在したいと言う意識があるか。

三つ、存在する場所が安全であること。

四つ、生物化する人物が条件や生物化した文字への扱いなどの知識があるか。

五つ、絶対に文字に危害を加えられない状況が続くか。


まぁ、ここまで来れば誰もが分かるだろう。そう、目の前にいるこの美少女は文字である。

文字と言ってもかなりの数のなか、この少女の文字は何なのかと言うと。


神。


いや、想像した自分が馬鹿だった。

しかしここで後悔したらどうにかなるというわけでもないので、とりあえずと少女のほうに顔を向けた。

「初めまして、俺の名前は野乃埼 丸男です。」

丁重に自己紹介をする。文字が人物化されたとき、文字の人格は人物化した人の想像した通りに存在する。この場合、俺の想像した神の姿が反映されるのだが。

「ふーん。ののざきまるお、ね。私の名前は神だ!」

バーンと言う擬音とともに発せられた言葉と声で俺の想像した神が反映された。

金髪で腰まで伸びた髪が風で揺れる。エメラルドグリーンの瞳には文字だと言う雰囲気すら残されていた。現代の十代が着てそうな服を身に纏い、フフンと鼻を鳴らしている少女。

そう、俺が想像した神はオラオラ神だったのだ。


「かみ、ねぇ・・・。」

「む、その呼び方は嫌いだ!」

「えーっと、じゃあコウで。」

昔からいたみたいな和んだ空気のまま時間はあっと言う間に過ぎ去って・・・。

「って、んなわけあるかいっ!!!」

俺はとうとう頭の中に沈めておいた叫びを神に浴びさせる。

そう、神に叫ぶのだ。

「そもそも・・・!!」


割愛。


ゼェハァと自分の荒い息だけが聞こえる。畜生。こんなにも叫ぶのって疲れるのかよ・・・。

「おい、まるお。」

「な、何だよ・・・。」

割愛された俺の叫びを聞いていなかったのかのように神、いやコウは言い放った。


「外に行きたい。」と。



文字が地球上で生存出来る期間は三日間。それ以上もなければそれ以下もない。

三日間だけコイツと生きなければいけない。それだけはもう生存しきっている文字がいま横に居る時点で決定されていることだ。

それともう一つ。文字には絶対に危害が与えられない。

世界のたった一つしかない最高の文字はかなりの価値がある。そんな文字に危害なんか与えることが出来るのなら世界は文字を無くす一方だろう。

ちなみに、絶対条件の五つ目は周りに殺意がなければ条件はクリアしているため特にこの項目が一番厄介と言うわけではない。

例えば、今ここで俺がコウを殴ろうとしたとしよう。そうすれば「殴ろう」という気持ちが本心であることを世界が認識したらそこで俺は死亡確定だ。

殺意を感じない距離はおよそ4km。かなり凄い発見をしたが、それには同等の酷があった。

4km離れている女性が例えコウを狙っていなくても世界はその女性を躊躇なく殺すだろう。

そんな世界になった。これが今の世界だと、俺は少し自慢げに言ってみせた。


家から少し離れた場所にあるファーストフード店に入る。興味津々に目を輝かせているコウは俺に質問攻めをしてきた。

「まるお!あれは何だ!」

「あー、メニュー表な。アレを見て買いたいもの買うんだよ。」

「そうなのか。じゃあアレは?」

たかがファーストフード店なのに、と少し自分は思ってしまったが文字相手にそんなこと思っても別にどうもならないな、と思い考えを止めた。

コウを引き連れて注文場所へと足を運ぶ。適当に注文をしてコウのほうへ顔を向ける。

入ってきた時と同じ顔でカウンターの向こう側にある機械の数々に目を奪われている。

「おまたせしました。」

カタン、とトレイの音が軽く耳に響く。ずっとカウンターを覗いているコウを連れて何十席もある椅子から適当に二人席のところへ向かった。

「ほら、食べろ。」

「・・・・これは、何だ?」

「ポテト。食べたら?」

ジリジリとポテトと睨めあいを数十秒したあと、コウは決意を固め一口で一本のポテトを口に含んだ。

モグモグ。モグモグモグ。モグモグモグモグ。ゴックン。

喉を少し鳴らすとコウの瞳に星のマークが写された。

「うまい!!!」

「ん。そりゃ良かった。ナゲットも食え、美味しいから。」

「うん!食べる!」

ナゲットを美味しそうに頬張る姿を見てハムスターを想像した。

あぁ、神がハムスターってそんなのあるわけがない・・・。

少し自分の想像に堕落しそうになったが「まぁ、いいか。」の精神で何とか気分を立て直した。

「まるお!」

「何だよ、あ、お前ナゲット全部食べようとしてるだろ!」

「そうだが?」

「俺の分も残せよ!優しさが無いなお前は!」

いや、神だから結果的に許すけど。

「ん、では三つ残す。」

「それなら許す。」

「・・・・まるおは。」

ポツリとナゲットを飲み込んだコウが話し始めた。

少し和んだ雰囲気が一瞬にしてしんみりとした空気に変わる。

「まるおは、私のことを神だと思っているか?」

「いや、思ってるけど・・・?」

「私は神じゃない。私は、人類が想像する抽象的な存在を表すために造られた文字だ。人工物だ。人類が輝かしい誰もが拝むそんな誠実な人の姿をした存在に名前を付けるために造られたのが私だ。

 ただの存在を表すがための役目しかないのだ。まるおみたいに、自由で人生なんてもの持っていない。存在を表す存在など、哀しいではないか。ではその存在を表すための存在はどう自分がこうやって気持ちを持っているかを周りに伝えればいいのだ。文字は酷なのだ。人工物は世界になんか愛されていない。人類に愛されているだけなのだ。けれど人類も世界には愛されていないのだ。だから人工物である私も愛されないのだ。

 ただこうやって私は存在意義を立てようとする役目しか持っていないのだ。だから愛されないのだ。そんなのは誰もが知っていることなのに、何故か自分だけがこんな考えをしていると思うと途端に悲しくなるのだ。簡単な論理や法則では表せない私たち文字の存在をどう意義しようと言うのだ。生憎、私は神だ。花や草。島や山。実在する存在を表す文字ではない。誰もが知らない、いないが当然の文字なのだ。希望も、生も悪も。抽象な文字には抽象な考えしか持てないのだ。

 だから、文字は人類と関わろうとしたのだ。世界に頼み込んで、自分の存在意義を人類に示してもらいたかったのだ。だって、文字の親は人類だから。親に質問する子供はおかしいか。子供が自分が何なのか知りたいのはおかしいか?おかしくはないだろう?だから私はまるおに聞いている。私は、何なのだ?教えてくれ。私はただ、私と言う存在が知りたい。」

真剣に質問をするコウに俺は何も言えなかった。

だって俺とコウは会って数時間も経っていないから。会った直前に「私は誰だ」と聞かれているのとほぼ同じなのだ。

しばらくの沈黙。裂いたのは、俺だった。


「コウは文字だ。」




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