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静物語 自動販売機

作者: コマダ

勢いで書いてしまいました。

もしよろしかったら、感想をよろしくおねがいします。

『もし、そこの御嬢さん』

 学校からの帰り道のことでした。

「なんでしょう」

『老い先短い儂の願いを聞いてもらっても構わないだろうか』

 元々は白かったとうかがえるくすんだ色をした裸体。過ぎゆく時代を感じさせ、全身から言いようもない哀愁が漂っています。

『儂のちく……いや、右端の一番下のボタンを押してもらえないか?』

 今、なにを言い間違えたのでしょう。大変不愉快です。

 

 この自動販売機は。

 

 ここだと言わんばかりに、自販機のボタンの一つが不自然なくらい激しく点滅してます。そこには『ゴーヤソーダ』なる謎の商品が。ここは沖縄でもなければ、試験品ばかりを取り扱う学園ではありません。いったいなにを考えて、商品化に踏み切ったのかいまいちわからない物でした。そのほかにも商品はありますが、どれもどこの客層に合わせた物なのか分からないようなゲテモノばかり。メーカーはどこでしょう。

『いきなりこんなことを言って、迷惑と思う。しかし、聞いてくれ。儂だって男。かわいくて、若い女の子に自分の一番ええところを押してもらいたい! それが自動販売機にとってどれだけの……って、あの! 最後まで聞いて!』

 背後からの悲痛な叫びを無視して、その日は帰宅しました。


 それからことあるごとに、その自動販売機は私に話しかけてきます。そう遠くない日に自分が撤去されるのを理解しているのでしょう。その理由は分かりませんが、大人の事情というものが色々あるのでしょう。

 たいていは、これから撤去されてしまう身の上話。

 まれに、工場で自分が生まれる時の話とかしてくれたりもしました。今でも初めての塗装が忘れられないとか。

 通る度にくだらない与太話を聞かされ、しかたなく、唯一まともそうなカメレオンコーヒー(?)を買ってあげたりすると、

『ちがーうっ! そこじゃない! そこは全然気持ちよくないんじゃ!』

 と、わけの分からないことを言って騒ぐ始末。しかもよっぽどそのことが気に食わなかったようで、おつりを全部十円玉で返されました。本当に鬱陶しいオヤジ自販機です。


 またある日。

 その日は、珍しく自販機は静かでした。べつに心配をしたわけではないのですが、急に静かになられても不気味です。通り際にチラリと横目で見ると、どこかの不良にされたのでしょう。白い体に赤いスプレーで落書きがされていました。

『もう、儂のことは見んといてくれ……』

 なにをくだらないことでしょげているのでしょうか。

 心なしか自販機のバックライトが暗そうに思えてしまったのは、きっと私の見間違いでしょう。


「へー、ほんとだ。変なものばっかりあるねー」

 翌日のことです。

 私は友人を連れて、件の自動販売機の前へ。

「こんな自動販売機があったんだね」

「ええ、とくにこのゴーヤソーダがおすすめらしいです」

 誰の、とは言いませんが。

 昨日、元気のなかったオヤジ自動販売機がどうにも忘れられなかった私は、学校で友人を誘い、下校しました。そのさいに、変な自動販売機が帰り道にあると話すことも忘れません。

 ま、このくらいのことで元気が出るなら。

 友人はボタンを押します。もちろん、ゴーヤソーダの。

 ガコン! と勢いよくソーダが落ちてきます。

『うぉおおおおおおおおおおおおお!』

 同時にオヤジ自動販売機の歓喜の叫び。

 ゴーヤソーダのあまりの勢いのよさに、きゃ、と私の友人は声を上げて驚きました。そして、かくいう私もオヤジ自動販売機の叫びに驚いてしまい、思わず声をあげてしまいそうでした。

 ジャコン、ジャコン。

 音が響きます。

「あれ? おつりが出てきた。ちょうどだったはずなんだけどな」

『儂からの駄賃や』

 友人は五百円玉を二枚取り出しました。お礼、ということでしょう。ただのエロオヤジとしか思っていなかったことにほんの少しだけ罪悪感を覚えました。が、

『また、かわいい子連れてきてくれたら、もっと弾むで!』

 私は自動販売機を蹴飛ばしました。

「壊れているんですよ」


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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