第4章 全ての縛り
第4章 全ての縛り
第1話 獣人
レオがリーに言った。
「獣人の全てを元の世界に還す事ができるか」
「できるだろう」
アインは、言った。
「そんな事をしたら、獣人の秘密を得る事ができないじゃないか」
アインにとって大切なのは、調べる事、考える事だ。
「俺に考えがある。
獣人が、12個目の影響を受けているとしてだ。
獣人が、居なくなったら12個目はどうする。
対象者を失ったエネルギーは、どうなる。
何処に向けてエネルギーを放出するのだ。
もし、獣人と12個目が関係ないなら、何も起こらないないだろう。
しかし、何かは起きる」
アインは渋りながらも納得した。
そして、リーは獣人を元の世界に転送した。
「その者達」に後に聞いた話だ。
獣人達は、文明の進んだ世界から、強制的に送り込まれたのだと言う。
結果として、この世界で退化して、12個目の影響を受けていたらしい。
後1つだ。
第2話 12個目
12個目は、狂った様にエネルギーを放出していた。
対象者がいない事に12個目は、気付かない。
生命体は、誰もいないのだ。
12個目が揺らぎ始める。
『拒否の閥』が、見え隠れする。
12個目が崩壊する寸前、新和が結界を張った。
12個目から、元の世界への通路まで無数の結界を張った。
通路の出口では、イズミに皆が乗っている。
いや、サムだけが12個目の傍で機会を待っている。
新和の結界の中だ。
機会は、一度だけだ。
サムは、精を得て、イズミにテレポートした。
イズミは、元の世界に戻った。
その瞬間、ワームホールは閉じた。
イズミは、揺れ動く。
ポセイが操作しても、何処に行くのか解らない。
突然、別の異世界に飛び込もうとした。
それを、救ったものがいる。
その者達だった。
「我らにも、精を完全に制御する事はできない。
お前らの真拠に封印するがよい。
縛りは、用意してある」
その者達の手助けで、何とか『命鎮』に辿り着いた。
『拒否の閥』は、12の縛りで封印された。
『命鎮』は、全てが明らかになっていなかった。
未だ、調査途中だった。
この『命鎮』を造ったレンコも、設計以外の未知を持っていた。
第3話 精の影響
突然変異を起こした者が、3人いた。
精の影響を受けたらしい。
1人は、鎮也だった。
思考系に属する。
彼は、判断者だ。
「覚悟の道」を手に入れた。
彼の判断能力は、確信を持ち、鋭くなっていた。
そして、覚悟が芽生えていた。
多くの者を背負う義務を、彼は持っているのだろうか。
能力値を測定した。
P=19Mp,c=33p,f=46MsHz,s=41Mv
彼は、思考系にも係らず、他の数値も高い。
不思議だ。
2人目は、未久だった。
感知系に属する。
彼女は、予知能力者だ。
「遥かの道」を手に入れた。
彼女は、近未来をほぼ的確に、そして遥か先までも予知できた。
能力値を測定した。
P=0Mp,c=5p,f=3MsHz,s=124Mv
速度が、他のものより高過ぎる。
これが、予知能力と関係するのか。
3人目は、イワンだった。
パワー系に属する。
彼は、PKだ。
「対消滅の起爆」を手に入れた。
彼は、物質でも精神でも対消滅波を発生できるようになった。
何故、対象者の情報を得る事ができないのに、対消滅波を発生できるのだ。
それとも、対象者の情報を得る事ができているのか。
能力値を測定した。
P=97Mp,c=14p,f=0MsHz,s=0Mv
やはり、パワーだけが突出している。
第4話 サーラン
サーランが去った。
サーランは、その者達のところに戻った。
彼は、スパイだったのか。
いや、彼が我々に害を与えた事は無い。
彼に助けられた事は、何度もある。
だが、その者達は我々を見張っているのか。
何故、この時期にサーランは去るのだ。
その者達は、言う。
「サーランは、保険だった。
お前達が、本物の危機に遭遇した時の保険だった。
だが、お前達はほとんどを自力で克服した。
サーランの役目は終わった。
これから、お前達の本当の旅が始まる。
もはや、手助けはいない。
我々も、異世界への介入は、あの方の許可がなければできない。
あの方は、お前達が出会う事を願っている方と同じだ」
友との別れは、寂しかった。
だが、サーランの正体は、自分達を遥かに超えた存在だった。
サーランは、正体を隠し友として接してくれた。
サーランに悪意はなかった。
「お前達に最後の贈り物を2つしよう」
第5話 意識の亜空間
鎮也達は、放り込まれた。
そこは、その者達の創った亜空間だった。
そこには、異なる意識が混在していた。
もちろん、精神エネルギーも感覚も存在する。
イズミは来ていない。
自分達の身体もない。
精神エネルギーが掠める。
感覚に捕えられる。
かろうじて、幸だけが平常心を保つ事ができた。
皆に危機感が襲う。
鎮也も比較的冷静だった。
「あわてるな。
先ず、感覚に捕えられる事を回避せよ」
経験だけが、彼らを護る。
ここの精神エネルギーの大きさが、弱められた。
その者達の配慮だろうか。
皆、知っている。
思考は、ブロックできる。
その応用だ。
最初に、分割波を減じる事ができた。
基本をマスターした。
分割波を対消滅させる事もできた。
これらの能力は、新しいものではない。
自分自身の中で、薄い皮で覆われているだけだったのだ。
その薄い皮に気付かなかっただけなのだ。
第6話 ブロックの取得
巨大な精神エネルギーが襲ってくる。
その者達は、手加減を止めたようだった。
鎮也達は、ある程度余裕をもっていた。
感覚波を封じれば、精神エネルギーを避ける事は容易だ。
怖いのは事故だ。
偶発的に、精神エネルギーが直撃する事もある。
彼らは、少しずつ精神エネルギーを減じる事に成功して行った。
そして、対消滅させる者も出てきた。
精神エネルギーを無効化できる者も出てきた。
彼らは、防衛本能に目覚めた。
その者達は言う。
「ようやく手に入れたな。
それは、あの方が、お前達に産まれた時から、与えていたものだ。
だが、これからの旅にそれは充分ではないだろう。
後は、お前達が考えるのだ」
現実世界に戻った。
第7話 魔女
この時、ポセイが突然変異を起こした。
彼は、操作系に属していた。
彼は、裁定者だ。
「不可視の手」を手に入れた。
彼は、触れる事無く装置を操作できた。
操作速度が10倍以上上がった。
ケントの速度も10倍以上上がる。
しかし、未だケントの速度は、数倍上だ。
同期する速度も上がっていた。
瞬時に同期できる。
能力値を測定した。
P=2Mp,c=15p,f=47MsHz,s=102Mv
その者達は、言った。
「もう1つ、贈り物をしよう。
レンコの欠片の魔女達に会うがよい」
魔女達の能力を現出する方法は儀式と呪文だ。
魔女達に訊ねた。
「原理は、解っているのか」
「いいえ、解っているのは、方法だけです」
鎮也達は、魔女の元で修行する事にした。
アインは原理に興味があるらしい。
第8話 修行
修行の最初は簡単だった。
儀式は、能力の発動の準備だった。
鎮也達には、特別な事ではなかった。
精神状態を安定した周波数にするだけでよい。
呪文が難解だった。
原理が解らないから、どうすればいいのか解らない。
諦めた。
暫く、保留にした。
彼らには、1つ気掛かりがあった。
それは、重力が及ぼす「精神の悪意」の問題だった。
悪魔達は、この悪意の権化だ。
彼らを、ある惑星に封じている。
この世界に解き放つ事のできない者達だ。
アインは、この問題にある仮説を持っていた。
「重力は精神を圧迫する。
これは、ストレスという圧力だ。
多少の重力ならば、人類は耐える事ができる。
ストレスは、一定の値までは逆に行動力として働く。
一定の値を超えて、それを内部に溜めると、悪意が芽生えてくる。
ブラックホールのような超重力地帯では、一度にストレスが襲う。
これが、悪魔達の悪意の根源だ。
彼らは、赤色矮星の傍に住んでいた。
その脅威もストレスを加速させた」
第9話 ブラックホール・シールド
我々は、斥力を発生させ、それを調節する事ができる。
ブラックホールの重力を平滑化できるのだ。
既に、過去に開発済みだ。
現在、ムーではブラックホール・シールドの設置が随所で行われている。
この技術を使った装置を持って、悪魔達を封印した惑星に向かった。
悪魔達は、以前と比べて少し落ち着いていた。
この恒星系全てに、ブラックホール・シールドを設置した。
マリヤは、悪魔達の住む惑星に妖精の力を注いだ。
悪魔達から悪意が消え始める。
そして、悪魔達から悪意は消えた。
後は、ブラックホール・シールドの効果を観察するだけだ。
悪魔達の悪意が蘇らなければ、アインの仮説が実証された事になる。
半年が経った。
悪魔達に変化は見られない。
3年経過した後、悪魔達の封印を解く事にした。
悪魔達は、喜んだ。
悪魔達も「契約」という名の呪文を使う。
アインは、ヒントを得た。
第10話 一時の突然変異
アインは、仮説を試したかった。
「おそらく、呪文の正体が解った。
一時的に、自分自身に過度のストレスを掛ける。
すると、遺伝子が反応し、突然変異を起こす。
だが、この突然変異は、一時的なものだ。
呪文は、その突然変異の種別を決定する」
魔女達の元に戻っていたアインは、自らが被験者となった。
過度のストレスを掛けるのは、イワンだ。
イワンは大きい力を持っている。
そして、速度は遅い。
調節しながら圧力を掛ける事ができる。
アインは、魔女達から簡単な呪文を教わり、被験者となった。
成功した。
鎮也達は、魔女達の知る低級から高度な呪文を習った。
その中には、魔女達が禁忌としているものもいくつかあった。
それをここで試すわけにはいかない。
贈り物を手にした鎮也達には、次の異世界が待っている。