第1章 絶対零度
第1章 絶対零度
第1話 冷たい世界
この世界は、冷たかった。
ケントが計測する。
アリスが感覚能力で探る。
この世界の温度は、絶対零度だった。
動くものは、何もない。
アリスも何も感じ取れなかった。
「この世界に生命体はいません」
ケントは言う。
「この世界の空間は薄過ぎます。
重力子も斥力子も動きが鈍いのです」
アインは、考えていた。
理論的に考察した事は、あった。
その時は、存在不可能と結論付けた。
しかし、現実がここにある。
アインは、理論的考察を思い出していた。
「絶対零度の世界では、波が物質化する事はない。
重力子も斥力子も存在する事ができない。
波は、それぞれ固有の小さなエネルギーを持つだけだ。
波の振幅は、無いに等しい。
他の波に干渉できるはずは、ないのだ」
アインは、自分の理論の修正を試みる。
「だめだ。
全てが無限大の解になる。
誰かのいたずらだ」
これは、半分当たっていた。
この世界は、実在した。
そして、直ぐに消え行く運命にあった。
そこに介入したものがいた。
いたずらではなかった。
それは、挑発か挑戦だった。
第2話 アラーム
突然、アラームが鳴り出した。
ケントが危険を察知したのだ。
そのアラームは、真っ赤だった。
最高レベルの警告、避難通告だった。
そのアラームが、鳴り出したのはポセイがケントを操作したためだった。
ポセイは、ケントの潜在的で巨大な能力を引き出す事ができる。
ケントが極大値を取った時、センサーに引っ掛かったものがあった。
だが、その詳細は、解らない。
それは、ケントをはるかに上回る精神エネルギーだった。
ケントと、同期したアリスも生命体を感知した。
その情報収集は、物質の速度に換算して、1ナノ秒で行われた。
だが、その速度がこの世界で意味を持つのか、解らなかった。
鎮也達は、ム‐へ戻った。
第3話 情報
ケントとアリスから引き出した情報を分析した。
アインは、確信が持てなかった。
「何者かがいる。
生命体もいる。
謎だ。
あの世界は、誰かに意図的に、いじられているようだ」
アインの考えは、正しかった。
しかし、この時のアインにそれは解らない。
あの世界は、「ある者のある者への挑戦」だった。
そして、巨大な精神が渦巻き、掠めて行く世界だった。
アリスは、生命体の存在を感知した。
それは、ある者がある異世界から連れてきた者だった。
あの世界の存在は、許されない。
挑戦を受けた者達にとって、許されない存在だった。
その者達にとって介入する事は容易い。
だが、その介入によっての、他の異世界への影響が懸念されていた。
その者達が、ムーに連絡を付けた。
第4話 その者達
突然、頭の中に声が響く。
聞き取れない。
いや、爆発しそうだ。
巨大過ぎる。
鎮也は、思った。
「誰の何の攻撃だ」
その者は、謝罪した。
「すまなかった。
かなり出力は、抑えたつもりだったのだが。
お前達は、混在の世界に行ったな」
その者は、混在の世界とある者達の事を説明し出した。
やはり、混在の世界は、存在しなかったのだ。
いや、存在してはいけなかったのだ。
あの世界は、全ての世界の法則を乱す。
アインの主張は、正しかった。
あの世界が実在してしまったのは、ある者達の意図だった。
ある者達の存在は、確認している。
だが、居場所が解らない。
少なくとも、混在の世界に「ある者達」は居ない。
生命体は、獣人だけらしい。
そして、混在の世界は、いくつもの異世界を瞬間的に掠める。
掠められた異世界は、法則を乱す。
法則が少しでも狂えば、その世界の混乱は予測できない。
ある者達は、『拒否の閥』の『精』を使っているらしい。
混在の世界は、その『精』で、繋ぎ止められているらしい。
第5話 精
「お前達は、精と係った事があるな。
微かだが、精の波動がお前達から感じられる。
あの方…
いや、お前達に頼みがある」
その頼みは、『拒否の閥』をあの世界から持ち出す事だった。
『拒否の閥』を持ち出せば、あの世界は消滅する。
その者達が直接持ち出せない事には、理由があった。
力が巨大過ぎて、混在の世界に近付く事自体が危険だった。
その精『拒否の閥』には、12の封印が掛けられていると言う。
精を固定するには、何らかの方法で、「12の縛り」が必要なのだ。
縛る時には、12、揃わないと縛れない。
解く時には、12、全てを解かないと固定が外れない。
その者は言う。
「お前達に忠告しておく。
あの世界に住む生命体は、獣人だけだ。
あの者達の特性は、パワーだけだ。
後は、自分達で解決するがよい」
「もう一つある。
実在しない精神エネルギーには、干渉するな」
第6話 贈り物
アインは、考えた。
「問題はいくつあるのだ」
この時だ。
「お前達に贈り物をしよう」
レオが突然変異を起こした。
「攻略の糸線」を得た。
これは、事象に対し解決方法を複雑に得る能力だった。
アインの能力とは、性質が違う。
特定の事象にのみ、威力が発揮される。
アインは、能力数値を測定した。
P= 202p,c= 11p,f= 16,321sHz,s= 2,001v
幸も突然変異を起こした。
「無意の祈り」を得た。
これは、精神エネルギーによる攻撃を防御できるようだ。
アインは、能力数値を測定した。
P= 197p,c= 3p,f= 2,767sHz,s= 4,325v
アインは、細かい数値を覚えるのが苦手だ。
c以外の能力数値をメガ単位にする事にした。
鎮也 P=1Mp,c=11p,f=3MsHz,s=3Mv
未久 P=0Mp,c=1p,f=2MsHz,s=10Mv
アイン P=0Mp,c=7p,f=34MsHz,s=2Mv
レオ P=0Mp,c=4p,f=1MsHz,s=0Mv
幸 P=0Mp,c=1p,f=2MsHz,s=4Mv
新和 P=0Mp,c=12p,f=12MsHz,s=8Mv
イワン P=8Mp,c=6p,f=0MsHz,s=0Mv
サム P=0Mp,c=3p,f=9MsHz,s=7Mv
ポセイ P=0Mp,c=7p,f=4MsHz,s=9Mv
マリヤ P=0Mp,c=3p,f=3MsHz,s=1Mv
アリス P=0Mp,c=5p,f=16MsHz,s=5Mv
リー P=0Mp,c=9p,f=0MsHz,s=0Mv
ロバートP=0Mp,c=7p,f=1MsHz,s=0Mv
ケント P=8,765Mp,c=7p,817p,f=5,483MsHz,s=425Mv
サーランP=0Mp,c=1p,f=0MsHz,s=0Mv
値は、小さいものは全て、切り捨てにした。
アインは、近似は嫌いだったが、概算は好きだった。
リーとロバートは、未だ、突然変異を起こしていない。
サーランは、値よりも関数が意味を持つらしい。
第7話 再びの異世界
鎮也達は、再び、混在の世界に行った。
ポセイが、ケントを操作しようとした。
アインが止めた。
「ケントを操作すると、この世界を掠める世界を感知する。
感知すれば、その世界に干渉した事になる。
その者達が言っていた」
「実在しない精神エネルギーには、干渉するな」
これは、ケントの持つ防御力を使えない事を意味する。
防御は、幸だけが、頼りだ。
だが、幸の威力は、試された事がない。
鎮也は、思った。
「贈り物なのだ。
信じよう」
第8話 獣人
獣人達の持つパワーは、凄まじかった。
測定結果が、出ている。
何人かの獣人の測定結果だ。
ほとんど個体差はない。
「絶対零度の中で動く生命体の方がおかしいのだ」
鎮也達は、イズミの作る亜空間の中にいた。
彼らも、絶対零度の中へ生身で出向く事には、躊躇いがある。
ケントは、計算していた。
ポセイの操作はない。
酷く、計算が遅く感じられた。
だが、それは錯覚だ。
2秒足らずの事だった。
鎮也達が、絶対零度の中で生きていられるのは、0.02秒間だけだ。
細胞リサイクルが機能するのは、その時間が限度だと言う。
獣人達の測定結果だ。
P=13Mp,c= 1p,f=0MHz,s=0Mv
Pだけが異常に高い。
彼らは、闘争本能の塊のようだ。
だが、我らに敵意は無いようだ。
しかし、それは、「精に係りがない」時だけだった。
第9話 レオ
アリスが、1つの「縛り」を感知した。
それは、巧妙に隠されていた。
アリスは、何度も感覚の中を彷徨よった。
それは、波の持つ固有振動の迷路の中にあった。
その迷路の中にイズミは、行く事が出来ない。
亜空間の影響で、迷路も動くのだ。
決死隊も考えられた。
だが、誰も死に向かって、迷路に入るものはいない。
レオの異能力が発揮されようとしていた。
未だ、完全に目覚めていない。
「贈り物だ」
皆、レオを信じていた。
レオがアリスに訊ねた。
「迷路の詳細をアインに伝える事が、出来るか?」
「はい。可能です」
アリスは、精神感応でアインに全てを伝えた。
覚醒者は、自由に自分の思考を閉じたり、開いたりできる。
そして、開いている者には、全ての感応ができる。
アインは気付いた。
「我らも防御しているじゃないか。
思考だけだが、防御している」
レオは、呆れた。
「今、それは関係ない。
複雑の木を使ってその迷路が解けないか」
「複雑の木」理論は、かつてヤーナによって提唱された。
ヤーナは、数学者だった。
アインは、その理論をより具体化していた。
第10話 迷路
アインは、迷路をその理論の中に投じた。
解ける。
6つの分岐点を通過すれば、そこに辿り着ける。
今、1番速度を持っているのはポセイだ。
ケントが計算した。
ポセイがそこに行って、「縛り」を得て、戻って来る時間だ。
「0.0034秒」
充分な時間だ。
ポセイは向かった。
ポセイの速度が、彼を救った。
獣人達の攻撃を受けたのだ。
獣人達は酷く遅い。
だが、獣人達の攻撃が間違って直撃すれば、ポセイの命は無い。
幸が志願した。
「私が行きます」
ケントが計算した。
「0.0071秒」
だが、幸の能力は未だ威力が確認されていない。
サムは、何度もテレポートを試みていた。
だが、できない。
アインの予測は、「空間が薄過ぎるから」だった。
ケントも指摘していた。
新和の結界も役に立ちそうもない。
この世界で、空間系の能力者の出番はなさそうだった。
幸に頼るしかない。
幸は、向かった。
そして、戻って来た。
「縛り」を得て、戻って来た。
幸の異能力が実証された。