【1-2】能力の目覚め【secondstage】
さて。
俺は今、帰路についている。
さっさと帰って、己の最高の愉悦を味わうべく、少々足早に歩を進めている訳だが……
「あの、一体どこまで一緒に帰るんですかね衿さん…?まさか家までくるつもりではないっすよね?」
「え?なんかいった?リン君?」
と彼女が満面の作り笑顔で俺の手を潰さんばかりに握り締められたらそりゃあ何も言えなくなりますわ。
「そろそろか…」
もう家は目と鼻の先だった。先ほどから握られている(締められている)手はとうに感覚が無くなっていた。
俺の家は、他の住宅に比べて割かし大きい部類に入る。
白い外観に、なだらかな黒い屋根、庭には無駄に自己主張の大きい木が生えている。
『緑と調和したエレガントな佇まい』みたいなそれこそエレガントな説明をお店の人はキメ顔で言っていたが、今の俺からすれば、『白い五角形と木』くらいにしか思わない。
そして衿はといえば、相変わらず明後日の方向を向いて楽しげにしている。俺の独り言も聞こえていないみたいだ。
「な、なぁ」
「……なんか言った?」
「いや、なんでもないっす」
玄関でさも当たり前のように靴を脱ぎ始める衿に、もはや俺は抵抗という概念を捨てた。
階段を上がって、俺の部屋へ。衿はそのまま入ってきてベッドへ腰掛けた。
「……俺ゲームするから」
「うん、すればいいよ♪」
上から目線…ッ!
俺の買ったゲームは『超新感覚!様々な職業のキャラクターが、広いワールドマップを縦横無尽に駆け周り巡る!』とかいったキャッチコピーのシリーズゲーム。名を『戦と銃と死と…Volume2』と、かなり物騒なタイトルにはなっているが…正直俺は人生の中でこれほどまでの
神ゲーに出会ったことはない、と思ってしまった程の良作。しかも初代よりもさらにバージョンアップ
しているという情報を聞くやいなや、音速で予約を取り付けた。
「……なんか楽しそうだね、それ」
キャラクターメイキングをしていた俺に、衿が話しかけてきた。
「面白いよ、前、俺がやってたやつの続編」
「そうなんだー」
滑るようにベッドから俺の横へよってきた衿は、「貸して」と一言、コントローラーを要求してきやがった。
数分程チュートリアルを楽しむ衿。
そもそも、別に、衿とゲームをしたくないという訳じゃあない。むしろ女の子とゲームをするなんて機会は幼馴染でもなかったら永劫成し得ないことだと自負しているから、どちらかと言えばやりたいと答える方なんだけども…
「これ飽きなさそうだね、リン君……あたしも買おっかな…」
これだ。問題はこれなんだ。こいつにゲームをやらせると…
「あ、ボスモンスターだ」
キャラクターを自在に操り、果敢にボスに立ち向かう衿。
「やった、倒した」
「衿さん、それ負けイベント……」
倒しちゃいけない奴倒すなよ。いや、倒せない奴倒せちゃうなよ。
「これなら2.3日は楽しめるかなぁ」
つまりこういうことだ。コイツはどんなゲームだろうが、『攻略してしまう』のだ。
最初は俺も驚いた。RPGで詰んで飽きてしまった俺のコントローラーをとるやいなや、小一時間でクリア画面が出てきた時にはかなり滅入ってしまった。
「……しかし久々だな、お前とゲームやるの」
とはいえ久しぶりの平和な時間だ。楽しい時間は楽しまなければいけない。
「そうだねぇ、だってリン君がゲーム薦めてくれないじゃん?」
誰がそんなことするか。そうしたら俺の威厳が無くなるじゃないか。自称ゲーマーのメンツが立たない。
「…あ、もう時間が危ないんじゃないか?暗くなってるし。」
こいつがやってるといつクリアされるか分かったもんじゃない。そろそろ帰さねば。
「うーんそうだね。じゃぁ帰るよー。また明日ね!」
「ああ」
なんとか破壊神を追い出すことに成功した。これで俺はつかの間の至福の一時を味わうことができる。
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そして2時間が経過。
「ふぅ…」
大分操作にも慣れ、レベルも上がってきて、充実感が俺を包んでいた。やはり2も神ゲーだった。
やはりゲームは楽しい。俺はこの時間が一番好きだ。
このゲームでの特に好きな点、それは、武器などのデザインが凝っているところ。
剣も種類が豊富で、中でも俺はこの『プロミネンスソード』に一目置いている。
序盤では手に入れられないため、俺は武器カタログをみて思いに馳せることしか出来ない。
「あー『プロミネンスソード』、『欲しい』なぁ――」
突如、激しい閃光がTV画面から発せられた。
「うっ!?」
腕で顔を覆い、目を瞑った。
恐る恐る腕の隙間から目を開いてみると―――
「は……?――」
間抜けな声が出てしまった。
しかし、それくらい信じられないことが起きた。俺は言葉を失うほかなかった。
何故なら。
電脳世界の架空の宝剣、『プロミネンスソード』が。
目の前に現れていたのだから。