泣き虫オッサン恋物語
相談人、オッサンドル・マニスター(48)。
Q.どうしてワシには嫁がいないんじゃろ?
回答者、使用人一同。
A1.チビでデブで天辺ハゲだからじゃないスか。
A2.いい年したジジイのくせに、すぐ泣いて鬱陶しいからだと思います。
A3.というか、50近い加齢臭するオッサンのくせに未だに嫁が欲しいとかキモい。
A4.言えてる。そもそも自分の顔見てモノを言えって感じよね~。
A5.これで金が無かったら終わりだよな。
う…うぉーん!お前らなんか嫌いじゃーッ!家出してやるぅーー!
あ、旦那様。夕食までには帰って来て下さいよー。
うぉーん!
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ひえーっ、カツアゲじゃー!い、痛い痛い!やめとくれー!
…お、おう?なんじゃ、本当にやめおったわい。案外、悪くない若者だったのかのー。
と、思ったら何じゃ喧嘩じゃー。背の高い長髪の若者が乱入して来ただけじゃったよ。
しかし、強いのう。5人を相手にバッタバッタと、こりゃ何とも爽快じゃ!
いいぞい!もっとやれーい!そこじゃ、右じゃ、アッパーじゃー!うっほほー!
ほっほぉーう。結局、あっという間に全員気絶させてしもうたわい。格好良いのぅ。
ん、何じゃ?大丈夫かって。
…え?何と!ワシを助けてくれたのか!
おおぅ、今時何と素晴らしい若者じゃー!感激じゃー!
と、思って抱きついたら殴られたわい。どうも女子だったようでのぅ。
ワシの背が低いせいか、調度良い具合に顔が胸に埋まって…ありゃEはあったのぅ。うひひ。
わー!二発目は勘弁じゃよー!お前さんの拳はやたらと痛いんじゃー!
レイという名の若者は、聞けば天涯孤独の身の上だそうでのぅ。
そ・こ・で、じゃ!ワシはお礼がわりに、レイをワシの屋敷に連れて帰る事に決めたぞい!
なぜか即行で断られたが、必死に足に縋りついて嫌じゃ嫌じゃと泣いて懇願したら了承してくれたわい。
本当に今時珍しい良い子じゃのー。
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レイがワシの屋敷に来てから三ヶ月が経ったぞい。
最初こそ口を開けば帰る帰るとそればかり言っていたものじゃが、最近は諦めたようで大人しく仕事をしとるよ。
ちなみに、仕事内容はな?ワシのボデーガードじゃ。
口の悪い使用人たちは子守がどうとか言うとるが、正真正銘ボデーガードなんじゃ。
まー、怪しい奴は狙撃班が先に排除しとるから、彼女に仕事が回ることは滅多に無いがの。
そういえば、初めて仕事をしとるワシを見た時、レイには珍しくポカンとしとったでな。
そのあと、笑顔で『普段はアレだけど、仕事中のオッサンは格好良いんじゃねーの』と言ってもらえて、有頂天になって抱きついて殴られたんじゃ。懐かしいのぅ。
ところで、普段はアレの『アレ』ってどういう意味なんじゃろ?
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レイが来てから半年が経ったぞい。
何だか、最近ワシおかしいんじゃ。急に不整脈になったり、心臓の動悸が激しくなったり…。
病気じゃろか?病院に行って精密検査を受けてみるべきなのかのぅ。
思えば、レイと一緒の時にその症状が出やすい気がするが、何か関係あるんじゃろうか。
気になって、お抱えの医師に見てもらったら『恋の病』じゃと診断されたわい。
なー!なんじゃとてー!ワシが恋じゃとてー!?
あっ、相手は誰じゃ!…って、レイしかおらんじゃないか。
うーむ、どうしたもんかのー。ワシとレイは年に30も開きがあるんじゃー。
こんなジジイに好かれてもレイは迷惑じゃろうのー。どうしたもんかのー。
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恋心を自覚したワシは、それからレイとまともに目も合わせられんようになってしもうた。
懸想しとる事がバレて気持ち悪がられたら、ワシ立ち直る自信ないんじゃもの。
そしたら、数日経ったある夜にレイから話があると呼び出されたのじゃ。
レイは怒った顔をして『何で、最近俺を避けてるんだ?』とワシに聞いてきた。
どう言ったものか分からんでのぅ。黙っておったら、レイは痺れを切らしたようで『もういい!』と言って駆けて行ってしもうた。
その時、レイの頬にうっすらと光るものが見えたんじゃ。
ひょえー!泣かせてもうたぁ!何でじゃ!何でこうなるんじゃー!
こうなったら臆病になっとる場合じゃないわい!
追うんじゃ、ワシ!ハァフゥ、ゼェゼェ!
うっ、もうどこにも見当たらん!なんちゅー足の速さじゃ!レイ!レイー!
ぎゃふっ!転んでもーた!ひー、痛いぃ。痛いのじゃー。
レイー、戻って来ておくれー、レイー。
うー、グスングスン。情けなさと痛さで涙が出るわい。うー、レイぃぃ。しくしく。
しばらくその場で蹲って泣いておると、誰かがワシの頭をペチンと叩きおった。
誰じゃあ、ワシは今傷心なんじゃー。
って、ワシを叩くのはレイぐらいしかおらんじゃないか!
レイ!戻って来てくれたんかー!レイー!
感極まってレイに抱きついたんじゃが、その時は珍しく殴られなかったんじゃ。
レイ、レイー、誤解なんじゃあ。ワシはただ、レイに嫌われとうなくて。うぅー。
好きなんじゃー。年甲斐も無く、レイを好きになってもうたんじゃー。
怖くて言えんかったんじゃー。ワシを捨てないどくれー。レイー。レイぃ。ぐすぐす。
情けなく泣き続けるワシにレイはため息を一つついて呆れるように『ったく、オッサンはホントどうしようもねぇなぁ』と言ったんじゃ。
そのすぐ後に、ワシのツルツルの頭の天辺にチュという音と共に柔らかい感触が…。
ふおぉぉぅ!ま、まさか今のはっ…!レ、レ、レ………ッ!?
で、気付いたら朝じゃった。どうも、興奮しすぎてあの直後気絶してしまったらしいのじゃー。
何とも勿体ない事をしてしもうたわい。初めてイイ感じのムードになったのにのー。
惜しいのー。
改めて告白し直すと、レイは『おぅ』とだけ返事をくれたのじゃ。
それでも充分嬉しかったワシは思わずレイに抱きついたんじゃが、なぜかいつものように殴られてしもうた。
何でなんじゃ、レイー。気持ちが通じたんじゃなかったんかー。うぅぅ。
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それから一年後、ワシとレイは無事に結婚するに至ったんじゃー。うひょひょ。
レイに頼まれたから、金はかけずに身内だけで式を挙げることにしたぞい。
二人の門出を祝うような青天の中、使用人たちの祝福の花を受けて白い道を歩いたのじゃ。
わーわー。
一応、おめでとうございます。旦那様、奥様ー。
お金を積んで美女を買ったようにしか見えません、旦那さまー。
30も年下とか犯罪臭いッス、この変態ー。
奥様ー、考え直すなら今の内ですよー。
そうです、レイ様。俺とかどうですかー。
わーわー。
相変わらず使用人たちの主人を主人とも思わない酷い言葉が聞こえてきたけども、ワシ今とってもハッピーじゃから気にならんもんっ。
こうして最愛の妻を得たワシは、その生涯を閉じる最後の時まで、それはもう幸せーに暮らしたんじゃよーぅ。
めでたし、めでたしじゃ。ほっほーう。
※備考
オッサン(48)…身長162センチ。体重89キロ。
レイ(18)…身長184センチ。体重63キロ。
小話いくつか↓
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