突然来た少年とユキノフ
「あ……」
「あ」
シイカは突然現れた少年、というより青年に近い男の子と目があった。その子は最初シイカの顔をびっくりしたように見つめていた。それから、ゆっくりと彼女の隣に寝ていたユキノフに視線を動かす。
ユキノフは体を起こした。真っ白な体毛が見たことがないほど逆立っている。体中から殺気が溢れている。鮮やかな紫の瞳はじっと彼を睨みつける。その瞳孔が針のように細くなり、
「シャアアアアアアアアアアアッ!!!」
ユキノフは凶暴な雄叫びをあげて、目の前の少年に襲いかかった。
「う、うわっ!?」
少年は振り下ろされた鋭い爪をかろうじてかわした。腰からさげた細身の剣を抜き放ち、恐ろしい唸り声をあげるユキノフと向かい合った。
「ちょっ、ちょっと待って!」
シイカは声を上げたが二人の耳には入らない。ユキノフと少年は激しく戦い始めた。ユキノフは爪を振り回し、少年を切り刻もうとする。その表情は怒っているようにも怯えているようにも見えた。
(いやだ!こないで!)
呆然と二人の様子を見ていたシイカの頭の中に、ユキノフの叫びが聞こえてきた。彼は心の底から少年を怖がっていた。
対する少年は、ユキノフの声が全く聞こえないらしい。剣を必死に操り、ユキノフの牙と爪に対抗している。剣と爪がぶつかる音と共に「くそっ、何でこんなヤツが……っ!」という少年の声がシイカの耳に届いた。
ぼーっとしていたシイカは、二人を止めなければ、と思い出した。このままではどちらかが傷ついてしまう。シイカは二人の戦いに巻き込まれないように近づきながら大声で叫んだ。
「待ってよ!止めて!!戦わないで!!」