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婚約破棄?ええ、すべて私の計画通りです  作者: めめめ


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第4話 甘い罠はどちらのものか

帝国宮殿の応接室。


高い窓から差し込む光が、床の大理石を冷たく照らしている。


「お呼びと伺いました」


リュシエンヌは一礼する。


その所作は優雅で、完璧だ。


カイゼルは椅子に深く腰掛けたまま、彼女を見つめている。


「王国の市場が揺れている」


「存じております」


「偶然にしては、整いすぎている」


静かな一言。


リュシエンヌは微笑む。


「帝国の情報網は優秀でございますね」


はぐらかす。


だが瞳は揺れない。


カイゼルは机の上に一枚の紙を滑らせる。


北方商会の契約変更通知。


日付は、舞踏会の“前日”。


「説明できるか」


空気が張る。


側近たちが息を止める。


リュシエンヌは紙を一瞥する。


ほんの一瞬。


「……商人は、利益に敏感でございます」


穏やかな声。


「王国の統治に不安を抱けば、動くのは当然かと」


「では、断罪は予測外だったか」


間。


わずかに。


「ええ」


即答。


完璧な嘘。


カイゼルは立ち上がる。


ゆっくりと距離を詰める。


触れないが、近い。


「私は、涙の理由を疑う男だ」


低い声。


「貴女は泣いていた。だが呼吸は乱れていなかった」


静寂。


視線が絡む。


リュシエンヌの唇が、ほんの僅かに動く。


「観察眼がお鋭い」


「答えになっていない」


さらに一歩。


「盤を動かしているのは、誰だ」


沈黙。


彼女は目を伏せる。


数秒。


そして、ゆっくりと顔を上げる。


「……陛下は、どちらをお望みですか」


問い返す。


「無力な令嬢か、計算高い女か」


銀の瞳が細められる。


「後者だ」


即答。


「無力な女に価値はない」


空気が変わる。


リュシエンヌの口元が、わずかに上がる。


初めて。


演技ではない笑み。


「では」


一歩、近づく。


距離がほとんどなくなる。


「もしわたくしが、すべてを計算していたとしたら」


「どうするつもりだ」


カイゼルの声は低い。


だが楽しんでいる。


「止めますか」


「いや」


迷いなく。


「乗る」


その一言に、空気が震える。


「王国を壊すのなら、より効率的に壊せ」


彼の手が、彼女の顎に触れる。


軽く。


逃げ場を塞ぐほどではない。


「ただし」


低く囁く。


「私を駒にするつもりなら、覚悟しろ」


その指が、わずかに強くなる。


「対局者は、盤を共有する」


視線が絡む。


緊張。


熱。


リュシエンヌの心が、ほんの一瞬だけ跳ねる。


想定外。


皇帝は、怒らない。


拒絶しない。


むしろ、乗る。


それは彼女の計算を一段階、狂わせる。


「……面白いお方」


小さく呟く。


「それは、褒め言葉か」


「ええ」


微笑む。


「計算外という意味で」


沈黙。


そして。


カイゼルが低く笑う。


「では、共犯だ」


その言葉は、甘く、危険だった。


リュシエンヌは初めて理解する。


この男は利用できる。


だが同時に、


利用しきれない可能性があると。


盤は、二人のものになった。

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