1 憂鬱な新学期
【side.本田みつぐ】
中学2年生に進級し、学校裏の並木道が桜の絨毯で彩られる暖かな春。
無いと思っていたクラス替えの知らせは、新学期登校初日の俺たち旧1年1組へ衝撃を与えた。
前の担任が、
「多分クラス替えは無いんじゃね?」
と適当に言っていた修了式後のホームルームを思い出すと、実に腹立たしい。
他のクラスでは、2年生ではクラス替えがある旨を旧担任から聞かされていたようだし。先輩から聞かされていた生徒もいるようだが、そんな情報網は旧1年1組では皆無だった。
お陰様で旧1年1組は完全に気持ちの面で出遅れてしまった。
デカデカと掲示板に貼られた俺の新しいクラスは何と3組。
3階の端にある教室で、最も昇降口から遠く移動教室の際には時間を要する教室配置で、俺は〝ハズレ〟だと思った。
〝ハズレ〟だと思ったのはクラス配置だけではない。
幼なじみの笹川や佐藤は1組、1年で話すようになった井上や後藤も2組で、俺だけ3組に割り当てられてしまったのも理由の一つに挙げられる。
何にせよ、新たなクラスで新たな交友関係を築くというのは楽しみ半分、そして不安半分な俺。
昇降口の下駄箱で上靴に履き替えていた俺は、通りかかった教員に声をかけられた。
「おー、おはよう本田。また1年間俺のクラスだな」
「んげ。洞口」
出席簿片手に眠そうな声で話しかけてきたのは、1年の時の担任である洞口だった。
そして残念ながら腐れ縁というやつで、俺は今年もこの如何にもやる気の無さそうな担任のクラスになってしまったらしい。
「ったくよー、一応俺コレでも教師よ?先生をつけろ、先生を」
「………で?その一応先生な洞口先生は何でそんなに眠そうなんスか?」
「んん?そんなの一昨日発売された新作ゲームで、ほぼオールナイト極め込んだからに決まっておろうが」
「もしかして〝初メモ2〟っすか!?」
「おうよ!バッドエンド回避で攻略対象の好感度を上げていくのがこう……難しくてなぁ〜〜」
洞口は普段は気怠げな態度で、やる気をママんの腹の中へ置いてきたと言わんばかりの中年男だ。
だが、趣味は青春真っ盛りの俺らと話しが合う数少ない大人だ。他にもスマホゲーや見ているアニメ、マンガなどの話にもついて来れるヤベェ先生だ。
「ま、本田も担任は変わり映えしないだろうが、新しいクラスで友達作れよ!」
そう言い残すと洞口は立ち去っていった。
クラス替えについて一言愚痴でも言ってやろうと思っていたのに、ゲームの話題ですっかり洞口のペースに乗ってしまった俺はしてやられた。
何はともあれ、憂鬱なスタートになった事に変わりはない。
クラスへ行く足取りは相変わらず重かったが、バカな話で毒気を抜かれた俺は数分前よりはまともな顔つきで教室へ向かえていたのではないだろうか。
【side.矢折しずか】
私は結構、いや、かなり人見知りをするタイプの人間だ。
自分から知らない人に話しかけるなんて硬直して動けないし、ましてやグイグイ周りを引っ張っていけるタイプの人間ではない。むしろ教室の空気といっても過言ではない。
1年の時、国語の朗読で順番が回ってきた時も自分では声を出せているつもりだったのに、周りには聞こえにくかったらしく、次に読む人に迷惑をかけてしまった事もある。
他の授業でもそうであった。
改善を試みたが、どうしても人前に立って話そうとすると上がってしまい上手く話せないのだ。
しかし2年生になり、新入生も入学し私たちもいよいよ〝先輩〟になる。
威厳的なものを保つ為にも、この〝人見知り〟と〝あがり症〟を克服するのが今日からの私のスローガンだ。
ーーーそんなやる気に満ち溢れていた私は今、新学期が始まって早々に絶望の淵に立たされていた。
クラス替えで親友と別クラスになってしまったのだ。
親友のひよりちゃんは1組、私は3組に。
1年の時の担任だった美桜先生はひよりちゃんの1組の担任で、私は今まで授業でしか関わりの無かった洞口先生の3組になってしまった。
「ど、どうしよう!?ひよりちゃん……!」
先程まであったやる気に満ち溢れていた私は、どっかへ吹き飛んでしまっていた。
「しずかちゃんとクラスが離れちゃったのは残念だけど、委員会とか合同授業で一緒になる事もあるって!私も頑張る、ひよりちゃんも頑張る!だよ」
「うう……眩しい……」
親友のひよりちゃんはポカポカとしたお日様のような子で、明るい女の子だ。
ひよりちゃんは誰とでも気兼ねなく話せるし、こんな私でも変わらず親友って言ってくれる優しい子だ。
ひよりちゃんは、私がそれでも不安そうな顔で立ち尽くしていると、私の両手を握ってくれた。
「笑う門には福来る、だよ!ねっ!」
私はひよりちゃんのそんなポジティブな所が好きだ。
私もマイナスじゃなく、こんなふうにプラスに物事を考えられる人になりたいな。
何も新しいクラスで不安な気持ちでいっぱいなのは私だけじゃない。皆んな不安なんだ。
私も、私なりに後悔の無い1年間に出来るように。まずは友達作りから頑張ってみようと思えたのだった。




