五話 (完)
庭に向かうと、ヴァル様が心地良さそうに木陰で目を細めていた。
「こちらだ」
「なあ、名がないと不便だ」
意味深に言うから
「でも、ここだと皆さんないですよね」
「ああ。だが、私は、呼びたい」
≪エリス=ミア≫
人型のヴァル様が、古の声で紡ぐ。
呼ばれた瞬間、存在が造り替えられた気がした。今まで遠かったヴァル様が、一気に近くなる。
「ヴァル様?」
私の唇からは、今まで一度も呼んだことのなかった神獣様の名前が溢れる。
「エリス、嫌だったか?」
「……いいえ」
胸がいっぱいで、何も言えなかった。
心臓がドキドキする。
存在を捕まえられてしまったような、もう戻れない感じ。
「私の巫女、エリス」
低く甘く呼ばれて、まさかとヴァル様を見る。
「やっと気づいたのか」
満足そうに笑って。
「いつから……」
「それは……秘密だ」
ヴァル様はひょいっと私の身体を腕に収めた。
どうしよう、安心する。
恐る恐る胸に顔を寄せると、包み込みように抱きしめられた。
「エリス。私と生きてくれるか?」
「……もう捕まっているのに? ずるいです」
言葉とは裏腹に、頭を擦り寄せる。
顎を掴まれ、唇に柔らかな感触。
「最近……人型多いですね」
照れ隠しに言えば。
「便利だから」
片目を瞑られた。
風が吹いて行く。穏やかな庭に、守られている、と強く感じた。
ああ、どうしよう。
私、生きる意味を、見つけてしまいました。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。




