三話
夜は未だ眠れない。
過去の傷は胸をちくちく刺し続ける。
抜けない棘のようだ。
私は毎夜、ヴァル様の元で泣いた。
彼は、いつも何も聞かず、側にいてくれた。
「神獣様は、お優しいですよね」
ある日、ぽつりと言った。
「優しい?」
意外そうに眉を跳ね上げるから、私はなぜかそれを見て胸がきゅっとなった。
「私、もう泣くのやめようと思うんです。最後に……私の過去を聞いてもらうことは、出来ませんか?」
断られるかもしれない。神獣様にはどうでもいいことだ。でも、この方なら。この方に聞いていただけたなら、前に進める気がした。
「……聞こう」
穏やかに、あんまり優しい声が降るから、また涙ぐみそうになる。
「私、しっかりしてるって言われて婚約解消されちゃったんです。婚約破棄された妹が可哀想だから、婚約者を譲りなさいって」
ヴァル様は、よくわからないという顔をした。
それを見て、久しぶりに笑顔になる。
やっぱり、私はおかしくない。
おかしいのは、家族の方じゃないか。
「ふふ。おかしいですよね」
「……人間は、よく分からないな」
ですよね、と頷く。
心が軽くなった。
ああ、そうか。
私は憐れまれたかったわけじゃない。
ただ、共感して欲しかったんだ。
わかった瞬間、また、神獣様に真摯にお仕えしようと気持ちが立ち上がる。
ふと、神獣様の人の手が、私の頭に触れた。
ゆっくりと撫でられる。
気持ちいい。
思わず戸惑うと。
「人間は、こうして人を労るのだろう。違うか?」
「……合ってます」
思わず体温が上がる。
顔は赤いかもしれない。
ドキドキしてきた。胸が罪悪感で潰れそうだ。
どうしよう。神獣様に、ときめいて、しまっている。




