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名を失った巫女は、夜の守護神に拾われる  作者: 絹ごし春雨


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2/5

二話

≪娘……≫


その神獣は輝いていた。≪夜を渡る大狼≫ナハト=ヴァル。


王都の守り神は、夜に鎮座している。


薄ぼんやりとした灯に照らされる中、対面する。


夜で良かった。私は、震える手を握りしめる。


≪新しい巫女か≫


鎮座した白銀の狼は、腹に響く声で語りかける。


怖い。でも、落ち着く。


膝を折ってひれ伏した。

圧が消える。


≪励め≫


一言、そっけなく。

けれど、許された気がした。


私の弱さも、情けなさも全部見抜かれた。そんな気がしたのだ。


思わず顔を上げれば、ヴァル神が、じっとこちらを見下ろしている。


目が合って魅入られる。


満月のような瞳だった。




「不敬ですよ」


先輩巫女の言葉に、ハッとなり顔を伏せる。


「申し訳ありません」


≪良い≫


ぐるぐると喉が鳴る。

どこか機嫌良さげに、彼は尻尾をゆったりと振った。




名を奪われても、月日は経つ。

自分が誰なのかわからなくなる不安。神殿を回すパーツになったような、人でなくなったような感覚。



私は消耗していた。


巫女A、巫女B、巫女C。私は巫女Zとかかしら。


乾いた笑いがひび割れる。


夜、眠れなくて、部屋の外に出た。


神獣の座す神殿は安全だ。


ひっそりと膝を抱えて泣く。


ひっくひっくとしゃくりを上げて。


どうせ今は、誰も見ていない。


しっかり者なんて幻想、必要ない。


≪娘≫


ふと、呼ばれた気がした。


涙を拭き、顔を上げる。

辺りには人気はなく。


私が行くしかないだろう。



ぐしゃぐしゃの顔で神獣様のところに向かう。


「神獣様? お呼びですか?」


向かえば、私の姿を見て、一瞬の沈黙。


そして。


ヴァル様の姿が縮んだ。


光の中から現れたのは神獣様の色を纏った人型で。


私は息を呑んだ。


「泣けばいい。私はここに居よう」


そう言って側に座るから、じん、と胸が熱くなる。


子供みたいに泣いてしまいそう。


奥歯を噛んで、耐える。


「……っ」


目を伏せて、手が震える。

逃げ出したいのに、鼻の奥がつんとして。


許されている、と安心した。


神獣様は、優しい。


この日、はっきりわかった。


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