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第5話「天空の舞踏会」

最上階の扉が開くと、夜明け前の空が一気に広がった。頂上ドームは透明な球体。床は強化ガラス、その下に雲海。中央で巨大オルゴールが静かに回り、ゆったりしたワルツを奏でている。

ホールの壁面に光の文字が浮かんだ。〈最終操作手順〉──①合い言葉を宣言 ②年賀状データを全球送信。失敗すれば木枯らしが再起動。


義手を損傷したケイが膝をつく。「まだ引き返せる。暴風こそ秩序だ」

私は首を振り、母のオルゴールを掲げた。「ギフトは届く可能性を失った瞬間、ただの紙切れになる。だから止める」


ユトリが投影台に年賀状チップを差し込む。世界地図のホログラムが浮かび、十二の光点が脈打った。

「準備できた。あとは一言」

私は深呼吸し、ドームに声を響かせる。

「ΩGIFT」


同時にオルゴールが一音高く鳴き、塔中の風鈴が澄んだCの音で応えた。高周波信号がアンテナ網を駆け抜け、年賀状の暗号が大気へ散布される。


上空を巡回していたラムダ残存機が青色光を点滅させた。〈全球送信完了──暴風指令解除〉

塔の機械音が止まり、長い呼吸のあと、柔らかな風が流れ込んだ。雲が割れ、冬の太陽がガラス床を黄金色に染める。


ケイは立ち上がり、壊れた義手で静かに敬礼した。「敗北ではない。新しい世界を見届けただけだ」 そして非常リフトに身を預け、下層へ消える。追う理由はもうない。


ワルツが続く。ホログラムの紳士淑女が踊りの輪を広げ、私たちを誘う。ユトリが手を差し出した。

「行こう。舞踏会の招待客は、今は僕らしかいない」

「肩はまだ痛むけど、片腕でもステップくらい踏める」


手を取って一歩踏み出す。雲の切れ間から新しい風が吹き込み、風鈴が優しい和音を重ねた。

母のオルゴールは最後の小節を奏で、静かに止まる。ぜんまいを巻き直すのは、これから始まる日々だ。

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