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第1話「最後の年賀状」

午前五時、灰雲の下で私は配送用自転車〈風神〉を蹴った。荷台のコンテナには十二通――2042年に違法印刷された最後の年賀状が眠る。政府は紙郵便を“ギフト犯罪”と断じ、奪取ドローン〈ラムダ〉を空へ放った。生き残る手段は速度だけ。

高架の影を縫い、チェーンの軽い金属音と心拍を同調させる。ヘルメットARが警告を弾いた。〈ラムダ〉四機、旋回距離百五十。背後でレーザーが舗装を溶かし、焦げた臭いが鼻を刺す。排気ダクトへ飛び込む寸前、交差点から別の自転車が飛び出した。


「危ない!」


衝突。私は路面を転がり、コンテナが弾けた。舞い上がる年賀状を少年が掴む。煤けた制服、だが手は震えていない。

「返して」

「同じ場所に届けるんだ」

少年は裏面を示す。中央塔の座標、その下に赤い一行。


 合い言葉:ΩGIFT


理解より早くローター音。ドローンが低空でレーザーを撒く。私は風神を起こし叫ぶ。

「乗って! 蒸発したくなきゃ!」

少年は荷台へ跳び、私はペダルを全力で踏む。ダクト入口は幅七十センチ、ハンドルは六十五。計算上入る。問題は敵の速度だけ。


「僕はユトリ。君は?」

「アイ。雑談は出口で!」


熱線が後装甲を掠め火花。私は車体を傾け壁面を擦り、火花を撒いて隙間へ滑り込む。入口に突っ込んだドローンが爆ぜ、鋼の破片が背後を叩いた。


暗闇の排気通路を滑りながらユトリが囁く。

「年賀状には〈塔のオルゴールを止めろ〉。起動まで十六時間らしい」

背中のポーチで母の形見――手巻きオルゴールが微かに鳴く。塔、オルゴール、ΩGIFT。点が線になる。


「なら届けるしかない。ギフトは受け取る人がいてこそ完成する」

「了解、相棒。暗号解析は任せて」


私はペダルを踏み直す。排気ファンの向こうに薄い夜明け色が滲んでいた。

サバイバルの幕は、いま確かに上がった。

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