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宇宙放浪者ヘドロ!~漂流から始まる傭兵生活、レジェンダリー装備を頼りに宇宙を放浪するはずが、バカでアホで頭のおかしなヒロインばかり集まってくるんだが~  作者: 村上さゞれ
第1章 海洋衛星カリスト編

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05_六本腕のサイボーグ(ケツの穴狙うのやめてね)

「す、すごい、こんな体力あるひと初めてですよ!」

「えぇ……」

「知能もIQ300超え!」

「えぇ……」

「射撃テストも操縦スキルも満点! 非の打ち所がないです!」

「えぇ……」

「では、次のひと。あなたはそこそこ優秀な体力、知能、射撃、操縦スキルみたいですね。ああ、ご心配なく。あのひとみたいに突出していなくとも、ちゃんとガンダール連邦の国籍は取得できますから」

「はぁ、そうですか」


 受付嬢の方にそう言われ、俺は釈然としないままその場を後にする。

 こういうの、本当であれば実はチート能力があって、受付嬢さんにモテモテ、みたいな展開になるのやもしれないが残念、そんなチート能力ありませんでした。

 体力、知能、射撃、操縦スキル……すべて中の中。うーん、なんでもそつなくこなせるけど、極めることができない器用貧乏な俺の評価まんまだな。


 ちなみに、俺の前にいて持てはやされていたのはどこからどう見ても、完全にサイボーグと化した種族不明の男である。腕六本あるし。

 いや、そりゃ強化された人工肺があれば体力も無限だろうし、脳にインプラント埋め込みまくれば知能だってブーストできるだろうし、射撃の腕も上がるだろうよ。


 くそっ、なんであれでサイバーサイコシスになってないんだ。

 こんなの義体者が百倍有利じゃねーか。


 まぁ、自分の体を改造する金があるというのも、ひとつのステータスなのだろう。理屈ではわかっていても、いざ理不尽を目の前にするとムカつくというか。……ぜってー、金貯まったら俺も体改造して、脳にインプラント埋めまくってやる


 俺はロッカールームで自前の宇宙服を取り出し、それに着替えながら今後の方針について考える。


「これで自分の宇宙船があればなぁ……」


 国籍を得たということは、すなわち傭兵ギルドから依頼ミッションをこなせるようになるということだ。しかし、今の俺はあいにくと宇宙船を持っていない。ということは、どこかの誰かが持つ宇宙船に乗り、船員クルーとして活動しなければならない。


『青年』


 だが、船長に裏切られ、置き去りにされるということもよくある。もっとも、SPACE CITIZENでは悪ふざけといった要素が多かったのだが、現実世界であるここでは死に直結する。

 加えて、ちゃんとした宇宙船に乗ったかと思いきや、実は宙族と繋がっていて無垢なプレイヤーを殺す、といった騙し討ちロールプレイもあり、残念なことに俺も一度引っかかったことがある。

 そのときは死体撃ちされまくり、英語でデスカメラに向かって罵倒・嘲笑を浴びせられたものだ。アメリカのキッズめ、許さん。


『青年よ、君に話している』

「お、俺……!? な、なにか御用でしょうか……」


 そのとき、着替え終わった俺に例のサイボーグ優等生が話しかけてくる。

 表情筋の一切を削ぎ落とし、能面のような面をつけた腕六本もある男は、どうやら俺の宇宙服に興味を持ったようだった。


『その宇宙服、どこで手に入れた?』


 じっと赤く光を灯した義眼に見つめられながら、俺は後ろめたいものもないのに冷や汗をかく。


『市販のものではないはずだ。それどころか、どのメーカーのカタログにも載っていない。オーダーメイドなのは分かるが、もしや極限まで魔改造しているのか?』

「そんなこと言われてもなぁ、身内でもないのに情報をペラペラと喋るほど俺もバカじゃないしなぁ」

『そうか。では、身内になればいいのだな?』

「……は?」


 もしや、俺のケツの穴でも狙ってんのかこいつ?

 そんな予感に、思わず尻の穴をきゅっと身構える俺に対し、サイボーグ男は合掌しながら千手観音のように構える。


『オレは諸事情から今までもぐりで傭兵をやっていてな。訳あって今まで国籍を放棄していたのだが、その必要もなくなったのでな、こうして正規の傭兵になりにきたわけだ』

「もしかして、あんた脱税スキーム組んでいたんじゃないよな。人狩りに目つけられても知らないぞ」

『ははは、幸いそれなりに税金は納めていたよ。もっとも、オレの名義ではなかったが……』


 ちなみに、SPACE CITIZENでは脱税は不可能である。消費税はすべての商品を買うときに自動で徴収されるし、コロニーによっては酸素税や住民税などは取られるものの、所得税は存在していなかったはずだ。まぁ、ゲームの中でまで確定申告したくないもんな。


 あと、この世界では『国籍』と『居住権』は別らしい。

 元の世界では考えられないことだが、星間渡航が活発になったこの世界では、国籍があるからといって好きなコロニーに住めるわけではない。自分が住みたいコロニーがあればそこの地方政府に多額の金を払って居住権を買う必要があり、ここカリストのように人気のある星などはそれなりに税金も高いらしい。国籍はあくまでも戸籍を作るだけって感じかな。

 一方で、発展途上惑星で生まれた無国籍者というのも星の数ほど存在し、彼らは正規の手順を踏んで国籍を取得できなければ棄民扱いになるのだとか。


『聞けば、お前さん宇宙船がないそうじゃないか。そこでお前さん個人に依頼を出したい。今夜、土星圏にある監獄衛星タイタンから――脱獄した囚人の乗った輸送ポッドが、この海洋衛星カリストの沖合に不時着する。情報屋が言うには、それなりの賞金首たちでそこで待ち合わせていた内通者が彼らを回収し、現地の漁船にふんした船で水上都市ニュクティモスを目指すらしい』

「ふーん、それで、今の今まで国籍を取得してこなかったアンタを信頼できる根拠は? やろうと思えば、アンタ、この装備を奪おうと俺を殺すことだってできるよな?」

『そればかりは信頼してもらうほかない。必要であれば前金をいくらか払うこともできるが』

「まぁ、いいか。ここで話すのもなんだ、ロビーの方に行こう」


 俺はロッカーの扉を閉めると、殺風景な更衣室から出て廊下を歩いていく。

 道中、同じく傭兵見習いらしい男にぎょっとされるが、このサイボーグはやはり威圧感が半端ないらしい。明らかに素人ではないもんな。


「その依頼、受けてもいい」

『ふむ』

「だが、いくつか質問がある」


 俺は廊下を歩きながら、隣を歩くサイボーグ男に話しかける。


「この話を知ってるのは他に誰がいる?」

『オレとオレの仲間、あとはお前だけだ』

「情報屋が情報をばらまいている可能性は?」

『ない。そこまで旨味のある情報でもないし、独占契約を結んでいるからな。契約を破れば違約金が発生する』

「そもそも、なぜ監獄衛星タイタンとやらから脱獄したやつらがここを目指す? この星には銀河警察機構とやらの支部もあるのに。だいたい、不審船なんてレーダーの網に引っかかるだろ……」

『燃料不足による航行距離の問題だろう。それにこの星は暗礁宙域が近いからな。よく流れ星が降る。おそらく、小惑星に紛れて降下し、地球圏行きの船に乗るつもりなのだろう』

「船? 地球行きの船はないはずだぞ」

『地球行きはな。だが、月面都市プラトンへの便ならある。ほとんどが輸送船だがな。それをハイジャックしてしまえば、あとは地球に降下して仲間と合流する手筈てはずなのだろう』


 監獄衛星タイタンに、月面都市プラトンかぁ。

 どっちもそそるネーミングというか、一度は行ってみたくなるな。


「だが、まずは傭兵登録だけさせてくれ。それと、依頼ならギルドを経由して正式に俺個人に発注してくれ。そうすればあんたに殺されても、まずはあんたに捜査の目が向くからな」

『うむ、いいだろう。用心するのはいいことだ。いくらしても足りるものではないからな』


 サイボーグ男はすべての手を合わせると、合掌した。


「そうだ、あんたの名前を聞いていない」


 思い出したようにして、俺はそう言った。

 名前も知らないのに、そいつの船に乗るなど自殺行為にも等しいからな。なんなら、装備を奪いにきたときにはこいつを張り倒して宇宙船を強奪してやろう。そんなこちらの考えを知ってか知らずか、サイボーグ男は能面の顔をじっと俺に向けると、機械の声帯を動かして名前を口にした。


『オレの名はジェンガ・デポン、年齢は覚えていない。都市惑星ノクティス・メトロβ(ベータ)で軍を辞め、もぐりの傭兵をやっていた。それで青年、きみの名は?』



チュートリアル指導員さんの登場です。

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