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宇宙放浪者ヘドロ!  作者: 村上さゞれ
第2章 監獄衛星タイタン編

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21_宇宙船修理用ドロイド(日本語鬼畜教育アプリ搭載型ってマジ?)

淫夢営業してすみません。


「《筋力増強パンプアップ3倍(スリーフォールド)》」


 宇宙服の外付けの人工筋肉(主に腕や足など)がボコッと膨れ上がるのと同時に、俺は倒れていた鉄骨を持ち上げると、元の位置まで戻す。一般的な2~3mのH鋼の鉄骨なので、体感からしても三十キロ程度だろうか。筋力増強モードだと楽ちん楽ちん♪

 地下での爆発のせいで、本拠地はいまなお一部が崩落しており、団員たちはその作業に追われているらしく、リンも重傷者の手当てに駆り出されてどっか行ってしまった。


「これでいいか?」

「ああ、助かったよ。傭兵さん」


 油まみれのオーバーオールを着た火蜥蜴サラマンダーの店主が、細長い舌と炎をちろちろと口から出しながら感謝してくる。

 壁一面には解体された労働用ドロイドの腕や、監視ドローンの光学センサー、そして規格の合わない無数のジャンパーケーブルが、まるで機械のつたのように絡み合って吊り下げられている。中央に鎮座する重厚な作業台の上では、一台の偵察用ドロイドがその胸部装甲を無残に開かれ、内部の電子神経を剥き出しにしていた。


「ところで、ここは何を売ってる店なんだ?」

「ここはドロイドの修理屋だよ。……ただし、正規品だけじゃなくて、海賊版、魔改造、何でもありの非合法ショップだね。火星の闇市ほどじゃないが、タイタンいちの品揃えを自負してるよ」

「ほぉ、となると原子力宇宙船を修理できるようなドロイドもあると?」


 俺がそう言うと、火蜥蜴サラマンダーの店主は困ったような表情を浮かべながら、後頭部をぽりぽりとく。周囲では、小型のリペア・ボットたちがまるで店主の手足のようにせわしなく動き回り、レーザー溶接機で火花を散らしている。


「うぅ~ん、そこまでの骨董品を修理できるとなると話は別だね。よっぽど高性能なドロイドか、原子炉が主流だった時代と同じくらい昔に造られたドロイドとかじゃないと、厳しいかもねぇ……」

「そういうものなのか。案外、ぱぱっと修理できそうなもんなんだけどなぁ」


 そのとき、ジャンク置き場になっている瓦礫の山に埋まって埃をかぶっているドロイドを見つけ、俺はスイッチを押して起動させようとする。


「あー、ダメだよお客さん。これは壊れてるから」

「壊れてる?」

「これは日本とかいう地球にあった国で作られた宇宙船修理用ドロイドらしいんだが、死ぬほど古い上に現地の言語のみのサポートしかされていなくてね。日本語? ……とかいうらしい。あんなマイナーな古代言語でしか動かないもんだから、買い手がつかなくって困ってるんだよ」

「日本語?」


 ……ほーん、古代言語ねぇ?

 ここにネイティブがいるんだが。


「それに、人格モデルがね。終わってるから。……まぁ、やめといた方がいいよ。引き取ってくれるってんなら文句もないんだけどさ」

「……いくらなんだ?」

「いいよ、ガラクタだから無料タダでいい。この鉄骨を持ち上げてくれた礼もあるしな」


 そりゃありがたい。

 俺はドロイドの胸の部分にあるスイッチを押すと、機体がガタガタと痙攣したのちに「システム・チェック:正常」「油圧制御:圧力上昇中」「論理回路:全セクター接続確認」などの文字が表示されると、ついに、頭部のモニターにニッコリ顔の絵文字が現れる。


『こんにちは! 私の名前はピング! 日本語教養アプリ搭載型の宇宙船修理用ドロイドです!』

「あーあー、聞こえるか? いま日本語を話してると思うんだが……」

『あーはーはー! あなたの日本語へたくそですね! とてもネイティブの発音とは思えません! 10点中0点といったところです! もっと日本語を頑張りましょう!』

「……あ?」


 めちゃくちゃ爽やかな青年の声でディスられ、俺はひたいに青筋を浮かばせる。

 ぶっちゃけ、ドラえもんみたいな二頭身の図体ずうたいしてるドロイドにけなされる筋合いなどないのだが……火蜥蜴サラマンダーの店主が同情するような目でこちらを見てくる。


「……な? 何言ってるか分からないけど、めちゃくちゃディスられる感じするだろ? 起動したらこうしてけなしてくるんだ。悪いことは言わないから、他のドロイドを買いな。探せば、原子炉を修理できるドロイドがいるかもしれない」

『原子炉ですか? それなら私、直せます! なぜなら、私の作られた年代は原子力宇宙船が主流だったころ、地球人たちが火星に移住してから百年ほどが経った時代ですから、原子炉の修理ならお手の物です!』

「おい、こいつ原子炉直せるって言ってるぞ?」

「あんちゃん、こいつの言ってる言葉が分かるのかい?」


 分かるも何も、ネイティブスピーカーだぞ。

 これはあれか。多言語翻訳インプラントが機能していない……もしくは搭載されていない旧時代のドロイドだから、古代言語でしか動かないポンコツ扱いをされてしまい、今の今までこんな場所で眠っていたのだろうか。

 そう考えると、なんか目頭が熱くなるね。


「俺の名前は……ヘドロ。傭兵をやってる。今は、訳あってここ監獄衛星タイタンに来ているが、もうじき地球に戻ろうと思ってる。そこで宇宙船の修理要員が欲しいんだが……」

『あーはーはー! ごめんね? ちょっと笑ってしまいました! ヘドロなんて名前、そんなのはもう名前じゃないでしょう。あなたの母親は自分の息子に「ドブ」という意味の名前をつけるのですか?』

「馬鹿、これはプレイヤーネームだ。ちょっと記憶喪失で本名を忘れてるだけで、本名はたぶんちゃんとしてるっつーの!」

『あーはーはー! 自分で名付けたのなら、なおタチが悪いです! そんなキラキラネームはもう日本語とは呼べないでしょう。……はぁ~~(クソデカため息)、日本人の教養レベルはここまで低下してしまったのですか? それともあなたは日本人を名乗る在日スパイですか?』


 なんだ、こいつ――!!

 このSiriを死ぬほど性格悪くしたようなAI……どうりで店主に人格モデルが終わってるとか言われるわけだ。


「いや、だからぁ、俺は純日本人だって。実家に掛け軸だってあるんだぞ?」

『では、あなたがちゃんと日本語を話せるかテストします。「わたしはあんこが食べたい」というフレーズを繰り返してください。……はいっ、せーのっ、リピートアフターミー?』

「わたしはあんこが食べたい」

『バカヤロウ! お前頭あるのか? バカっぽい喋り方するなよヘドロ野郎! その発音だと『女性のアソコを食べたいです』と言っているようなものだぞ!』

「別に、ま○ことか言ってねーよ⁉ 勝手に改竄かいざんすんな、カスドロイド⁉」


 思わずツッコミを入れてしまいながらも、ピングとかいう名のドロイドは盛大に顔代わりのモニターに、ため息をつくような絵文字を表示させると「やれやれ」と言わんばかりにモニターを左右に振る。


『もういいです。あなたは日本人をかた似非えせ日本人だということですね。もうお前に用はないです。帰ってください。さようなら』

「ほーん、日本人だって信じないなら、こっちにだって奥の手はあるんだからな?」

『なにを……』


 俺はそう言うと、地面に寝っ転がり、盛大に喘ぎはじめる。


「イキスギィ! イクイク! ンアッー! 枕がでかすぎる!」

『っ⁉ おい⁉ あっははは、4ねよマジで。はははははは――!』

「俺は何も言ってないぞ? ただ、ちょっとあえぎたくなっただけだ。これで満足したか?」


 俺は立ち上がると、涙を流しながら爆笑する絵文字を表示させているピングに立ち直る。

 うっ、周りの視線が痛い。このネタは日本人にしか伝わらないせいで、これじゃあ俺が突然、喘ぎ声を上げはじめた変態ヘンタイみたいじゃないか!


『ですが、うん、いいでしょう。あなたを純日本人として認めます。まさかこの時代に、あの凶悪なミームを知っているひとが生き残っていたとは。すこし感動してしまいました』

「じゃ、俺の宇宙船直してくれるんだな?」

『はい。いいでしょう。そこの店主から正式に譲渡されたのであれば、私が文句を言う筋合いもありません』

「だってよ。説得できたから、店主さん、こいつもらってくぜ――」

「ほんとかい? いやー、助かるよ。いつも場所食ってて困ってたんだ。これも縁ってやつかな」


 火蜥蜴サラマンダーの店主が驚いたあと、納得したような表情をするなか、俺はドロイドの経年劣化の具合を確かめる。幸い、管理状態がかなりよかったのか、埃をかぶっている以外はそこまで劣化していないように見える。


「んじゃ、俺たちの宇宙船は八番ポートとかいうところにあるらしいから、後はよろしく~」

『了解しました。パスキーは持ってますか?』

「げっ、そーいや、シャロンが独占してるんだったか。ここの上層ってとこに金髪縦ロールの下乳したちちが見える服を着たバカがいるから、そいつからもらってくれ。たぶん、カンフーショップにいると思う」

『了解しました。では、また後ほど会いましょう~~!』


 そう言って、本拠地から去っていくドロイドを、俺は頼りない気持ちのまま見送るのだった。



追記。

作者の心が折れたので打ち切りにします。すみません。

4月上旬に別作品を投稿する予定です。よろしくお願いします。

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