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宇宙放浪者ヘドロ!  作者: 村上さゞれ
第2章 監獄衛星タイタン編

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16_性犯罪者と面会(カンフーグッズ爆買い)


「オレは悪くない。ちっとばかしガキを無理やり孕ませたのがまずかったから、証拠隠滅しようと切り刻んでくまの餌にしてただけなんだ」


 囚人がいた。

 下三白眼で目の座った――それでいてひたいに獣の十字のひっかき傷がついた――男は、規定のオレンジ色のジャンプスーツ(囚人服)に身を包み、自らの罪を誇るような態度でスツールに座っていた。

 メロウはにこにこと笑みを浮かべながら、ガラス越しに質問をする。


「あらあら、何回ほどそれをやったので?」

「やっちまったガキは56人だ。山賊のたしなみってやつでな、あの頃の俺たちは世界で一番自由だった。賞金額が聞きたいか? 一時期は八百万エーテルが俺の首にかかってた。第一級のおたずね者ってやつだ。……あんたも良い女だな。子ども型だったらぶちかましてやりたかったぜ」


 面会をするための部屋は細長く、中央を床から天井まで伸びる分厚い、防弾規格のポリカーボネート製ガラスが貫いている。このガラスこそが、外界と囚人を隔てる絶対的な境界線だった。二人の間にはガラスを通して会話するための、独立した通信モジュールが置かれている。


「おい、19-MA番、時間だ」

「離せ、離せよ! また、あんな暗いとこに閉じ込められるのは嫌なんだァ!」


 そう言って、髪をマンバンのように後ろで結わい、抵抗していた強姦魔は首輪の電気ショックで気絶し、再び、牢屋へと収容されていく。メロウはにこにこと満面の笑みでそれを見送ったあと、手元のタブレットを操作し、次の性犯罪者との面会を希望する。

 すると、メロウの後ろで立っていた女の刑務官が待ったをかけた。


「メロウ殿、いくらあなたがアンドロイドとはいえ、これで百人目です。すこし休憩してはどうですか」

「いいえ? 名簿にはあと三百人は性犯罪者がいるそうですね。その方々と会わせてほしいのです」

「しかし……」


 近くの女性の刑務官が目を泳がせるなか、メロウはにこにこと造り物の笑みを浮かべる。


「いいではないですか。別に面会するだけ、なのですから。その際にかかる面会費用ならいくらでも払いますとも。ここにマネーパスがありますからね。そう、いくらでも――」

「そうですか、分かりました。メロウ殿がそうおっしゃるのでしたら、私からは何も言いません」

「では、次のクソオ――方をお願いします♪」


 そう言って、メロウは次に入ってくる性犯罪者を満面の笑みで待った。



    ***



「レッドリー様の顔がプリントされたTシャツ、精巧な出来のレッドリー様のフィギュア、そして何より映画に登場したヌンチャク、三つ合わせて5000エーテル。……どうよ、これ以上はまけらんねぇな」


 店内には黒虎の刺繍入り道着、青銅製のトンファー、手足の鍛錬に使う鉄砂袋、少林寺の薬酒まで揃っており、雑多な道具屋といった品揃えだった。客は他におらず、本来であれば閑古鳥が鳴いているだろうことが予想できる。


「はぅっ……そこまで安くしたら、採算合わないんじゃないんですの?」

「いいんだ。どうせ、海賊版のコピー品だからな。オレちゃんの本業は店の裏手でやってる電子機器の修理。こっちは正直、趣味でやってる店さ。だが、まさかこんな場所で同じ趣味を持ったやつと出会えるなんてな」

「わたくし、火星にあるこういう店はすべて行き尽くしたんですのよ。それなのに、タイタンでこんな素晴らしいラインナップの武器屋に出会えるなんて……感無量ですわ――!」


 シャロンは涙ながらにカウンターに身を乗りだして、店主に三点セットを差し出す。店主は現金5000エーテルを受けとると、いま所有権が移ったと言わんばかりに肩をすくめる。


「がはは、そうか。ちなみにこのヌンチャクは海賊版とはいえ、地球で出土したやつと同じ材質でできてるからな。これがあればどんなギャングも敵なしだぜ。……どうだい、嬢ちゃん。試しにそこで振ってみるのは」

「……いいんですの?」


 ヌンチャクは木製ではなく、軽量かつ高強度のカーボンチタン合金で作られており、チェーンの連結部には特注のベアリングが仕込まれていた。

 シャロンが試しにヌンチャクを手にとった、その瞬間、身体中から研ぎ澄まされた集中力が溢れだす。

 シャロンは一度、重さを確認するようにゆっくりと振ると、すぐに加速させた。


「ふぉ、あちゃ――!」


 シャロンは、頭上、背中、脇の下を、目にも留まらぬ速さでヌンチャクを移動させた。その動きは流れるようで途切れることがない。特に、鎖を振り切って一瞬だけ静止させ、次の瞬間にまるで弾かれたように逆回転させるテクニックは、並大抵の鍛錬では成し得ないものだった。


 ……ヒュッ、ヒュッ、ヒュン!


 数秒後、シャロンは何事もなかったかのように、ヌンチャクをピタリと停止させた。先端は彼女の左脇の下で、まるで吸い付いたかのように静止している。


「うーん、完璧ですわ。とくにこの手に吸い付くような感触……これをコピー品で出せるのはなかなかないですわよ」

「お嬢ちゃんほどの達人がそう言うのなら、間違いないんだろうな。オレちゃんもわざわざ月から輸入しただけあったぜ」


 地球に近い月では今尚いまなお、旧文明の出土品がもっとも集まる場所であり、回収サルベージを主とした廃品回収業者スカベンジャーも多い。その中には当然、ビデオテープなども含まれており、著作権など切れたそれがネット上に違法アップロードされ、今でも旧時代の映画のファンは増え続けている。


「とくに好きなのは「燃えよドラゴン」ですわね。レッドリー様の端正な顔立ち、鋼のような肉体美、突き刺す様な眼光、それを完璧に映すカメラの構図と演出。すべてが神ですわ」

「そんなかに出てきた名言は何だったけか。たしか――」


 シャロンと店主は同時に思い当たったようにして口をそろえて台詞セリフを言う。


「「考えるな、感じろ!(Don't think. Feel!)」」


 そうして店内には大きな笑い声が二つ響きわたった。

 外にいた通行人はギョッとしたものの、とくに気に留めることもなく通り過ぎていくのだった。



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