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宇宙放浪者ヘドロ!  作者: 村上さゞれ
第2章 監獄衛星タイタン編

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13_アナモグラ(タイタン解放戦線です)

ヒロイン不在でほんますんません。


『タイタン解放戦線』

 そう名乗った彼らは旧式の宇宙服に身を包んでいた。といっても、見た目はそれこそNASAの宇宙飛行士が使っていたやつに近いのだが、唯一、違う点として彼らの胸のあたりに赤い光を漏らす熱源炉のようなものがついている。

 大きさは両手のひらほどだが、その内部では燃料が静かに燃焼し、極低温の環境下で、彼らの心臓と主要臓器を凍結から守る最低限の熱を供給しているように見える。


「最下層にもぐってばかりの『アナモグラ』が何の用だい」

「地盤沈下で多数の死傷者が出た。ここの医療ポッドを借りさせてもらいたい。何度も言うが、これは強制であって協力要請ではない。分かったらすぐ患者をすべてどかし、我々の重傷者を優先して治療させてもらおう」


 彼らはしものついた高出力レーザー射出装置を構えながら、特殊部隊のような連携で教会の中央まで入ってくる。

 やがて、担架たんかに乗せられた患者がふたり担がれて入ってくる。彼らは手足が変な方向に曲がっていたり、出血が酷かったりと明らかに重傷だった。


「ここはアタシの母親が所有する教会だよ? それなのに、土足で入り込んできて患者をどかせろだなんて穏やかじゃないね」

『黙れ! お前らの暮らす中層のインフラを整える金を出したのは俺たちなんだぞ! 監獄から電線を引いたのも、水道管を繋げたのも、酸素プロセッサをあちこちに配置したのも、ぜんぶ俺たちが金を出したんだ!』

「……ふーん、で、その金を稼ぐために、この前の脱獄だつごく事件を起こしたってのかい」

『…………』

「相手は宙賊だってのに。情けないねぇ……」


 しばし、婆さんとタイタン解放戦線の皆々様が黙り、気まずい空気が流れる。

 話の内容的に、たぶん海洋衛星カリストに逃げたジン・ヒル(強化発勁でうんこ漏らしたあいつ)くんのことを言ってるのかな? なるほど、現地での協力があったわけか。それでヘカトンケイルとかいう軌道爆撃兵器も役に立たなかったと。


『俺たちは取引通りに脱獄だつごくさせただけだ! 主要インフラに傷はつけていない!』

「バカどもが。脱獄をビジネスにしやがって。そんなだから、刑務所長の怒りを買って地盤沈下なんか起こされるんだ。あれは崩落事故に見せかけた処刑だよ。そんなことも分からないのかい」

『地下を意図的に爆薬で崩落させるだろうことは事前に予測していた。しかし、まさか鉱夫として刑務作業中だった囚人まで巻き込むとは思わなかっただけだ。……だが、どのみちこれでダイヤモンド社への鉱物資源供給はとどこおる。次はもっとうまくやるさ』


 ちなみに、俺はこの話に巻き込まれたくないのでさっきから両手を上げて、壁際で無害なことをアピールしてるよん。こんな余所よその土地のいさかいで撃たれたら、たまったもんじゃないからね。


「今度は何をするつもりだい。ついこの前にまた監獄の壁を爆破しただけじゃ飽き足らず、タイタンとカリストの防衛ネットワークにウイルスを流して、輸送ポッドの手配までして……うちの妓女ぎじょ見習いの子だってひとり拉致らちられたんだ。……あんた、その損失わかってんだろうね?」

『……すべてが終わればそのくらい払うさ。たかがガキひとりくらい安いものだ』

「タイタンの解放を目的とするやつらとは思えないセリフだねぇ。いつから、あんたらはテロリストに格落ちしたんだい」

『…………』

「出ていきな。あんたらの活動に、うちらを巻き込むんじゃないよ」

『そうはいかない。ここはタイタン解放戦線でも重要な医療施設だ。悪いが協力してもらう』


 そう言って、タイタン解放戦線のおそらく隊長らしきひとがばあさんの眉間に銃口をくっつける。丸いヘルメットの銀色の鏡面仕上げ越しに、男の視線と婆さんの眼光がぶつかり合う。


「――――」


 すっげ~、話の内容はさっきからクソつまらんけど、ドラマの生撮影見てるみてーだ。


 それはさておき、うーん、どーしよう。

 めっちゃふざけたい。単純にチョケてみたい。


 俺はよくこういう真面目な場に遭遇すると、みんながタブーだと思ってる行動をしたらどうなるのだろうという知的好奇心が他人より強いらしいのだ。たとえば、ここでいきなり俺がちんちん出して「おっぱっぴー!」とか絶叫したらどうなるんだろう、とかね。


 わくわく。

 やってみようかな。きっと後悔するかもだけど……うん、よし、やろう。きっと、みんなびっくりしてくれるに違いない。

 そう思って、俺が宇宙服のズボンに手をかけた、そのとき――



「待ちな!」



 すぐ横の医療ポッドの蓋が開き、寝たきりかと思っていた105歳の婆さんが起き上がる。

 ほんとに生きてたのか~~⁉ という驚きはさておき、枯れ枝のような手足を動かして105歳の婆さんがしっかりとした足腰でポッドから出て、二本足で立つ。


「母さん……」

『ここの管理人か。ちょうどいい。今すぐ、医療ポッドをすべて開け、我々の患者を治療させてもらおうか』

「それは構わないよ。だが、その代わりにアタシたちをあんたらの本拠地に連れていきな」

『何を――』

「ここに運ばれてきたのは、重症患者のうちのごく一握りなんだろう? アタシは医者じゃないけど、簡単な治療くらいならしてやれる。メディカル・ペンも使えないあんたらのことだ。どうせ、包帯も満足に足りてないんだろう」

『…………』

「運べるやつから、ここに運び込みな」

「母さん……」


 楼主の老婆が、105歳の自分の母親の発言に目を丸くする。

 まさか手を貸すとは思わなかったのだろう。

 もし、鉱石ゲリラたる彼らに手を貸したのがバレれば、監獄から目をつけられるのは自分たちだというのに。……まぁ、そんなこと俺には関係ないんだけどね。


 そろり、そろりと俺が教会の裏口から出ていこうとしたとき、105歳の修道服を着た婆さんから視線ひとつ向けられずに呼び止められる。


「それじゃ、行くよ。そこでパンツ脱ごうとしてた若造」

「えっ、俺も……?」

「そりゃそうだろう。他にパンツ脱ごうとしてるやつなんてどこにいるんだい」

「な、なんで……?」

「男だろ。瓦礫のひとつくらいどかしてもらおうかと思ってね」


 アナモグラたちの視線が突き刺さり、俺は「うぐ……」と変な声をあげる。

 なんでやねん。

 俺、別に目立ってなかったはずだぞ。




用語。

「アナモグラ」……タイタン解放戦線のメンバーで採掘担当部門のこと。最下層の地下鉱山で囚人の掘っている鉱脈とは別の鉱脈で無許可で採掘をしている連中のこと。基本的に衛星タイタンはダイヤモンド社がすべての土地を所有しているので、企業を通さず鉱物資源を売りさばく彼らは犯罪者になる。


アフリカで企業の原油パイプラインに穴開けて、勝手に自分たちで違法精製して密輸する原油ゲリラを想像すると分かりやすいかもです。

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