06_入星審査場(保安検査場も兼ねてます)
***
「お客さん、こんな古い宇宙船、うちじゃ修理できませんよ」
一分後。
宇宙船から降りて、開口一番に主任技術者の囚人にそう言われ、俺は白いため息を吐いた。
声色が妙に冷たいのが気になるが、まあ骨董品を持ち込まれればそう言いたくもなるのだろう。
「このフレーム、この推進モジュール、どこの博物館から持ってきたんですか? うちのデータベースにはこの型の部品のデータすら残っちゃいませんよ。最新のドロイドもこんな骨董品には触れたがりません」
「ほんのちょっと、原子炉を修理するだけでいいんだ。たぶんヒビが入ってるだけだから、頼むっ、修理してくれぇ!」
「原子炉って……勘弁してくださいよ。何世代前のエンジンなんですか。そんなの弄ったことないですし、プレミアがついてる旧世代機なんて触りたくないですよ。一応、燃料棒は在庫があったので補充しておきます。……それでは」
そう言って、さっさと別の宇宙船の修理に向かう主任技術者の囚人に、俺はがくりと肩を落とす。その落胆は必然と宇宙船のパスキー持ちであるシャロンへと向かう。
「どーすんだよ、シャロン。修理できないって言われたぞ」
「ということは、自分たちでどうにか直すしかないということですわね!」
「げぇ~~、それじゃ、俺たちこの星から出れねぇじゃん」
さらなる落胆に頭を悩ませていると、入星審査カウンターの前でリンがこちらに向かって手を振っている。早く来いとのことらしい。
仕方なく、俺たち三人が行くと、カウンターに設置されたドロイドの目が赤く点滅する。
『情報端末を提示してください』
「ん」
カウンターに端末を置くと、審査官ドロイドがそれを手にとり、手元の装置に差し込む。
ピピ――と軽快な電子音を鳴らすと同時に、傭兵ギルド所属の国籍持ちであることや、リンが滞在許可証を発行していることなどが筒抜けになる。別に調べられて困るようなものではないが、漂流していたことといい、すこし妙な経歴をしているので冷や汗をかきそうになる。
『ヘドロさんですね? つい先日、傭兵になったばかりですが、この星に来た目的はなんでしょうか?』
「観光だよ。チョメチョメしに来たんだ」
『ナルホド。ですが、この星は監獄衛星という特性上、本来であれば観光目的の渡航者を受け付けておりません。そのため、記録上では監獄にいる囚人との面会希望が目的ということになりますのでご了承ください』
「了解だ」
そこで、情報端末を返してもらい俺は保安検査場へと向かう。
続いてシャロンが情報端末を出し、審査官ドロイドが同じような質問をする。そして次にメロウの番になり、審査官ドロイドが何かを指示した……のように見えたのだが、メロウがなぜかそれを拒否する。
『すみません、そこのアンドロイドの方はすぐそこの保安検査場で検査を受けてください』
「あらあら、私ですか?」
『はい。アンドロイドの体内に爆発物やドラッグを仕込むケースがたびたびありまして、その検査にお付き合いいただきたく――』
「……お断りします」
メロウがそう言うと、審査官ドロイドの顔――があればの話だが――が険しくなったような気がした。
「うふふ、ここにはアンドロイド専用のX線検査機がないように見えます……」
『申し訳ありません。現在、資金難なことからそういった専門の検査機は導入してなくてですね。どうしてもというのであれば、コンテナ用の検査機もありますが……』
「……どうしてもですか?」
『どうしてもです』
「あらあら、わかりました。では、あれに乗ればいいんですね?」
『はい』
そうして俺とリンが保安検査場で持っている武器などを出し、宇宙服や着ている服に金属探知機らしきものをあて、さらにレントゲン写真らしきものを撮られていると、その横で本来であればバッグや荷物の中身を見るためのX線検査機からメロウの頭が出てくる。
「ぷ――! ぷひゃ――! ワロタ(笑)、スーツケースとか流すところからアンドロイドの頭が出てきたぞ。くっそ笑える。げらげら、俺人間でよかった~~!」
「お、おぬし……」
見た感じ、おそらくアンドロイドには人権がなく、荷物扱いなことからあのX線検査機で充分だと思われているのだろう。……しかし、これはおもしろい。
本来であればX線が漏洩しないための黒い遮蔽カーテンがぺろーんとメロウの顔にかかってるのもそうだが、何よりメロウの死んだ魚の目をしたような表情がとくにいい。俺は情報端末を持つとX線検査機から出てきたばかりのメロウを激写する。
「はぁ、めっちゃ笑っちまった。……って、なんかキレてね? 大丈夫か~、メロウちゅわんよ~」
「…………(ボキボキ)」
「イライラして指鳴らすのやめてね」
俺がメロウの顔の前で、見えてるか~とばかりに手を振ると、メロウが凄まじい力で指を鳴らす。
うん。これ以上、煽ると後で何されるか分からないのでやめておこう。
俺たちは提出した武器などを返してもらいながら、ゲートの前まで歩いていく。
『こちらは……見たことのない銃ですが、レーザーガンの類でよろしいですね?』
「あー……そうだ。そう記載しておいてくれ(……やっべ~~、実は荷電粒子砲ですなんて言ったら罰金ものだな、こりゃ……)」
『了解いたしました』
まさか、こんな拳銃の形をしているだけの大量破壊兵器だなんて思うまい。
だが、もしバレたら没収&罰金が科されそうなので、ここは嘘をつくことにした。
「それで、俺たちはこのままゲートを通過すればいいのか?」
『はい。このまま左手の通路を歩いていけば監獄エリアに行けます。その他、居住地区に用があるようでしたら右手の通路を進んでください。地下渓谷に出ると思いますので、そこからエレベーターで降りていけば着くと思います』
「親切にどうも」
『……ああ、それと、くれぐれも最下層には近寄らないように。地下鉱山の入口になっていて、最近また岩盤が崩落する事故が起きたので、行かないことをおすすめします』
物騒だな、などと思いながらも、俺たちは中に入ることに成功する。ゲートの脇には、左右に分厚い装甲服に身を包んだタイタン衛星保安隊の警備員が二人いたが、彼らは無言でロボットのように直立しているだけでこちらには見向きもしなかった。
「そういえば、武器とか没収されないんだな」
「今どき、傭兵から武器を没収するコロニーなんてほとんどないですわよ?」
「あらあら、コロニーの治安が悪ければ悪いほど、ゴロツキから自衛することを求められるので、大規模破壊兵器とかでなければ携帯できるみたいですね~」
「おぬしら遅いぞ! はようはよう! 消灯時間になってしまうぞ!」




