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宇宙放浪者ヘドロ!  作者: 村上さゞれ
第2章 監獄衛星タイタン編

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02_人狼ゲーム(おい、誰だシャワー使ったやつ)

「この中に、シャワーブースでおしっこをしている不届き者がいます」

「…………」

「…………」

「…………」

「正直に名乗り出なさい」


 それは監獄衛星タイタンへと向かう道中、バラムツ亜種を食べてケツ穴から油が止まらなくなった事件の数時間後、まだハイパースペースの中を宇宙船が航行しているときだった。

 副操縦席に座るのが、妓女ぎじょ見習いでオセロみたいな白黒の髪色と瞳をした女の子こと『リ・メイリン』。

 火器管制システムを操作できる左後ろの席に座るのが、長身のメイド服を着た巨乳アンドロイドお姉さんこと『メロウ』。

 そしてぺぇずり穴から下乳したちちの見えるワケわからん構造の成金令嬢みたいな服を着た金髪縦ロールの女が『シャロン・アルトマン』である。


「シャワーブースの排水溝がアンモニア臭いです。先生、怒らないから早く名乗り出なさい」

「…………」

「…………」

「…………」


 操縦席を後ろに回しながら、俺はまるで小学校の先生が帰りの会で犯人をさがすときのような言い方で、淡々と三人に問いかける。

 なおも沈黙を貫き、どこ吹く風な三人に対し、俺はついに烈火のごとく怒りながらリンに詰め寄る。


「リン、お前だろ! 正直に言え!」

「はぁ~~!? わらわ、シャワーブースでおしっこなんてしてないんじゃがぁ!?」

「この中の三人じゃ、育ちが悪いのお前だけなんだぞ! もう犯人って言ってるようなものじゃねーか!」


 しかし、リンはまるで冤罪えんざいだと言わんばかりに反論してくる。


「だいたい、わらわ以外の二人もシャワーを使っていたではないか! なぜ、わらわだけが疑われなくてはならんのじゃ!」

「そりゃ、お前、アンドロイドはおしっこなんかしないし……シャロンはこんなのでも社長令嬢だから、ちゃんとトイレ使うだろ」

「あらあら、私は排泄はいせつなんてしませんからね~」

「こんなのとはどういうことですの? ヘドロの中のわたくしのイメージ、ちょっと詳しく教えていただけますこと?」


 おい、無言で削岩ドリルのついた縦ロールをこっちに押しつけるんじゃない。間違えてスイッチが入ったら俺のっぺたに穴が開くだろ、やめなさい。


「まぁまぁ、ですがクソオスのご主人様も脱糞騒ぎのあった後、シャワーをお浴びになってましたよね? ご自身が犯人という可能性もあるのでは?」

「そうじゃぞ! ……はっ! もしや、自分が我慢できずシャワーブースでおしっこしたのを誤魔化すために、わらわに罪を押し付けるつもりじゃったんじゃな! なんて姑息こそくなやつじゃ!」

「ちっげぇ~~よ、バ――カ! 俺は人生で一度もうんちを漏らしたこともないし、浴室でおしっこだってしたことねぇよ!」


 依然としてフロントガラス越しに青い光が渦を巻き、宇宙船が滑るようにハイパースペースの中を進んでいく。航行中はシステムの負荷が極限まで高まるため、フライトエンジニアの席のコンソールだけが、警告の赤と緑のランプをせわしなく点滅させている。

 あわや殴り合いの喧嘩に発展しかけたとき、唯一、白が確定しているメロウが仲裁に入る。


「あらあら、うふふ。とりあえず、状況を整理するために現場に行くべきでは?」

「お~~し、白黒はっきりさせてやるよ。来い、ガキっ、大人の矜持きょうじってものを見せてやる」

「上等じゃ、わらわだっておしっこしてないこと証明してやるわぃ!」


 俺を含め四人がいそいそとシャワーブースのある浴室へと移動する。

 通路の壁はオフホワイトの耐熱性ポリマーで統一され、角はすべて丸く処理されている。居住空間を確保するため、私物は壁に埋め込まれた気密ロッカーに収納され、通路には余計なものが一切ない。そんな通路の一角にスライド式の気密ドアがあった。


 中に入ると、まず見えるのが狭い脱衣所とシャワーブースの扉だ。

 ブース内の壁面は、一切の継ぎ目がない抗菌性ナノセラミックで構成され、水滴を一切残さないように設計された表面張力の低いコーティングが施されている。四隅には排水と再循環のための排水溝が規則的に並んでいる。

 そこからぷ~んとアンモニア臭が立ち昇っていた。


「ほらな、臭いだろ? 誰かがおしっこしたのは間違いないんだよ」

「うぅむ」

「あらあら」

「ですわ――!」


 三人が白々《しらじら》しく反応するなか、メロウが口を開く。


「まず、最初にシャワーを使ったのは私です。少々、素体が汚れていたようなので使わせてもらいました」

「うむ。問題はその後じゃろ。わらわはメロウと入れ替わるようにして二番目に入った記憶があるぞ。パンツもそのとき洗った記憶がある。ちょいと……漏らしかけたからな」

「んじゃ、お前じゃねーか」

「違うわぃ! おぬしの後すぐにトイレに入ってセーフだったんじゃ! だいたい、そのときにおしっこは済ませておるから、シャワーブースに入ったときにはすでに膀胱ぼうこうは空だったんじゃぞ! わざわざ、ここで漏らしたりなぞするか!」

「となると……」


 俺たちはシャロンへと視線を向ける。


「あら、どうしてわたくしを見ているんですの? もしや、わたくしが漏らしたとでも?」

「だって、もう他にいないからね」

「爆笑ですわ――! わたくしがシャワーブースでおしっこを漏らす? 冗談もほどほどにパピプペポですわ――!」


 おーほっほ、と羽付きの扇子を手に、高らかに笑うシャロン。

 俺は仏頂面でそれを眺めていると、ふいに脳裏にひとつの光景が浮かび上がる。


「だいたい、刺客を撃退したときに一度シャワーを浴びてるのに、なんで入りなおしてるんだよ。中で何してたんだ?」

「そ、それは、髪に血の臭いが染み付いていて、気になって洗い流そうとまたシャワーを浴びただけですわ!」

「ふぅん……アッ、そういえば! 俺がシャワーを使おうとしたら、妙にブース全体が濡れてたんだよな。ここからは俺の推理になるんだが、犯人は用を足した後、証拠を洗い流そうと必要以上にシャワーヘッドを振り回したはず。つまり、俺の前に使ったやつがおしっこを漏らした犯人! ということは……!」

「そ、それは、すこしレバーをひねりすぎて水飛沫みずしぶきが豪快になっただけで、証拠隠滅したわけではないですのよ! ……ちょ、ちょっと、どうして三人ともわたくしを見ているんですの? わたくし、本当に漏らしてなんかいないですのよ! あらぬ疑いをかけるのはやめてくださいまし!!」

「いっそのこと自白した方が楽になることもあるんじゃぞ?」

「あらあら、まさかシャロンさんが犯人だったとは……」

「シャロン。我慢、できなかったんだな……」


 俺が同情するような眼差しでシャロンの肩にぽんと手を置くと、シャロンのひたいに青筋が浮かび上がる。


「はぁ~~!? 上等ですわ! 今から汚水槽を開けて、中にある尿をDNA検査にかけて誰が犯人なのか突き止めてやりますわ――!!」

「あっ、やめろバカ! 縦ロール振り回すんじゃねぇ! 宇宙船に穴でも開いたらどうすんだ!」

「まずい、猛獣がキレおった! もう手がつけられんぞ!」

「あらあら、うふふ。女の子を追い詰めすぎるからです♪」


 髪が赤くなり暴れだすシャロンに、俺とリンはなんとか削岩機ドリル拳法が炸裂しないよう四肢にしがみつく。

 しかし、犯人はついぞ分からなかったが、この中の誰かがおしっこをしたのは間違いない。

 ま、実は俺もシャワーブースでおしっこしちゃってるのは墓場まで持っていく秘密なのだが……みんなには内緒な。約束だぞ?


 そのとき、ハイパースペースから抜ける際のアラートが鳴り、俺たちは顔を見合わせる。慌てて操縦室へと行き、レバーを引き戻した瞬間、機関室からバスン、ボスン……と嫌な音が鳴り、俺たちはハイパースペースから吐き出されるのだった。



ちなみにメロウ以外の全員してます。だから臭いんだね。




追記。

この作品の短篇SSを書きました。

「美少女(大嘘)に折檻される話 in 宇宙船」

時系列でいうと、ちょうど第0話プロローグの直後です。ヘドロがいつもみたいに去勢されかけ、ゲロを吐きかけられ、下乳の蒸気で窒息する話です。

そちらも読んでいただけるとありがたいです。では~~。

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