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宇宙放浪者ヘドロ!  作者: 村上さゞれ
第2章 監獄衛星タイタン編

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01_ボルガ刑務所長(腐敗はワインとチーズとともに)


 所長室のドアは、分厚いオーク材で作られていた。

 表面は深々と磨かれ、暗いマホガニー色に染まっている。その中央には真鍮製のプレートが嵌め込まれ、宇宙汎用語で『所長室』の文字が威圧的に彫られている。


「ボルガ所長、入ってもよろしいでしょうか」

『いいぞ、入れ』


 赤いカーペットの敷かれた薄暗い廊下で、黒服の男が扉を叩くと、中から入室を許可する声が聞こえてくる。男が中に入ると、ふわりとディフューザーの香りが鼻腔を刺激する。

 重厚なオーク材と絨毯じゅうたんに囲まれた所長室は、監獄の喧騒とは隔絶した静寂に満ちていた。

 整理された巨大な机は所長の冷徹な秩序と権威を象徴し、囚人記録と贅沢な酒のキャビネットがその二面性を物語る。空気は乾燥しており、僅かに古い紙と皮革、そして薄い葉巻の香りが混ざり合っている。


「脱獄犯はほとんどが捕まりましたが、首謀者であるジン・ヒルだけがいまだ逃亡中です。賞金をかけ、猟犬にも追わせていますが、生死不明とのことです」

「ああ、だいぶ派手に脱獄したからな。だが、もういいんだ。賞金をかけられて逃げ切れたやつはいない。いずれまた、ここにぶち込まれるさ」


 所長と呼ばれた中年の男は執務机の向こうで――赤いワインの入ったグラスを片手に――つかみどころのない笑みを浮かべていた。

 その身体は、背の高い黒革の椅子に深く沈められ、その濃いグレーのスーツと一体化しているようにも見える。モジャモジャの灰色の髪とひげ、左目に片眼鏡をつけている。何より、所長の頭部には魔族のような漆黒の角が生えていた。


「以上のことから、猟犬による追跡を打ち切り、再発防止に努めるとともに、より一層囚人への監視を強化すべく監獄内のセキュリティシステムを一新することを提言します」

「ご苦労だったな。だが、まぁ、システムはこのままでいい。監獄を堅牢にする費用よりも、脱獄したやつに賞金をかける方が安上がりじゃからな。なぁに、『上』に上納金はちゃんと納めている。ワシの評価が落ちることはないぞい」


 ボルガ所長はグラスをゆっくりと持ち上げ、ごく僅かな力で回す。深紅の液体――おそらくは濃厚なヴィンテージの赤ワインだろう――が、グラスの内壁を這い上がり、鈍い電球の光を受けて一瞬、血のような暗い輝きを放った。


「つきましては、花街での売り上げも好調で、地下鉱山での採掘量も過去最高を記録しており――」

「うん、うん、ははは……まったく、笑いが止まらないのぅ。……食べるか? 天然物のチーズだ。合成ミルクでつくったものじゃない」


 小さな木製ボードの上には、深く熟成されたコンテチーズの塊が鎮座していた。チーズは蜂蜜色の濃いイエローで、切り口には時を経てできたアミノ酸の白い結晶がキラキラと光っている。


「いえ……自分は先ほど昼食をいただきましたので」

「ああ、お前じゃない。そこのペットに言ってるんだ」

「……ぅ……あ……」


 ボルガ所長はそれを銀製のフォークで刺すと、執務机のそばで倒れている鎖で繋がれた獣人の女の子に差し出す。だが、女の子は明らかに殴られたような痕がくっきりと残っており、割れて血のにじんだ唇が息をするたびに僅かに動いている。


「たす……け……て……」

「ふむ。まァいいか。美味うまいんだがなァ」


 それは所長御用達の奴隷だった。

 ストレス発散用として、子どもというのは彼にとってこれ以上ない道具だった。


「ところで」

「はっ」

「社会には奴隷とそれを使う選ばれた者がいるわけだが、ワシらはどっちだと思う?」

「はっ! 選ばれた者で……」

「ん~~?」

「いえっ! 私は奴隷です! 所長だけが選ばれた者だと、私は思います!」


 危うく地雷を踏みかけた黒服が急いで訂正する。


「そうだ。ワシ以外のやつらはことごとくが奴隷だ。法律の奴隷、親の奴隷、金の奴隷、時間の奴隷……俺は組織の奴隷ではあるが、そのほとんどから解放された数少ない選ばれた者だ。だから、選ばれたワシにはァ、他の奴隷を酷使するゥ、権利がァ、ある!」

「……ぁぁ……!」


 所長が磨かれた革靴でぐっと腹を踏みつけると、獣人の子どもが呻き声を出す。だが、それも構わず全体重をかけて踏み、オクラホマミキサーを軽く踊って何度かかかとこすりつけてから乗り越えると、所長はカレンダーの前まで歩いていく。


「さぁて、次の監査はいつだったかのぅ~。いつもの監査員なら、花街で良い思いをさせて金でも握らせれば、こちら側についてくれるんじゃが……」

「しょ、所長……最近、貧民街への課税が重すぎると、住人たちから非難の声が上がっています。一部、暴徒化して監獄への攻撃を企てる者も増えており……」

「ま、そのくらいなら大目に見ようじゃないか。いざとなれば猟犬を投入して鎮圧するし、なにより、ワシらには軌道爆撃兵器がある。いざとなれば、寄生虫みたく監獄にへばりついた貧民街スラムを爆撃してやればいいのさ」


 ボルガ所長は瞳孔の開いた目で口角を上げ、笑った。



一言。

第一章ラスボスであるジン・ヒル(強化発勁でうんこ漏らしたあいつ)があまりヘイトを稼ぐシーンがなかったので、第二章ラスボスのボルガ所長はがっつりヘイト稼ぐシーンを書いていくゾ~~。

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