26_原子力宇宙船(クラシックカーじゃないんだから……)
「これがわたくしの宇宙船『ORIGIN-900A-2』ですわ――!」
どのカテゴリーに属する船だろうか。
小型なのは確かだが、輸送船でもなければ採掘船でもない。少なくともSPACE CITIZENでは見たことのない船だった。白を基調とした流線形のその船は、タレット等の武装のほとんどを装甲の下に隠してることもあってか、ぶっちゃけ豪華クルーザーのような印象を受ける。
「な、んだこの……大企業の日焼けした社長だか会長だかが休日に美女を連れて乗ってそうな船は……こんなので本当に星系間航行ができるのかよ?」
「一応、ハイパードライブは積んでいますわ。ですが――」
中に入った俺はさらなる違和感に首を傾げる。
機関室が思ったよりも狭く、ジェネレーターではない謎の装置でぎゅうぎゅう詰めになっていたからだ。
「なんだこれ。なんで放射線注意マークが貼ってあるんだ?」
「あいにく、無毒無害なジェネレーターは積んでいませんの。代わりに原子力発電で動きますわ」
「げんしりょくはつでん⁉」
俺はその響きに思わずあんぐりと口を開ける。
原子力で動く宇宙船なんて見たことないぞ。出力、燃費、安全性どれをとってもゴミで、それこそ電気自動車の時代にクラシックカーを走らせるようなものだ。
「これはアルトマン・エレクトロニクスの初期ロットとして製造された船のひとつで、本来であれば博物館に寄贈される予定だった船なのですわ。ですが、一機あれば他はいらないということで、市場に出すことも考えたのですがそれも味気ないということで社用機として登録し、この格納庫に千年もの間眠っていたのですわ」
「千年⁉ よく形を保ってられたな⁉」
「もちろん、保管する過程で幾度となく経年劣化し、そのたびにパーツを取り寄せては修理して元の部品などとうに残ってはいないらしいですわ」
言ってることが本当なら、あのレンタル屋で借りた宇宙船の何倍もタチが悪い。そもそもSPACE CITIZENには原子力で動く宇宙船なんてものはなかったし、本当に動くのかすら怪しい。やはり、この話断るべきか。
「……っ!! お嬢様、たったいま情報屋から連絡が。『人狩り崩れ』がここニュクティモスに到着しているとの情報が入りました」
「ああ、残念。追っ手が来たみたいですわ。……さっ、名も知らぬ傭兵さん。ちゃっちゃと操縦席に座って、操縦してくださいまし? 今すぐここから脱出しますわよ――!」
「今すぐって言われても、なぁ……」
「おお、新しい船の操縦室か。ワクワクするのぅ!」
「あらあら、お怪我なさいませんように♪」
俺はなかば強引に操縦席に座らせられると、リンが副操縦席に、メロウが後ろの席に座る。金髪縦ロール女ことシャロンが俺の後ろに陣取り、執事が操縦室の扉の横で立っている。一応、ジェネレーターを起動する要領で炉心に火を入れると、機関室から凄まじい重低音が聞こえはじめる。
「一応、操縦方法は変わらないのか。ふ――ん、シールド耐久力もけっこうあって、エンジンの出力も申し分なし。挙動が若干遅れる寸胴タイプか」
「どうですの。このまま出発できそうですの?」
「まぁ、かなり念入りに整備はされてるのは感じる。たぶん問題ないよ」
――――パリン。
その瞬間、銃声が鳴ったかと思えば明かりが消え、格納庫内が暗闇に包まれる。
操縦盤のぼんやりとした蛍光色の夜光塗料の明かりだけが俺たちの顔を照らすなか、格納庫の開いた扉の中央で誰かが仁王立ちしていることに気づく。
「おい、誰かいるぞ」
格納庫の入口に、誰かが立っていた。
その誰かはゆっくりと背中に担いでいた何かを構えると、にやりと逆光の中でほくそ笑んだ。
「まず――⁉」
俺は即座にシールドを展開させると、直後、操縦室のフロントガラスにおびただしい量の銃弾が飛んでくる。ほとんどがシールドで弾かれたものの、その衝撃はあますことなく操縦室を横殴りの雨でも降っているかのような音とともに震わせる。
しばらくすると、シールドを抜けないことを察してかミニガンの銃身が回転をやめ、その誰かは懐からボール状の何かを取り出すとこちらに見せつけてくる。
「メロえも〜ん、あいつの掲げてるボールみたいなやつ解析してくれよぉ〜」
「あらあら、見たところ十中八九、反物質グレネードみたいですね。一度起爆すればどんな装甲であろうと消失させる、現代最強のグレネードです」
「こ、腰が抜けおった。だ、誰か、妾の手を……」
床でひっくり返っているリンは放っておくとして、メロウの話が本当ならまずいことになる。格納庫の出入り口を正体不明な誰かに封じられている以上、ここから出航することはできない。
続けて、ボールの持ち主はちょいちょいと船から出てくるように促すジェスチャーをする。
「降りてこい……って、あれどう見てもお前の刺客じゃないか」
「あれは会長の差し金ですわね。あの武器からして、おそらく『ミセス・トリガーハッピー』。アルトマン・エレクトロニクスの会長と裏で繋がっていると噂されていた人物ですわ」
操縦室内に重い空気が流れる。
だが、執事が操縦室から出ようと動きだす。
「お嬢様、ここは私が出ます」
「いえ、わたくしも出ますわセバスチャン」
「お嬢様……彼奴の目標はあなたです。ターゲットが自ら戦うなど……」
「おそらく、今のは牽制。わたくしも出ていかねば躊躇なく、やつは反物質グレネードを使うでしょう」
そのとき、ちらっと横目で俺のことを見ると肩に手を置いてくる。
「そういえば、あなたからは歴戦の傭兵としての風格を感じますわね。その装備からして只者ではないと見ましてよ?」
「フッ、俺も昔は戦場でヤンチャしたもんだぜ」
うっ、期待されるとつい見栄を張る悪い癖が――!
くそっ、大嘘に決まってんだろ、なに大真面目に信じてんだ。……昔? 大学サボってゲームしてました。それなのに戦場を駆ける歴戦の傭兵……ププ、脚色した自分の経歴がカッコよすぎて屁が出そうだぜ。
あっ、まずい。
俺は嘘をつくと鼻がピノキオみたく伸びる体質なのだ。このままだと、ば、ばれる――。
「ちなみに傭兵ランクはどのくらいでして?」
「ミ」
「ミ?」
「ミスリル」
「何をしょーもない嘘ついとるんじゃ、おぬしは!」
バシッとリンに後頭部を叩かれ、伸びていた鼻がにゅっと引っ込む。あっぱらぱー。今ので頭がバカになったらどうするんだ。
「あらあら、ご主人様はつい先日、傭兵になったばかりの新人ですよ。ランクはもちろんアイアンです」
「そうじゃぞ。こやつがミスリル級の傭兵なわけなかろう」
「ほ――ん、すごそうな装備は見せかけのメッキというわけですのね! 嫌ですわ――、わたくしてっきり格闘経験も豊富な殿方を見つけたと思いましたのに!」
「あぁん?」
嫌味を言われたことで、俺は思わず売り言葉に買い言葉でつい言い返してしまう。
「だいたい、なんだよその服。貴族令嬢みてーな服して、なんでぺぇズリ穴が開いてるんだよ。たいして大きくもない下乳見せびらかしやがって!」
「なっ……これはいま流行りの上流階級ファッションなのでしてよ? この良さが分からないとは、さすが下民! センスの欠片もなくてよ――!」
「えぇ……」
未来の宇宙ファッションってそんなことになってるのかよ。
バインバインとまではいかない、せいぜいぽよんぽよん程度の大きさの胸を精いっぱい強調しながら、シャロンは羽つきの扇子をパタパタと扇ぐ。
「ひとまずそのくらいで……お嬢様。ひとまず、私が彼奴と一対一でやってみます。可能であれば、その隙にお逃げください」
「わかりましたわ。ですが、必ず帰ってきなさい。わたくし、まだセバスチャンにはやってもらうことがありましてよ?」
「承知しております。では、行ってまいります、お嬢様」
生身の人間ひとり行ったところでミニガンで穴だらけにされるんじゃね――と思わなくもないが、出ていく以上何か策があるのだろう。俺はこっそりと銃火器のシステムをオンラインにすると、いつでも撃てるように操縦桿を握るのだった。




