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宇宙放浪者ヘドロ!  作者: 村上さゞれ
第1章 海洋衛星カリスト編

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23_進化促進剤(なんで魚に鳥の羽が生えてるんですか)

「お嬢様、もうじきカリストに着きますゆえ、どうか立ち歩かないようお願いします」

「お~ほっほ! この程度の旅路、わたくしにとっては散歩と同じでしてよ――!」


 輸送船の貨物室。

 非常灯の赤いランプのみが点く貨物室で、長い旅路の末にようやく船窓に青い衛星が見えてきたことで、コンテナの箱に腰かける金髪縦ロール(*縦ロールというのはこの場合、らせん状にツインテ―ルを巻いているものを指す)女は愉快そうに羽付きの扇子せんすをパタつかせる。


「太陽系から脱出する手筈てはずととのっております。彼奴きゃつらもまさかカリストに秘蔵の宇宙船があるとは思いませんでしょう」

「セバスチャンもよく頑張りましたわ。ここまでの脱出劇、あまりにも鮮やかでわたくしれしてしまいますわ」

「いえ、勿体もったいないお言葉。よくぞここまで耐え忍んで……すべてはあなた様による新たな企業の創設が――」

「ですが、レッド・リー様がいれば問題ないですわぁ――!」


 執事の老人の言葉をさえぎり、金髪縦ロールの女はいきなり懐からポラロイド写真を取り出すと、それにぶちゅう――とキスをした。そこには西暦1970年代に撮影されたカンフー映画の主役の男が映っており、金髪縦ロール女はその男にゾッコンらしかった。


「お嬢様、つきましてはあなた様の身柄を保護してもらうため、縁談の申し込みなどがいくつかありまして……」

「あら、セバスチャン。わたくし、カンフーもできない男には惚れないタチでしてよ?」

「ぐっ……」


 執事の老人はしばらく口をもごもごと動かしていたが、やがて諦めたようにして項垂うなだれた。


「いいでしょう。しかし、太陽系からの脱出は何としてでもしてもらいます。これはあなた様の母上のご意思なのですから」

「分かっていましてよ? ところで話は変わりますが、この使い捨てのスキルトレイナーどうしたものかしら。売るにしても社内の機密情報をふんだんに含んでいるし、闇市に流せば足がつきそうですわ」


 ポラロイド写真をしまった金髪縦ロール女が代わりに出したのは、何やら白く塗装された機械装置だった。噴霧器のようなノズルの生えたそれは、目にあてるためか突起したアルミ製の支えがついている。女はそれをくるくると手のひらで回すと、やたらと重量感のある縦ロールを手ではらいながら高らかに笑いだす。


「そうですわ、そうですわ! 意中の殿方ができたときにこれを使ってもらえばいいんですわ! な――んてわたくし賢いんでしょう! 自分の知能の高さにれしますわ――! お~~ほっほ!!」




    ***




 あの暴動のあと、俺たちはカリストに降下し、ネオ・サントリーニ島へと戻った。


 戦利品をもろもろ宇宙港で売り払ったあと、俺たちは厚手のコートでも買おうかとネオ・サントリーニにある服屋に出向いたのだが――しかし、カリストの自転軸というのは地球の約23.4度の傾きに対し、ほぼ0度で季節というものがない。

 サイコ社の巨大建造物メガストラクチャーによってある程度気温は平均化されているものの――地中海気候の春で固定されたネオ・サントリーニ島には冬服というものが存在せず、買うにはもっと寒い地方……言うなればもっと高い緯度にある都市から注文して取り寄せる必要があるとのことだった。


 そのため、俺たちは急遽きゅうきょ水上都市ニュクティモスへと向かい、そこにある服屋をめざして宇宙港に着陸した。そんな水上都市の人通りの多い、商業区画にて……。


「習字セットのドラゴンみたいな柄しやがって。だいたい、なんでチャイナドレスってのはぺらぺらのふんどしみたいなやつしかないんだ? 風でパンツめくれるだろ、これ」

「仕方ないじゃろ、これが見習いも含めた妓女ぎじょの制服なんじゃから。だいたい、宇宙船に乗ることを想定してないんじゃからな」

「あらあら、どさくさに紛れて通行人のパンツを覗こうとするのは、さすがにライン越えではないですか?」

「……ふっ、白。……あ――!」


 路上で寝そべり、道行く人々のスカートの中を覗こうとしていた俺の顔をメロウがかかとで踏みつける。眼球がミシリと潰れ、鼻が折れかける。……まぁ、ガキのパンツなんか見ても面白くないからね。仕方ないね。

 しぶしぶ起き上がると、俺はめり込んだ顔を元に戻しながら路上であぐらをかく。


「で、防寒着は買えたのか?」

「ああ、バッチリじゃぞ」

「ほーん、じゃあ見せてもらおうか」


 そうしてリンは紙袋から取り出した防寒着を羽織る。

 それは白黒モノクロのツートンカラーのチェスターコートだった。かなり高級そうな素材が使われているらしく、俺はにっこりと笑みをつくる。


「……で、いくらした?」

「ざっと五千エーテルじゃ」

「は?」

「しかも予備も含めて二着買ってしまった。おぬしも着ていいんじゃぞ?」

「は!?」


 合計で一万エーテル……百万円がぶっとんだことで、思わずガキのっぺたを限界までひっぱってしまう。


「馬鹿かてめぇ、高すぎだろ! 真性のバカなのか、それともアホなのか!? 死なないと治らねぇのか、ああ――――!?」

「ひっぱらひゃいで、の、のびる……」

「クソ、あまりにも買い物が長いからって途中で離脱するんじゃなかった……っていうか、メロウ、お前予算は百エーテルだって言ったよな!? なーに俺が信用してマネーパス預けたら、ちゃっかり超高級ブランドの服なんざ買ってんだよ!?」

「あらあら、聞きはしましたが了承したとは言ってませんよ? それに、女の子というのは着ている服が高ければ高いほど美しくなるのです。そう、これは必要経費で――」

「んなわけあるか! 返してこい、今すぐ返品してこい! こんなの無効だ無効! 高すぎるわアホ!」

「それがのぅ、買ったときに調整で袖を切ってしまったから返品は受けつけないそうじゃ。すまん。許してちょんまげ。てへぺろりんちょ」


 地面にうずくまり頭を抱える俺に対し、リンはご機嫌なのを隠そうともせず表面的に謝り、メロウはそんなガキをにこにこと眺めている。周囲では俺たちを避けるように人が行き交っており、どこか不審者を見るような目で見てくる。

 天然の島に街が形成されたネオ・サントリーニと違い、水上都市ニュクティモスは巨大浮体構造物メガフロートなだけあって高低差がない。まァ、ぶっちゃけて言うと郊外のアウトレットパークみたいな街並みをしていた。


「まだ借金五十万エーテルが残ってるのに……お前、マジで覚えとけよ」

「ふっ、また稼げばいいではないか。けち臭いやつじゃのぅ」

「あ? ムカつくから鼻クソつけたろ」

「や、やめんか! ああ――、せっかくの一張羅いっちょうらが!」


 ほじくりだした鼻クソをべったりとコートにつけると、俺は嫌がるリンを見てようやく溜飲を下げる。買ってしまったものは仕方がない。いつかこの借りを絶対に返させると決意しながら、俺はふたりを連れて歩きだす。

 商業区画を抜けて、埋め立て地の高層マンション群っぽい居住区画を抜けると、宇宙港が見えてくる。着陸料金と停留料金を合わせて一回五百エーテルとかなので、そこまで負担ではないが回数がかさむとそれなりに懐が痛んでくる。

 俺たちはそのまま宇宙船を停めてある格納庫ハンガーのある倉庫街に向かうため、その途中の漁港を通ることに。本来であれば市内へと向かう無人バスがあるのだが、1エーテルでもお金が惜しいため今は歩く。


「漁港らしいのぅ。海産物とかがここで獲れるらしいが、ちょっと何か買っていかないかのぅ?」

「お前、料理できるのか?」

「いや、できるわけなかろう?」

「じゃ、買うなよ。魚もさばけないカスが。俺も捌けないけど」

「な、なんか口が悪くないかおぬし。そんなにこの服の代金が気に入らなかったのか?」


 そりゃそうだろう。

 溜飲を下げたといっても、胃の中で怒りはいまだぐつぐつと煮えたぎっているのだ。何かの拍子で噴火してもおかしくない。とはいえ、徒歩ルートだと必然的に漁港の市場の中を通ることになり、俺たちは荷揚げされた新鮮な魚の並ぶ横を突っ切っていく。


「にしても、なんかキモイ魚多くねーか。このサンマみたいな魚なんか、胸びれの代わりに鳥の翼生えてるぞ。ピギーって鳴いてるし」

「それは進化促進剤があるからでしょうね。クソオス殺す。なんでもないです」

「進化促進剤?」

「ええ、テラフォーミングした星に生態系をつくるとき、基本的にはよその生命豊かな星から生態系を移植する必要があるのですが、そのとき彼らがうまく環境に適応できるよう進化促進剤と呼ばれるナノマシンをばらまくようです。クソオスいつか殺す。すみません、なんでもないです」

「それがどうして魚に鳥の羽が生えることになるんだ?」

「進化促進剤を投入したことで原初の生命のスープに近しいものとなった海では、遺伝子が混ざり合い染色体といった壁を越えて新たな種が生まれるそうです。まぁ、そのせいでまれに濃度を間違えてサンドワームやリヴァイアサンといった超大型種が生まれることもあるそうですが、そんなのは滅多に起こらない事故みたいなものですのでクソオス殺してやる気にしなくていいみたいですよ?」

「…………」

「あらあら、うふふ。すみません私ったら、オスの魚が多いせいでクソオスセンサーがびんびんに働いて心の声が漏れていたみたいです」


 にこにこと聖母のような笑みを浮かべながら暴言を漏らすメロウに、俺は同情するような眼差しを向ける。……ああ、こいつは人格の根本からミサンドリスト(男嫌い)思想に染められているから、もう救いようがないのだ。すべてはこいつを発注した団体の思うがまま、こいつは銀河中の男に対して毒をまき散らすのだろう。



「爆笑ですわ――!!」



 ……と、そのとき、遠くから魚市場に響きわたる場違いな女の声。



国際天文学連合(IAU)による公式な地名として『ニュクティモス』は登録されていますが、肝心のカリストのどこの座標かまでは調べても出てこなかったので、テキトーに緯度の高いどっかにあることにしました。まァ、これなんちゃってSFだからね。許してちょんまげ。てへぺろりんちょ。

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