22_いでぃおっと(俺は今日から共産主義者で女の味方のヴィーガンなんだ)
まぁ、去勢するのはまずないとして、正直こういう面白いひとたちのことを見るのは嫌いではないのでどうしたものかと頭を悩ませる。
……と、そのとき、これまた別の団体の女のひとがなにやら慌てた様子でこちらに走ってくる。そして、俺の腕をガッと掴むと、鬼気迫った顔で俺のことを見てくる。
「ちょっと、あなたまさか肉なんて食べてないでしょうね!?」
女性は牛柄の服を着ていて――って、全裸!? やだ、このひとたち全裸のボディにスプレーで牛柄のペイントをしているだけじゃん。ニップレス(乳首を隠すシール)が貼ってあるとはいえ……おほ~、合法的におっぺーが見放題だぜ。
「いや、実は僕も肉を食べるのをやめようと思っていたところなんです」
「ということは、今まで肉を食べてきたということですよね!?」
「はい、申し訳なさで胸がいっぱいで」
キリッと決め顔(自分ではかっこいいと思っている)をつくりながら、思ってもないことをその場のノリだけで喋ると、牛柄の女の態度が一変し、可哀想なものを見る目で見てくる。
「そうですか。無知だったのなら仕方ありません。ですが、合成肉や培養肉が何から作られているか本当にあなたは知っていますか? 合成肉は虫を繁殖させてパウダー状にしたものを大豆や小魚に混ぜた代替食品だからまだいいですが、培養肉は牛さんや豚さんといった家畜の肉を培養液に浸し、苦しむことも死ぬことも許されずにまるで癌細胞のように増殖させられているんですよ!? 可哀想だとは思いませんか!?」
「うんうん、ほんとですよね。僕もそう思います。ところで牛の恰好をしたセクシーなお姉さん、ちょっと連絡先を交換とかって……」
「おい」
「ご主人様――?」
「……いだだだだだだ!?」
俺が鼻の下を地面まで伸ばしながら、地肌に牛柄のスプレーを吹いているだけのエッチな格好のお姉さんと連絡先を交換しようとすると、リンが俺の脇腹をつねり、メロウが耳をひっぱってくる。
「なんだよ!? もうすこしで連絡先ゲットできたのに!」
「ご主人様が胸ばかり見るのは、まあ去勢の済んでいないクソオスだから仕方ないとしても、女性と連絡先を交換して一線を超えようとするのは許せませんわ?」
「そうじゃぞ。おぬしの行動は目に余る。すこし頭を冷やした方がいい」
「あっ、ちょっ……ひっぱらないで……!? 悪かった、お姉さんたちの胸見たのは悪かったから! メロウ、お前――俺の股間握り潰さないで!?」
ミシミシミシ――と股間を握りつぶす拳に力が入るメロウに、俺は半泣きになりながらも謝罪する。
だが、ふと考える。なぜ俺は付き合ってもいない女……それも他人のセクサロイドなんぞに股間を握りつぶされなければならないのか。リンも別に俺の情事を咎める資格はないはずだ。
「だぁぁぁあああ! 触るんじゃねぇ!」
気づけば俺は両腕をぶん回し、ふたりから距離をとっていた。ウルトラマンのように格闘ポーズをとると、ふしゃーと猫のように威嚇する。
「こ、こやつ反抗しおったぞ……」
「うるせぇな、俺は今日から共産主義者で女の味方のヴィーガンなんだよ。民主主義者で男で肉食うやつは死んだ方がいいよ?」
「い、いくら女好きだからといって自らの思想まで捏造するとは、どうかしておるぞ、こやつ……」
うるさい!
俺はその時々で一番都合のいい団体を支持する人間なんだ。ぶっちゃけ、美人なお姉さんのぺぇぺぇが見れればそれで満足なんだい!
「だいたい、俺が好きなのはボンキュッボンのお姉さんで……お前みたいな薄細チビでも、シリコン偽乳サイボーグでもないの! さっさと理解したら、ほら、邪魔になってるからどいて! 荷物持って! どっか行って!」
「こ、こやつ……」
「あらあら、うふふ……」
俺がまくし立てると、リンが絶句し、メロウが凄みのある笑みを浮かべる。
だが、今の俺は無敵だ。お姉さん方のぺーぺーを見たことで全身を全能感が駆け巡っている。
……と、そのとき、俺の後ろで蜂の種族のお姉さんが、ヴィーガン団体の女性のひとに話しかける。
「ちょっと、すこしいいですか?」
「えっ、はい、なんでしょう」
「さっき、虫をパウダー状にした合成肉を肯定していませんでしたか? それは我々、蜂人族に対する差別ですか?」
「えっ……?」
困惑するヴィーガンの女性に対し、蜂人族のお姉さんたちが訝しげな顔をしている。
「い、いえ、私たちはすべての肉食行為を禁止していますので、代替食品である合成肉もいずれは根絶すべきだと考えていますが……」
「ああ、ならよかった。我々は捕食者であって被食者ではないので。間違っても『蜂を食べる』なんて発言はしないように」
黄色にぬらぬらと濡れた槍が光を反射させている。
あれはおそらく毒液だろう。それも腐食性の強いもの。あれに触れれば人体なぞ簡単に溶けるだろう。
「も、もちろんです。いずれは光合成のみで生きていければと思っています」
「そこまでは言っていませんが……どちらにせよ男は役に立たないので、女性が働くべきなのは変わりないですがね」
「その発言チョット待って! あなた女性ですよね!?」
……と、そのとき、これまたフェミニスト団体のマダムが蜂人族《ヴィニ―》のお姉さんに食ってかかる。
「あなた、女性を強制労働させるつもりですか。それは聞き捨てならないですね」
「ええ、普通そうでは? むしろ、オスには女王蜂と交尾するという重要な役割があるではないですか。メスこそが社会の中核を担うのは当たり前の話では?」
「それは女性に対する人権侵害ですよ! 女性はね、男性よりも筋肉量が少なくて、月に一回女の子の日があって、守られなければならない存在なんです。あなた、この銀河でどれだけの女性が強制労働させられて命を落としているか知っていますか!?」
「はぁ……? 数でカバーすればいいだけでは? 現に我々は外敵との戦いにおいて、女性はみな名誉ある突撃を任されるのですが」
「なっ!? 強制労働だけならず女性を捨て駒に!? そこに女性の人権はないのですか!?」
なんだなんだと、広場にいた三つの団体がぞろぞろと中央に集まりはじめる。
「あっ、そこのアナタ! なに、肉なんて食べてるんですか! 蜂のひとを見習って花の蜜を食べなさい! 培養肉なんてダメですよ!」
「女性の権利は守られなければならないんです! 女の子に必要なたんぱく質を食べることの何が悪いんですか!」
「私腹を肥やす資本家階級は潰すべきだ! 政府の補助金に寄生する団体も同罪! すべからく潰さなくてはならない!」
互いの主義主張がぶつかり合い、さっきまで各々のデモをするだけに徹していた彼らが徐々に言い争いはじめる。合成肉は違法だの、女性は男性より優遇されるべきだの、共産主義こそが最も優れているだの。
「まずい、逃げるぞ。こうなったらもう止められない。関わらない方がいい」
「そ、そうじゃな。ちょっと空気も悪くなってきたしのぅ」
「あらあら、私としてはもうすこし見ていたかったのですが……」
こそこそと小声でリンとメロウに指示を出すと、俺たちはそろりそろりと忍び足で広場から脱出しようとする。そんな俺たちを無視して、言い争いはさらに過熱していき、ついには互いに唾がかかるほどの勢いで口論になると殴り合いの喧嘩に発展するのだった。
「我々は個であり群! 弱者は切り捨ててこそ群体は生きる!」
「野菜野菜! 植物植物植物! サラダサラダサラダァ!」
「いやぁぁぁあああ!! 女性はか弱い存在なの、非力なの、恵まれてないのぉぉぉ!! ギャオオオオン!!」
俺たちが慌てて宇宙港へと引き返す後ろで、ついに暴動が勃発し、連続して爆発が起きる。
殴り合い、蹴り合いの喧嘩上等な争いに、ついにはステーションの警備部隊が出動し鎮圧に乗りだす。だが、暴動の勢いは凄まじく半数が広場に突入できていない。続々と警備ロボットが広場を囲うなか、俺たちはその包囲網から何とか脱出すると、遠くからデモ隊を眺めるのだった。
「あーあ。お姉さんと連絡先、交換したかったなぁ……」
「人間とは愚かじゃのぅ。互いを認められないとは」
「あらあら、人間なんて所詮そんなものですよ? 期待する方がおかしいのですわ」
アンドロイドであるメロウにそう言われれば、もう否定はできまい。
「そういえば、お前を発注したフェミニスト団体ってあいつらじゃないのか?」
「いいえ、違いますね。彼らは女性の権利を奪還することを目標に掲げる『女性解放連合』という団体で、私を発注したのはこの銀河からオスを一匹残らず全滅させることを目標にしている『ザ・ミサンドリスト』という団体ですから。すこし団体の掲げている方針が違うのです」
「ふーん、難儀なもんだねぇ……」
俺は内心、ワンチャン自分が暴動の引き金になったんじゃね、という罪悪感を覚えつつも、遅かれ早かれこうなっていたかと自分を納得させる。そんななか、リンが爆発する広場を見ながらぽつりと漏らすように言うのだった。
「わったっ、ふぁっきん、いでぃおっと……というやつじゃな」
主人公がアンドロイドのメロウのことを「シリコン偽乳"サイボーグ"」と言ってますが、メロウは人間が義体化手術をしたサイボーグではありません。
これは美容整形をしすぎてロボット感がある女性のことをサイボーグと揶揄するネットスラングが出ただけで、実際にメロウがサイボーグなわけではないです。




