観覧車の幽霊
なろうラジオ大賞6 応募作です。
山間にある元テーマパーク、以前は賑わっていたそこは、今では訪れる人もなくそこまでの道はひび割れ所々穴が開いて、会場は生い茂った草に覆われ廃墟と化していた。
日が落ちて夕焼けで紫となった空をバックに観覧車が黒いシルエットになる頃、その下に一人の20代後半の男が立っている。
その視線の先には人型のモヤがあった。
「こんな所に女が一人なのは危ないよ」
からかうようにそう言うと、モヤが振り向くように動いた。
「あなた、私が見えるの?」
「見えるよ、こんな所で何してるんだ? ここはとっくに廃業してる、待ってたって観覧車は動かないぞ」
「・・・・・・ いいでしょ、ここが好きなんだから」
「ここが? 錆びてぼろぼろ、崩れそうな観覧車と周りは草ぼうぼうの風景が?」
「前は綺麗だったの! 辺りは花畑で色とりどりで、賑わってたのよ!」
「綺麗だったから未練があるのか?」
「・・・・・・・ その頃家族で来たことあるのよ」
「じゃあここにいるより、家族に会いに行ってやれば?」
「お父さんはずっと前に死んだわ、・・・・・お母さんは・・・・・私の事なんて」
「ん?」
「お父さんが死んでからお母さんは抜け殻みたいで、私が話しかけても全然・・」
「・・・・・・」
「家族でここに来たときは楽しかった、3人で観覧車に乗ってはしゃいで、下には大勢のお客がいて賑やかだったな」
「ここはいずれ取り壊されるぞ、崩れそうで危ないって話でな」
「何よあなた、さっきから・・何しに来たの?」
「俺は霊媒師だ」
「・・・・・・ 私を祓いに来たの?」
「成仏するか? それとも・・・・?」
「成仏したらお父さんに会えるかな?」
「そりゃどうかな? あの世の事は知らんし」
「もう! どうして会えるって言わないかな、 成仏させたいんでしょ!」
「嘘を聞きたいのか?」
「ム~~~~~~~ッ・・・・・・」
辺りはすっかり暗くなり、星が瞬きだし月の光で観覧車が青白く照らされている。
「・・・・・・じゃあ、観覧車に乗りたい、動くやつ」
「行けば?」
「自分じゃ動けないの! 連れてってよ」
「地縛霊か、 は~~~~~っあ」
「ため息つくな! できないの?!」
「出来るけどな・・・・・やれやれだ」
「ここからだと遊園地? どのくらいかかるかな?電車?」
「車がある、2時間ほどかな?」
「ドライブも良くしたな~、水族館や、いちご狩りとか」
長年のカンからこれは成仏を渋るタイプと思うが、それは後の話で彼は準備を始めた。