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三題噺もどき3

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくじゅうろく。

 


 波の音が心地よく響く。


 行き慣れた海岸に来ている。

 人がそれなりに来る海なので、正直綺麗とは言い難い。

 両親の実家がある島の海の綺麗さを知っていると、尚更。

「……」

 平日で、夏休みももう終わったこともあって、人影は少ない。

 時間的には、多少涼しくなり始めた時間だろうか。

 海からの風もあるから、丁度いい具合になっている。

「……」

 この辺りに住んでいる人なのか、愛犬の散歩をしている人がいた。

 かなり離れたところを歩いているが、アレはきっと大型犬だろう。リードを手に持っている人の腰のあたりまであるように見える。え、かなり大きくないか……。パッと見はハスキーとかに見えるけど、あまり詳しくはないから分からない。

「……」

 こうして遠くから見ると、大型犬とかは狼に見えなくもないよな……。ハスキーなら尚更そう見える気がする。シュッとした顔立ちはかっこいいと思うし、動画とかで見る分には可愛いと思えるんだけど……目の前にしてしまうと若干の怯えは否めない。

「……」

 まぁ、その怯えは、過去に大型犬に追いかけられたことがあってのことだろうけど。

 あまり記憶はないが、体が覚えているのか、どうしても引いてしまうんだよなぁ。……かなり幼い頃に、公園で放されていた犬に追いかけられたことがあったらしい。少し前までは小型犬でも若干引いてしまっていたから、結構な恐怖だったんだと思う。

 何もかも覚えていないけどな。

「……」

 自分の進行方向とは逆に進んでいく、散歩中の彼らを横目に、一人砂浜を歩いていく。

 何をしに、ここに来たのかという感じだが。

 まぁ、ちょっとした気分転換も兼ねて。

 写真でも撮ってみたいなぁなんて思い立って、ここまで来たのだ。

「……」

 高校の頃、写真部なんてものに入っていたものだから。

 一応、一眼レフカメラを持っているのだ。その当時ですでに型落ちのやつだったから、今じゃもうだいぶ古いタイプのやつだろうけど、趣味程度の写真しかとらなくなった今では、これでも十分だと思っている。

 あの頃から、これといった才能もなく、なんとなく撮った写真で何かの賞をもらったりもしたけれど、もうそんなこともなくなった今では、このカメラの活躍が徐々に減りつつある。あ、でもこの間、花火を撮ったりはしたな。

「……」

 目に映る風景を、何の気はなしに適当に。

 レンズで覗き、ピントを合わせて、シャッターを切る。

「……」

 撮れたものを小さな画面で見て、もう少し暗くしたいなぁなんて思って。

 設定を軽くいじって、もう一度撮ってみる。

「……」

 高校生の頃はなんというか、感覚に頼り切って撮っていたし、数打ちゃ当たるみたいな感じでいたが。最近は……まあ、花火は別だけど……なんとなく同じ風景でも自分の納得がいくように、撮りなおしてみるなんてことをようやくするようになった。毎日のように写真を撮っていた高校生の頃にしておくべきなんだけど。あの頃はまぁ、ホントに。楽しいだけで撮っていたからなぁ。それでも、割と気に入っている写真はあるのであの頃はそれでよかったんだと思っている。

「……」

 基本的には、人を撮るのが好きなんだけど。

 というか、家族を撮るのが好きだったんだけど。

 もう、家族みんなでどこかに行くなんてこともそうそうなくなってしまったから、撮ることがなくなった。

 だから、ではないけど、花火とかこういう海とか空とか、風景を切り取ることが好きになりつつある。

「……」

 今日もこうして、一人で海に来て。

 カメラを首に下げて、一人で歩いて。

 レンズ越しに覗いて、一人で撮っている。

「……」

 目の前には薄明光線が広がり、海との美しい景色を作り出している。

 降り注ぐ光は、キラキラと海を輝かせて、眩しいほどの景色が広がる。

 それを、レンズの中に閉じ込めて、シャッターを切る。

「……」

 海に来たところで、心が洗われるとか、自分がちっぽけに感じて悩み事がどうでもよくなるとか。残念ながら、そんな効果は感じられなかったけど。

 まぁ、この景色を見て、撮って、なんとなく満足のいくものができたから。

 今日はそれでもいいかもしれない。






 お題:薄明光線・才能・狼

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