02.夏の終わり
『夏の終わりのその終わり
光の神の眠るとき、
夜じゅうランプの明かりをともし
ごちそう囲んでダンスを踊る』
いたるところから、子どもたちの楽しそうな歌声が聞こえてくる。街じゅうにオレンジの光が灯り、夜だというのにずいぶん明るい。光に照らされて、暗い砂漠の中に、建物たちが浮かび上がっていた。
夏の終わり。
今日はこの大陸じゅうで、そう呼ばれる祭りの夜だ。どこもかしこも、夜通し明かりをともし、この祭りの夜を祝うのだ。
収穫された作物や、屠殺された家畜の肉なんかが並ぶテーブルを囲い、人々は団欒する。陽気な音楽が鳴り響き、華やかな一夜を過ごす。
「わあ、すごいごちそう!」
「光の神さまがお眠りになる日だからね、腕によりをかけて作ったのよ。ほら、神さまにお礼をしましょう」
「はーい」
家の中から、親子の話し声が聞こえてくる。
その声に、フィはいつかに思いを馳せた。
フィも幼いころ、父母とこうして一夜を明かした。一年で一度だけ、夜更かしも許された夜だった。
「夏の終わりのその終わり……」
遠い異国の地でも、歌は同じだ。
この夜が明ければ、長い冬がやってくる。
光の神の加護のない冬は、フィたちにとっても厳しい季節だ。
フィは思わず立ち止まった。
「フィ様?」
先を行っていた少年――オクルが、振り返って声をかける。
彼は、フィと共に旅をする仲間だ。
出会いは2年程前。フィがハガラズ王国近郊に立ち寄った時に、街道沿いで拾ったものだ。
以来、フィが育て、共に旅をするようになった。今では大切な相棒のような存在だ。
旅を始めてから、もう4年が経とうとしている。
祖国には一度も帰っていない。
目深に被ったフードの下から、心配そうに見つめるオクルに首を振って見せて、フィはまた歩き出した。
「なんでもありません。急ぎましょう」
「うむ」
街じゅうに明かりが灯る夜、細い路地裏も、明るく照らされている。
家々から陽気な音楽が鳴り響く中、二人は手を取り合って、影になっている道を選びながら進んでいく。
入り組んだ建物の隙間を縫って、大きな排管を超える。
地下の水道を渡り、窓の下を腰を屈めて通る。
曲がった道の向こうから、金属の擦れる音が聞こえて、フィはオクルの肩を叩いた。
唇に指をあてて、息を潜める。
建物の陰から覗けば、兵士が二人ばかりいた。
「いたか!?」
「いや。そもそも、怪しいやつを探せ―って、隊長殿は一体なにを追えっていうんだよ」
「そういうなって。なんでも、王城に立ち入ったとかいうじゃないか。王家への反逆者を捕まえろ! なんて、なんだかワクワクするだろう!」
「お前はいいよな。純粋で」
「なんだよ」
若い兵士たちは、金属の甲冑に身を包み、腰に剣を差している。
けれど、見た目のわりには身軽そうだ。
フィとオクルは視線を交わし合って、その場からそっと離れようと、細い道の奥へ足を向けた。
ぐう。
「!」
「!?」
フィの腹が鳴った。ぽぽぽ、とフィの顔が赤く染まる。
「フィ様、走るぞ」
オクルがフィの手を取って、小道の奥へ走り出す。
足をもつれさせつつも、フィも続いた。
「誰かいるのか!」
後ろから、兵士の声が響いた。
ひらりとマントが風にたなびく。
フィとオクルは地下水道へ身を潜めた。
重い足音が通り過ぎていく。
それはフィにはとても長い時間に思われた。