00.草創
語らん。
隠されたこの世界を。
遺された彼らの物語を。
この社に集った彼らの日々を。
語らん。
彼らの来た道を。
そして進む道を。
この物語を。
始まる今日の平らかなるを願って。
訪れた昨日の安らかなるを願って。
見つめる先に光射すことを願って。
とある神社の裏手、人々に忘れ去られたその深い森の奥に、小さな社が一つ。
鳥居を抜けた先、人ならざるものたちの住まうその地を、誰かが「あそびの社」と呼んだ。
❀❀❀
10月31日。
夏の終わる日、物語は始まる。
この世界は、大きな一つの大陸がそのほとんどを占める。
父なる海の中に、母なる陸が浮かんでできたのが、この世界だ。そう信じられている。
その大きな大陸の中に、25の小国がひしめき合い、時に争い、暮らしている。
フィは、そんな大陸を旅する「冒険者」だ。
旅の途中で出会ったオクルと共に、各国を巡っている。
この度やってきたのは、大陸の北に位置する一国。ハガラズ王国。通称、「機械の国」。
オクルの生まれ故郷である。
「フィ様」
宿屋の窓から道を見下ろすフィに、オクルが声をかけた。
フィが振り向けば、昼食用のパンとスープをお盆に乗せたオクルがドアの近くに立っている。
フィは促されるままに、窓から離れ、食卓についた。
オクルもフィの向かいに座る。
スープの入った陶器の皿に触れて、フィはほっと息をついた。
かじかんだ指先がほぐれていく。思いの外、気を詰めていたらしい。
「……今晩、ですね」
「そうじゃな」
フィのつぶやきに、オクルは頷いた。
陽が沈んだら、作戦の決行の時だ。
外からは子どもたちの声が聞こえてくる。
――夏の終わり。
今日はこの大陸じゅうで、そう呼ばれる祭りの日だ。数時間もすれば、街は橙色の光に照らされる。
どこもかしこも、夜通し明かりを灯して、この祭りの夜を祝うのだ。
フィたちは、その祭りに乗じて、この国から脱出する。
「大丈夫じゃ。なんとかなる」
「……そう、ですね」
フィは協力者たちのことを思い出していた。彼らは無事だろうか。
フィは胸元のペンダントをぎゅっと握った。