獅子雷帝
「クソゥ、行くぞ、アークセイバー!」
次元の狭間を駆け抜ける一体の獅子。その後を追う、異形の者たち。逃げ切れないことを悟った獅子が振り向く。
「アークゲート オン・・・チェンジ アクロ・クロスタード!!」
足元に出現する文様。そして、光を纏い姿形を変える獅子。光が辺り一面を包み込む。
朝の陽射しが気持ちいい。夜剣廻の一日が始まる。昨日の件でベルナールに聞きたいことがあるが、そんなことよりもまずは目先の問題である。ナツキのことだ。ここ二日、主にベルナールのせいでナツキの機嫌は悪い。あまりにも廻との時間が少なかった(はたから見ればそうではないのだが)のが彼女を不機嫌にさせている。
だが、今日は土曜日。学校もなく、ベルナールの呼び出しもない。そう思っている廻に来る電話。携帯を取り画面を見る。知らない番号が表示されている。取り敢えず出てみる廻。
「もしもし・・・」
「あぁ、おはよう廻クン。いやーいい天気だねぇ」
あろうことかベルナールである。迷わず通話を切る廻。そして携帯の着信拒否をしようとしたところに家のチャイムが鳴る。父母、そして兄は各々の用事で朝からいない。嫌な予感を感じながら開けて見ると、
そこにはスーツ姿の白髪男がいた。
「いやー、廻クン。ごきげんよう」
「こっちは全然、ご機嫌じゃないんですが…」
イライラする廻。その廻を見るベルナール。
「んんーー?あぁ、君の愛しのナツキクンも呼んだから安心してよ。では、入ろうか」
さも、自分の家かのように侵入するベルナール。ため息をつく廻。
聞いたところによると、廻、ナツキに担任が配り忘れた進路の紙を届けに来たらしい。ナツキをこっちに呼んだのは単に面倒だったからだという。
「いやーー、わるいねぇナツキクン」
悪びれた様子のないベルナール。ナツキは冷ややかにその男を見る。
「申し訳ありませんが先生。これから廻と予定があるので帰っていただけませんか?」
さっさと消えろ、このヤロー。私と廻の時間をつぶすな、失せろ。目がそう語っていた。それでもなお、にこやかなベルナール。
「若いっていいねぇ、僕にも昔は・・・」
急に遠い眼をするベルナール。だが、それも一瞬で消える。
「おお、そうだ。そんな若い二人に」
懐から二枚の紙を出す。それを見ると、
「プールのただ券?」
「いやぁ、あったのを忘れていたんだ。早くつかんなきゃいけないんだが二人で行ってらっしゃい」
そう言ってさるベルナール。
五月だとまだ少し肌寒いがまぁいいだろう。何故なら、彼女は嬉しそうに顔を輝かせているのだから。
準備をして自転車でプールに向かう二人。三上崎一デカイプールで評判の場所が目的地である。廻は運動がからきしダメなのに、足の速さは陸上部員も真っ青なレベルであり、自転車をこぐことにもそれが現れていた。そのため彼女を置いて行きそうになり、怒られる廻。
プールに着いて、さっさと水着に着替える廻。泳ぎも特別できるわけでもないが、仕方がない。楽しめればそれでいい。
しばらくしてナツキが来た。赤い水着で少し、露出が多く感じられた。彼女は付図かしく、おずおずとこちらを見てくる。廻は廻で、頭がそれでいっぱいになっており、ぎこちなく彼女の隣に行った。
その後は廻もナツキも気にせずに夕方まで楽しく過ごした。満足げな彼女の顔を見て癒される廻。
ナツキの家の前で別れて帰宅する廻。父母はいないが、珍しく兄がいる。
「遅かったな、廻。飯はもうできてる。食うだろ?」
エプロンをしている兄、奏。若干シュールだが、兄のためにそれは言わなかった。
「うん」
そう答える廻。
そして、テーブルに置かれた兄の用意した晩御飯に手をつけようとしたその瞬間に。
吹き飛ぶテーブル。そして。
倒れている、一人の少年がいた。
驚く廻。
「取り敢えず、生きているか?」
冷静な兄。少年の腹が鳴る。
「腹、減ったーーーーーーー」
低温の絞り出すような声を上げる少年。