運命の日
突如、奔る光の矢。迫る、化け物。
僕の一日は厭な夢から始まった。リアルな夢。一体何なのだろう、と思う。だが、飽くまで夢だったと思うと、僕はベッドから起き上がる。階下のリビングに行く。もう、明るくなっている外。だが、時刻はまだ、5時過ぎだ。
リビングに行くと、兄がいた。ノートパソコンをカタカタと鳴らしている。
夜、寝るのも遅い兄。一体何時間寝ているのか。それも謎。ブラックボックスの多い兄。
「起きたか、廻。おはよう」
「おはよう、兄さん」
いつもの会話。僕はそこで読みかけの本を読み始める。
ふと、兄が僕を見る。
「今日は、何日だった?」
「今日は5月の13日だけど」
どうかしたのか、と聞くと、いや、と首を振る兄。
「少し、ね・・・」
そう、と聞き流す僕。僕は気付かなかった。こちらを見る、兄の視線に。だが、飽くまで僕は気付かない。兄の瞳は遠い過去を見ていた。
朝食を終え、着替えをすると、チャイムが鳴る。玄関に走り、扉を開ける。
茶髪を揺らす、少女。若干仰ぐ形になる廻。
「おはよ、廻」
「おはよう、ナツキ」
毎朝恒例となったそれ。二人はそれを交わす。キス。短い時間。両親も、兄も見ていない。と、思いきや…。
「青春だな、廻」
いつの間にか後ろに立つ奏。驚き、跳ねあがる一組のカップル。
「今を噛み締めておけ、廻。いつ、幸せが離れるかわかったもんじゃない。ナツキもね」
二人の肩を叩き、諭すように言った。カラカラと笑う兄。それは冗談に聞こえたが、わからない。今日の夜剣奏は何かおかしい。
「珍しいね、こんな時間に・・・」
いつもなら、まだ、家に居る兄。
「少しな」
真面目な顔の奏。廻は何をそんなに深刻にさせるのか、と疑問に思った。しかし、あんまりナツキを待たせるのも悪いと思い、支度をしに、二階の自室に戻って行った。
ナツキといつものように、学校の道のりを歩く。それなりに時間がかかるが、彼女たちにとってはそんあことは関係ない。
学校に着くと、同じ教室、2-3の教室に入る。席も窓側の後ろ、隣同士の場所。学級委員長である、親友の計らいだ。
「相変わらずだな、夜剣、エリクセン両名」
吉田 中臣。黒い髪の黒ぶち眼鏡の長身の男子。廻の無二の親友にして、学級委員長、そして水瀬高校生徒会副会長。時期会長とも言われている。
「知っているか、両名。今日、新任の教師が来るらしい」
情報通の彼。冷静で成績もよく、気が利く。女子にはそれなりにモテテいる。実際いいヤツで、廻も親友と言ったら、彼以外に思い浮かばない。
「へぇ、昨日そんな話聞いてないな」
行き成りすぎると思う。ナツキも知らない顔だ。
「あぁ、そうだった。夜剣、先生が呼んでいたぞ」
何の用かと思いながら、職員室に行く。
「あぁ、夜剣。来たか」
担任の初老の教諭。人はいいが、少しまどろっこしい喋りで定評な、教諭だ。
「クラーク先生!」
担任が見慣れぬ外国人に言った。その人物はこちらに来る。
「君が夜剣廻クンか、はじめまして、今日からここに赴任したクラーク・ベルナールです」
白い髪の、黒い瞳の男。30代前半、いや、20代後半か、それぐらいの男。
「いやぁ、似ているねぇ、奏に」
どうやら、兄を知っているらしい。長い付き合いなのか、僕は聞くと、目を細める、男。
「そう、永い、永い付き合いさ…」
突如、奔るノイズ。耳を抑える。目の前の白髪の男は笑う。
「螺旋を超えてみせろ」
聞こえた声。目の前の男からのものか?目前の男はただ、薄ら笑いを浮かべている。
僕は逃げるように、職員室を後にする。
運命は刻刻と迫っていた・・・。